第三章 鬼(ウラ)/introduce
『 ――お姫様がいる。
何て柄にもなく思ってしまった。
そんな感覚は初めてだった。人の全てを知った気でいた俺は何処か達観していて、冷めていて。
だけど彼女に溶かされた。
深窓の姫君。
感じたそれは素直な気持ち。偽りのない、飾りのない気持ち。
強い少女。空虚な少女。可憐な少女。――儚い少女。
周りに咲き散らばる花よりも。花に被さる雪よりも。空気を包む雪よりも。
或いはその景色により。
白と色彩豊かな世界で、猩々緋の彼女はいた。
向ける彼女の瞳は黒々としていて。――けれど紅。
揺れる彼女の髪は黒々としていて。――けれど紅。
とても純粋で、とても深くて、けれどとても寂しい。
触ると音を立てて崩れてしまいそう。
拭けば煙の様に消えてしまいそう。
そんな孤独な彼女は花と雪に囲まれ独り俯いていた。幻想世界に只独り。
だけどどんな幻想よりも、佇む彼女は美しい。
季節外れの雪が降る。咲き乱れる花の中。
季節外れの雪が。咲き乱れる花々が。
俺と彼女を包み込む。
色と白が混ざる幻想世界で。
咲き散らばる花達と、降り注ぐ季節外れの雪の中。
――俺と羽羅は出逢ったんだ。
――鬼』




