幕間.堕ちた聖女の物語
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嗚呼、ああ……私は良い子であろうとした。今ではこの世で一番悪い子になってしまったけれど。
嗚呼、ああ……それでも私は、最後の時まで良い子であろうと精一杯頑張ってみたのにな。
『忘れないで、少しの間会えなくなるだけ。神様のところでまたいつか会いましょうね』
そうやって強がって、立派な姿を見せようとした。そんな私の姿を覚えていて欲しかった。
でも、最後の最後でそれは叶わない願いとなった。置いて行きたくない、一緒にいたいと、そう思ってしまったの。
それは私が、お姉ちゃんだから。たったひとり残された家族、×××の……
なのに、なんてひどいところを見られてしまったのだろう。
間違いない。記憶よりもずっとずっと大きくなっていたけれど、あの子の隣に×××がいた!
***
「……こんにちは」
失敗した。本当はこの子の身体を奪うはずだったのに。
「あなたの名前を知ってるよ。セシリー=フィラデルフィア……シシィって、そう呼ばれてるんでしょう?」
なのにどうして、あなたはそんな瞳をしているの。
「私は〝ルシファー〟。え、本当の名前? そうだね……何だったかな、忘れちゃった」
どうして、私に優しい言葉を投げかけるの。
これじゃあまるで、まるで――
***
狭い部屋。無造作に積まれた古臭い調度品。開かない窓に、ひび割れた鏡……その真ん中を分断する、目には見えない透明の仕切り。
仕切りはまるで鏡のように、同じ景色を映し出す。鏡合わせの同じ部屋。私を捕らえる二本の鎖。鎖はさらさら音を立てて、
私の手足の鎖が伸びて、あの子の手足に絡みついている。
私とあの子は、鎖に繋がれてふたりぼっち。鏡越しに手を合わせても、温かい手には触れられない。
「……ごめんなさい」
私の右手とあの子の左手。あの子の右足と私の左足。戒めの重い鎖は、私たちを縛りつける。
私たちは、どこにいるの。長い間、空も見せてもらえないまま。
「ごめんなさい、私、嫌われ者なのに。これじゃあ、今まで以上に嫌われちゃう」
私と、時々お父様の世界。そんな小さな世界が、風景が、あの子の力で変わり始める。
「ごめんなさい。でも、やらなくちゃ」
――肩の力を抜いて。もうひとりじゃないよ。
鏡に唇を寄せて、あの子が囁く。あやすように、なだめるように。
「私が、私がやらなきゃいけないの……」
――見上げてみて。あの空の中に、何が見える?
私はつられて上を見上げる。何も無い天井を。
「もう一度、お父様を、あの場所へ」
〝神様〟のいる、あの遠い場所へ。
私は悪者。史上最大級の悪。鏡を割って、人々を混乱に陥れた。
私が悪者。たったひとりの人のために、世界を混乱に陥れた。
ごめんね、ごめんね、ごめんなさい。
今は苦しくて、恐ろしいかもしれない。でもいつか必ず、取り戻すから。
「私が、鏡を割ったの」
お父様が、その力を私に託したから。
間違った世界を正すために。だって〝神様〟は、本当の神様じゃないのだから。
「でも……もうできない」
その資格を、取られちゃったから。
×××に……血の繋がった、たったひとりの弟に。
「×××がね、怒ってるの。私じゃもう止められない……どうしよう、私のせいだ」
私のとりとめのない話に、あの子は静かに耳を傾けてくれた。
鏡越しに寄り添って、大丈夫、大丈夫と。まるで、子守歌を歌うように。
『大丈夫ですよ。信じてみましょう』
あの子は微笑む。不安な気持ちを追いやるように、青空のような晴れやかさで。
『そうでしょう? 〇〇〇〇――』
誰もが忘れた、本当の名前。
歌うような優しい声で、あの子が私の名前を呼ぶ――
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