街へ②
「ん~。やっぱりマクナドルドのテリヤキバーガーは美味しいな~」
片道3時間以上という遠路を超え、はるばる留萌へとやってきた樹は、大手ハンバーガーチェーン店マクナドルドの店内でテリヤキバーガーの甘辛いタレに舌鼓を打つのだった。
〝それにしても、こいつは本当にうまそうにモノを食うよな〟
当初はコーヒーだけを飲んで帰るつもりだったが、通常のセットに加えてチキンナゲットまで貪り食う樹をみていたら、八雲も腹が減ってきた。結局、八雲もテリヤキバーガーを買ってきて一緒になって食べるのだった。
よく笑い、よく怒り、自分の気もちにストレートで飾り気のない性格の樹とは、人見知りな八雲でも一緒にいても肩がこらない。なんだかんだでこのイエヌにきてからというもの、八雲は樹と一緒にいることが一番多いのだった。
そんな樹に対して八雲がつぶやく。
「しかし、徐々に暖かくなったとはいえ、それでもやっぱりイエヌって寒いよな」
外では木枯らしが吹き、人々は背中を丸めて歩いていく。3月とはいえ、座席の正面にあるガラスから覗く留萌市街地の風景はまだまだ冬のものだ。
「なあ、本州じゃ春になったのに、イエヌに来てもう一回冬の寒さを繰り返されるんだから、たまったもんじゃないよ」
「そうだよな」
樹に返答する八雲の声音は低く、沈鬱だ。
八雲の心にひっかかっているのは、レラのことだ。
このイエヌに来て出会ったふたりの同級生。人懐こく明るい樹に親しみを覚えているが、神秘的な雰囲気を持つ純血のイエヌ民族の少女・レラにも惹かれているのも事実だ。
そのレラに拒絶されている事実が八雲の心に重くのしかかるのだった。
「レラかぁ……。たしかに、あいつはたしかに無口で愛想がないよな。八雲が話しかけて完全に無視してるし」
八雲の気もちを察してか、樹が感想をもらす。
「でも、あいつ、ボクが話しかけた時のほうがまだ返事してくれるぜ。楓ちゃん相手だと短い雑談だってしてるし。八雲の時だけ完全無視してるんだよな。しかも、それもあの狩猟の日から、よりいっそう酷くなってるんだよなぁ……」
そう、たしかにレラは同級生のふたり……樹と八雲に対して心を開いているとは言い難いが、それでもまだ樹のほうがマシなレベルだった。あの狩猟以来レラの八雲に対する風当たりはよりいっそう強いものになってるのだった。
〝どうすればいいのかな……〟
八雲は深く大きなため息をつき、憂慮のシワを眉間に刻むのだった。