第二章 (前)千里眼(オニ)/introduce
『 ――人は在り方に殉じするべきだ。
――否、在り方に沿うしかない。
人の在り方というものは確かに存在する。
私は生まれたその時から既に判っていた。ただ眼を背けていただけだ。
認めたくない、認めたくない。自分だけは違う、と。
在り方とは価値であり、起源であり、原因であり、所以である。
自らのそれらを、何故かは分からない。どうやって知ったのかは分からない。
ただ兎に角、この世に実界した瞬間から理解をしていた。
自分の価値を。自分の意味を。自分がこの世に生まれ堕ちた原因を。
だが問題はそこではないのだ。
正であれ、負であれ、無であれ。何かしら意味や所以はあるのだろう。
これが問題だ。
在り方に沿う生き方とは在り方の流れを辿るということ。
在り方を違える生き方とは在り方の流れにそぐわぬということ。
だが流れに逆らうことなど長くは続かない。
緩やかに、緩やかに。けれど決して留まらず。私本来の在り方へと回帰していく。
これは、そう――運命というものに似ている。抗えない、定められた運命。悲劇の台本。覆せない神の力。
それを悟った時は手遅れで、それを悟った私は、自分自身に絶望しか見出せなかった。
――千里眼』