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Dear Lucifer  作者: 桃原カナイ
第二章.そして彼は堕ちて行った
17/23

幕間.堕ちた聖女の物語

本日もお越しいただきありがとうございます(*・ω・)*_ _)

楽しんでいただけますように



 嗚呼、ああ……私は良い子であろうとした。今ではこの世で一番悪い子になってしまったけれど。

 嗚呼、ああ……それでも私は、最後の時まで良い子であろうと精一杯頑張ってみたのにな。


 『忘れないで、少しの間会えなくなるだけ。神様のところでまたいつか会いましょうね』


 そうやって強がって、立派な姿を見せようとした。そんな私の姿を覚えていて欲しかった。

 でも、最後の最後でそれは叶わない願いとなった。置いて行きたくない、一緒にいたいと、そう思ってしまったの。


 それは私が、お姉ちゃんだから。たったひとり残された家族、×××の……


 なのに、なんてひどいところを見られてしまったのだろう。

 間違いない。記憶よりもずっとずっと大きくなっていたけれど、あの子(・・・)の隣に×××がいた!




***




「……こんにちは」



 失敗した。本当はこの子の身体を奪うはずだったのに。



「あなたの名前を知ってるよ。セシリー=フィラデルフィア……シシィって、そう呼ばれてるんでしょう?」



 なのにどうして、あなたはそんな瞳をしているの。



「私は〝ルシファー〟。え、本当の名前? そうだね……何だったかな、忘れちゃった」



 どうして、私に優しい言葉を投げかけるの。

 これじゃあまるで、まるで――




***




 狭い部屋。無造作に積まれた古臭い調度品。開かない窓に、ひび割れた鏡……その真ん中を分断する、目には見えない透明の仕切り。

 仕切りはまるで鏡のように、同じ景色を映し出す。鏡合わせの同じ部屋。私を捕らえる二本の鎖。鎖はさらさら音を立てて、

私の手足の鎖が伸びて、あの子の手足に絡みついている。


 私とあの子は、鎖に繋がれてふたりぼっち。鏡越しに手を合わせても、温かい手には触れられない。



「……ごめんなさい」



 私の右手とあの子の左手。あの子の右足と私の左足。戒めの重い鎖は、私たちを縛りつける。

 私たちは、どこにいるの。長い間、空も見せてもらえないまま。



「ごめんなさい、私、嫌われ者なのに。これじゃあ、今まで以上に嫌われちゃう」



 私と、時々お父様の世界。そんな小さな世界が、風景が、あの子の力で変わり始める。

 


「ごめんなさい。でも、やらなくちゃ」



 ――肩の力を抜いて。もうひとりじゃないよ。

 鏡に唇を寄せて、あの子が囁く。あやすように、なだめるように。



「私が、私がやらなきゃいけないの……」



 ――見上げてみて。あの空の中に、何が見える?

 私はつられて上を見上げる。何も無い天井を。



「もう一度、お父様を、あの場所へ」




 〝神様〟のいる、あの遠い場所へ。




 私は悪者。史上最大級の悪。鏡を割って、人々を混乱に陥れた。

 私が悪者。たったひとりの人のために、世界を混乱に陥れた。


 ごめんね、ごめんね、ごめんなさい。

 今は苦しくて、恐ろしいかもしれない。でもいつか必ず、取り戻すから。



「私が、鏡を割ったの」



 お父様が、その力を私に託したから。

 間違った世界を正すために。だって〝神様〟は、本当の神様じゃないのだから。



「でも……もうできない」



 その資格を、取られちゃったから。

 ×××に……血の繋がった、たったひとりの弟に。



「×××がね、怒ってるの。私じゃもう止められない……どうしよう、私のせいだ」



 私のとりとめのない話に、あの子は静かに耳を傾けてくれた。

 鏡越しに寄り添って、大丈夫、大丈夫と。まるで、子守歌を歌うように。



『大丈夫ですよ。信じてみましょう』



 あの子は微笑む。不安な気持ちを追いやるように、青空のような晴れやかさで。



『そうでしょう? 〇〇〇〇――』



 誰もが忘れた、本当の名前。

 歌うような優しい声で、あの子が私の名前を呼ぶ――



お読みいただきましてありがとうございます!

楽しんでいただけましたら幸いです

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