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(馬鹿がきた事によって被害が出た。)

閉鎖的な学園に嵐が到来してきたのは二週間ほど前のことだ。


どんな奴がくるのかと色めきたった生徒たちの前に現れたのは、


「新しく転入してきました神田秋かんだ あきっていいます!!よろしくなっ」


普通に笑顔がいいなって感じの明るい生徒。

くりくりとした大きな目に小さな背。まあ普通にしていれば結構人気が出るような生徒だった。まぁ人気といっても野郎連中からの人気ではあるが


だがそんな印象を吹っ飛ばすような出来事はすぐ起こった。


猫田ねこたあぁぁあ!!聞いてくれよ…俺さ、神田と同室になったんだ…っ!」


「うん?それがどうかしたの?」


前の席のやっぱり比較的目立たない生徒、志摩しまがだらんと椅子に体を預けてごち、と頭を机にぶつけた。普段から覇気のない穏やかな志摩が、さらに影を背負って覇気がないではないか。


「あいつ生徒会とかかわったらしくてさあ!!もう俺どうしたら…」


心なしか頬をやつれさせて頭を抱えて嘆く志摩。

問題の神田は転入当日食堂でなぜか副会長に名前呼びで絡まれて、その後双子を見分けて、えーとなんだっけ?まあなんかこの学園で絶対的な人気を誇る生徒会連中を虜にしたらしい。


俺が見たのは自分を俺様と呼ぶちょっと頭のイタイ生徒会長がその神田に食堂でディープキスをかましたことだけだ。


飯を食っているときに他人の、しかも男同士のディープキスなんて見せられた俺と俺の友人はいい迷惑だ。


何が悲しくて「んぅ…っは、んっ」なんてあえぎ声聞かなきゃならんのだ。

キスの後神田は生徒会長をぶん殴って逃走した。

それはそう、そのリアクションが正しい。俺なら金玉を蹴り上げるだろう。普通に強制わいせつ罪か痴漢だ。


「うーん…僕には対処しかねるなぁ、それに僕、生徒会の皆様のファンだもの」


「……嘘こけー」


志摩は完全に白けた目で、じっとりとこちらを睨みつけてくる。それに俺はにこりと寸分違わぬ笑みを浮かべた。

失礼な、好きだよ。牛乳濡れ雑巾の次ぐらいにはな。


この学園は、その特殊性ゆえか、容姿のいいものをアイドルのようにもてはやすような習慣がある。

そして人気のある生徒にはファンクラブという名の親衛隊ができるのだ。


その人気者に近づく者には制裁を、というのがルールらしいが…。

またそれは規模のでかいものから小さなものまで。、過激派から穏健派まで多種多様だ。ジャ〇ーズか。

制裁されたくなければ人気者には近づくな、これがこの学園で平穏に過ごす暗黙のルールなのだ。



過去にこれを無視した、あるいは親衛隊の勝手により制裁されたものは殆どが自主退学まで追い込まれている。


まあ相手を崇拝するもの、ミーハー心で追いかけているもの、さまざまだが深入りするといい事はない集団だ。そんなものに俺は多数入っていたりする、理由はまあうんぬんかんぬん。


「あっ幸助こうすけー!!!」


「げっ…よ、よう神田」


「あー秋って呼べよ!!」


志摩の席にルンルンで飛んできた神田。

そこまで張り上げなくてもいいんじゃないの、と思うほど大きな声に志摩の顔がひきつる。志摩のいい所は、素直に勘定が表情に出るところだ。


(うっせーこいつ声でけえ、コイツ一生拡声器とか使うことなさそう。)

 

もうおわかりだとう思うが俺は「僕」だ。決して自分の内なる黒が心の中でしゃべってて普段は内なる白が表人格だとか……そんな中二設定はない。


ただ世の中要領よく生きる為に単に人受けのいい面をかぶっているだけの話だ。

特にこんな学園なんかじゃ個性出した途端なんか変なのにつきまとわれることになるのがオチだ。

坊ちゃんたちはそんなに普段から刺激のない生活を送っているのか、何かと刺激的な「コンテンツ」を求めているのだから。


志摩にまとわり着く神田は馬鹿丸出しだし、たった数日でクラスの奴等も神田がろくでもないトラブル製造機だということを理解したのか、神田に近づくものはいなくなった。


それから直ぐに神田はどこぞのギャルゲーの主人公のごとく次々とイケメンを落としていくわけだが、運悪く志摩の同室者が釣られてしまった。

一匹狼の八重だ。

一匹狼…んふ…っ、ふふ…っだっせぇ…。


志摩も運がない。

まさか誰も通常の二人部屋が異例の三人部屋に変わるなんて思いもしなかったろう。


必然的に同室者の志摩にも被害が及んだが人のいい志摩だ。神田を拒みきれず一緒に仲良くファンの奴等から鋭い眼光を受けている。


簡単に人を退けることもできない志摩はいい奴だ。

俺なら即効で神田ファンに差し出すけど。



「まあ自分が一番可愛いっつんだよねぇ」


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