彼は愛して欲しかっただけだった。
今思えば。
『…そうすれば、俺を愛してくれる?』
あの時の瞳の中の真実に気付いていれば。
『そっか。なら、俺は_』
ここまで互いに狂わなかったのかもしれない。
…いや。
俺らは至って普通だ、何の変哲もない。
そっか。じゃあ、これは普通だ。
「…でもなぁ」
普通と思う度に、特別にしたいという感情が溢れてくる。
彼を俺だけの、特別なものに。
「ねぇ…どうしたらお前を、俺の"特別"に出来るのかなぁ…」
手の中の真っ赤に染まった、幸せそうな彼に問う。
でも彼は、微笑を変えずにいるだけ。
あれ、でも、彼の最期の記憶は俺だけ?
彼の最期は俺でいっぱい?
「…やった、特別だ」
じゃあ俺も、彼の特別になってあげないと。
彼が使っていた包丁でもあり、彼の血でいっぱいの包丁。
それを彼の手に握らせる。
「ちゃんと俺を逝かせてよ、お前の元に」
そうしたら、ずっとずっと。
好き、大好き、愛してるって、囁き続けてあげるから。
自分の首を目がけ、包丁を薙ぐ。
最後の最期で真実に気付いても、もう返れない。