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侍女ジェニファー劇場

作者: 広峰

突然閃きましたので、低クオリティーかも知れないまま投稿してみます。勢いです。

 私の専属侍女のジェニファーは、おかしなもの好きの笑わせ上手である。

 もし乳姉妹の彼女がいなかったら、とっくに私、イザベラ・オコールドは嫌なひねくれ者の伯爵令嬢になっていただろう。


 病気がちだったお母様が、私が七才のときに儚くなってしまってから、寂しさに荒れる私を何とか慰めようと、彼女はそれはもう色々なことをしてくれた。


 例えば、両手で頬を潰す変顔だったり、おかしな節回しでポンポコリン言う歌だったり、後ろに歩くような見たこともない踊りだったり。


 毎回、突如「閃きました!」と叫んではおどけて、私を笑わせてくれて、そのたびに私は少しずつ笑顔を取り戻し、元気をもらった。

 そうしていくうち、どんどん私を笑わせる技を磨いたジェニファーの笑わせ術は、しまいに物真似に行き着いた。


「イザベラお嬢様、新ネタです。この前閃いた恋愛小説の真似します!」

「恋愛小説? いいわね、やってちょうだい」

「はい。いきますよ!」


 ジェニファーはふんす、と鼻息荒く気合いを入れた。きりりと顔を引き締めて、その場でくるくる二回転する。そして効果音を自分で言って、更に低い気取った声で台詞を吐いた。


「クルクルースチャッ、ビシッ。『君、ハンカチを落としたよ。気をつけたまえ』」


 パッと差し出すハンカチ。それからタタタと早足で反対側に立ち、位置を変えて、胸の前で両手を組んで、あざとい裏声を出した。


「『まあ、ありがとうございます。なんてお優しい方』ウルウル、ポッ」


 台詞がすむとさっと立ち位置を元に戻す。


「『どちらのご令嬢かな。名をきかせてくれないか』キラーン」


 また、さっと立ち位置を変える。裏声。


「『マリーと申します、オズワルド殿下』キュルルン。はあと」


 立ち位置が戻る。ジェニファーは酔っ払ったみたいな怪しい目付きをして見せた。


「『マリー、可憐な君に良く合う愛らしい名だ』てんてんてんまる」

「ブホッ。やめて、その気持ち悪い目付き。何よ、そのクサい台詞!」


 私はお腹を抱えて笑い転げた。

 ちなみに、わが国の王太子もオズワルドだ。何気に不敬だが、遊びで単なるお芝居である。


 これに気を良くしたらしいジェニファーは、このマリーとオズワルド王子シリーズを定番のレパートリーとした。




 ある日、我が家に分家筋から養子が来た。

 私とそう年の変わらない、とてもきれいな顔立ちの男の子だ。

 我が家は子供が女の私しか居ないのだから仕方ない。未来の跡取り要員というわけだ。


 お父様は一言仲良くするように、と告げたきりあとは放置である。お忙しいのは分かっているが、放って置かれる方は困るのである。

 紹介するだけして、早々に仕事へ行ってしまったお父様を恨みがましく思いつつ、挨拶した。


「私が姉のイザベラよ。よろしくね」


 なるべく優しいお姉様を心がけて微笑むと、義理の弟はおどおどしながらこっくり頷いた。


「……よろしくお願いします。アランです」


 そして沈黙。なぜか目を合わせようとしないし。じっと見たら、アランは下を向いてしまって微妙な雰囲気になった。この子めっちゃ暗いわ。


 と、ここでジェニファーが突然手を挙げた。


「お嬢様、唐突ですが閃きました!」

「な、何?」

「劇します!」

「はあっ?」

「気にしないで。良くあることよ」


 アランは初めてのジェニファーの奇行に驚いていたが、私は慣れたものである。


 ジェニファーはお仕着せのエプロンをばっと外して、床に投げつけると片足を乗せて踏みにじった。裏声でまくしたてる。


「『この、阿婆擦れの子のくせに! 生意気な!』よいしょ、ドカッと」


 エプロンを蹴り飛ばす。それから立ち位置を反対側に変えて跪くと、エプロンに覆いかぶさった。


「『やめて下さい、アランは何も悪くありません』よよよよ」


 泣きマネして片手で目をこすり、ぐすんとやった後、元の位置に行って仁王立ちになる。エプロン辺りに指を指す。


「ギロリ。『泥棒猫め、お前はクビよ! そうだわ、その子は余所にやってしまいましょう。本家で養子を探していたわね。ちょうど良いわ!』」


 くるっと反対を向いてまたしゃがむ。


「『そんな、お許し下さい~アランー』よよよよー」


 気がつけば、アランは涙を流していた。


「えっ、アラン? どどどどうしたの? ハッ、これはお芝居よ! こんなレベルで感動しないで! ものすっごい下手くそじゃない!」

「お母さん……ううっ」


 アランは本格的に泣き出してしまった。私がうろたえながらジェニファーをみると、彼女は神妙に頷いた。

 えええー?


「まさか、本当にこんなだったりするの? ちょっと、お父様! おとーさまあ!? ちっ、使えない父親ね!」


 アランのお母さんは、私のワガママで分家筋から召し上げて、我が家で働くことになった。

 何やら恩義に感じたらしく、アランは私に懐いてくれた。





 十四才になった。

 誕生日プレゼントにアランが世界面白こぼれ話の本をくれた。


「まあ、アランありがとう。読みたかったの。嬉しいわ」


 笑顔で受け取るとアランがポッと頬を染めた。


「喜んでもらえて良かった。お姉様の笑顔は本当に美しいです」


 ニコニコしているアランのほうがよっぽど綺麗な顔をしている。美少年から美青年へのあり得ない橋を、難なく渡り途中の義弟である。

 ススス、とジェニファーが近寄ってきた。


「お嬢様、お誕生日おめでとうございます。来年は王立貴族学園に入学ですね。そこで新作! 閃きました! 披露いたします!」

「おおー」

「待ってました」


 今では、私だけでなくアランも彼女の物真似劇を楽しみにしている。私達は拍手した。

 ジェニファーはコホンと咳払いしてお辞儀した。そして。


「『イザベラ・オコールド伯爵令嬢。私、オズワルドは貴様との婚約を破棄し、マリー・アトワネエゾ男爵令嬢と婚約する!』」


 偉そうにジェニファーは小さめの胸を張った。


「ふわっ」

「は?」


 私とアランの目が点になった。いや、私の名前使うの? 他に無かったの?


「しっ、まだ続きますよ。『お前は、私のマリー嬢に入学時から今日に至るまで嫌がらせを続け、更には階段から突き落とし危害まで加えた! 貴様のような女が王族に加わるなど言語道断。恥を知れ!』」


 ジェニファーはちょっと横にずれて、上目遣いになってあざとい裏声を出した。


「『あの、オズワルド様、私、ひとこと謝っていただければ良いのです。そんなに怒らないで』ウルルン」


「……うわあドン引きです王子」

「……今回のマリーは一段としょっぱいわね」


 私達の評価は低い。回を重ねれば段々と目が肥えてきてしまうので、点数は少々辛口になってくるのだ。


「しー。『ああ、マリー。君はなんて優しいんだ。あんなに酷い目にあっていたというのに』」


 ジェニファーは私達の反応をよそに、演技続行で立ち位置を変え、反対側に来た。

 扇子を開く演技をして、ツンと横を向き目だけで流し見る。


「『謝罪と言われましても、わたくしそのようなこと身に覚えがありませんわ』」


「おー。悪役っぽいわ!」

「今の上手いです」


 またくるりと元の位置に戻って、腰に手を当てた。


「『白を切る気か! だが証人がいる。アラン・オコールド、証言せよ』ジャジャーン」


「えっ。ここで僕ですか?」

「ふんふん、それで?」


 ジェニファーはスッと一歩前に出て、ふぁさっと髪をかき上げる仕草をした。


「『愚かな姉上、階段の踊り場に僕が居たこと、やはりお気付きではなかったのですね。愛らしいマリーに嫉妬するあまり、衝動的に突き落として走り去る後ろ姿をしっかり目撃しました』」


 真顔になったアランがぶつぶつ文句を言い出した。


「……僕って、あんな感じでしょうか? あんな嫌み臭い奴とか屈辱なんですが」

「お芝居よ! アランはもっと素敵だから! こんな気持ち悪くないから! とってもかっこいいから! 国一番いえ世界一だから!」


 一生懸命なだめると、アランは赤くなって私の手をぎゅっと握った。


「っ、イザベラ姉上……」


 それはそれとして、ジェニファー劇場は続行していく。


「『未来の王妃マリーに危害を加えた罰として、この女を捕らえて牢に放り込め!』ばばーん」


「なにそれ最低」

「あり得ないです最低」




 お父様が夜になってやっと帰宅した。実の娘の誕生日に大遅刻だが、まあ、いつも通りだった。

 いつも通りじゃなかったのはそこから先である。お父様は傍目にもわかるくらい浮かれていた。


「イザベラ、喜べ。お前の婚約が決まりそうだ。相手はオズワルド王子だ」

「……」

「……」


 無言を返せば、私とアランの目が白いのに、やっと気がついたようだ。


「どうした、将来は王妃だぞ。最高の誕生日プレゼントだ。嬉しくないのか」


「お父様最低」

「父上、僕が養子になったのは、お姉様と婚姻して跡を継ぐ為ではないのですか」


「そういう案もあったが、しかし王妃だぞ」


「父上には失望しました」

「酷いわお父様。グスン。これは王家からの命令なのですか? 他に候補は居ないのですか」


 ジェニファー仕込みの泣き真似をしながらなじると、お父様はちょっとうろたえ始めた。


「いや、他の候補は王子の選り好みが激しく決まらないので、陛下がもうわしが決めてやると言うから、ならば候補に上がったことの無いうちのイザベラはどうかと申し出た」


「今すぐ取り下げて下さいませ」

「姉上お可哀想に。父上、これは養子の際に交わした契約に違反するのでは?」


 結局、お父様は子供二人に散々文句を言われて、申し出を取り下げてくれた。




 王立貴族学園に入学直前、私とアランの婚約が正式に整った。

 なお、オズワルド王子の婚約者はまだ決まっていない。噂なので本当かどうかわからないが、王子のおつむの出来は余りよろしくないらしい。




 その後、ジェニファーが困ったように言ってきた。

「あのう、また閃いたんですけど」

「あらそう、マリーとオズワルド王子に続きがあるの? やってみせて」

「いいえ。マリーとアラン様なんですが、見たいですか?」

「ええええー」


続きはありません。


誤字報告ありがとうございます。助かります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 色々とありますが、ジェニファーさんに一言。 貴公、きのことたけのこ、どちらの派閥であるか?
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