街へ
楓が仲間との親睦を図るため企画してくれた狩猟だったが、レラと八雲の関係は好転することはなかった。いや、それどころか悪化したと表現してもいいだろう。
あの狩り小屋で一晩過ごした後、レラは口を聞くどころか、視線すらも合わせてくれなくなったのだった。
そして、寮に戻ってきて3日ほど経ったある日、窓から差し込む朝の光を全身で受ける前に八雲は覚醒することとなる。
「なーなー、八雲。起きろよ~」
樹がベッドで寝ている八雲の身体を小刻みに揺らして、そう催促する。
「なんだよ、ハチ」
寝ぼけまなこを人差し指でこする八雲。
「こんな朝っぱらから何の用だよ?」
「マクナドルド、行こうぜ。マクナドルド」
「マクナドルドって、こんな朝っぱらからか?」
「いいじゃん、ボク、あそこのハンバーガー食べたいんだ。一緒に行こうぜ~」
「今からかよ……」
ちなみに『マクナドルド』とは言わずと知れた世界的に有名な大手ハンバーガーチェーンである。つい、数日前に楓に同行して留萌の市街地にいったのだが、その時に生まれて初めて食べたハンバーガーの味にすっかりはまってしまったようだ。今もこうやって八雲に催促するのだった。
「オマエ、ここから留萌までいったいかかると思ってるんだ。駅まで走って1時間、そこから2時間以上も電車に乗るんだぞ」
「だから、今から行くんだろ。なあいいだろう?」
東京などの大都市では、ちょっと利用者数の多い駅の周辺に行けば、簡単にみつけることができるマクナドルドだが、このイエヌでは、札幌市内以外では数えるほどしか存在しない。ちなみにこの寮が存在する収容区から一番近い場所にあるマクナドルドは留萌市で、それでも50キロ以上も離れている。
正直に言って、東京に住んでいた八雲にとっては50キロ以上の道のりをかけて行くような飲食店ではないのだが、樹にとってはそうではないようだ。
必死になって、八雲を誘うのだった。
そして、そんなふうに樹に頼まれると、断りきれないのが八雲である。
結局、八雲はベッドから起き上がり、服を着替えて外出の準備をするのだった。