その2 面倒事を(わざわざ)背負い込む主人公
こいつ形は小さいが空を飛べるみたいだから、少し遠くの山中まで来てみた。だがこいつが特に反応するような事は無い。仕方ない。明日車でちょっと遠くまで行ってみるか。
帰ろとした時、肩に乗っていた黒い龍が突然空に浮きふわふわとどこかへと向かって行った。
「おい?」
俺は慌てて黒い龍を追い掛けた。
草をかき分けた先に古くて小さなお堂があった。中を覗いてみると、何やら動く気配がした。
「チビ龍?」
扉を開けた俺は驚いた。何とそこには人が倒れていたのだ。
まさか死体?
俺がしばらく動けないでいると、黒い龍が倒れている人の腕に体を擦り寄せていた。
「おい、お前何してるんだよ」
思わず声を上げた俺に、倒れていた人の体がぴくっと反応した。俺は思わずびくっとなった。
「う~ん……」
「あ、あの。大丈夫ですか」
倒れていた人物が起き上がり、振り返った。俺はその顔を見て心底驚いた。
「篠崎さん?」
まさかの知り合いだった。
「あ、あれ? もしかして野山さん?」
「何しているんですかこんな山奥で」
篠崎さんは俺が勤めている会社で働いている女の人で、実は少しいいなと思っていた人だったのだ。
て、今はそんな事どうでもいい。
「野山さんしばらく休みだって聞いていたけど」
「肩の神経がやられてしまって……篠崎さんは今日は仕事は」
「今日早退したのです。ちょっと探し物してて休憩しようとここに来たら、いつの間にか寝てしまっていたみたいです」
え、こんな所で寝る? 大丈夫かこの人。
「もしかして昨日もずっと探していたのでは」
すると、篠崎さんは慌てたように立ち上がった。
「この事は誰にも言わないで下さい。会社で変な人だと噂がたってしまいます」
黒い龍が篠崎さんの目の前に浮かぶと、きゅーと一声鳴いた。
「おい、お前」
俺が慌てて止めるが、時既に遅し。篠崎さん完全固まってしまった。
「篠崎さん、大丈夫ですか」
目の前で手を振ってみるが篠崎さん瞬きもしない。
「こら、お前ダメだろ」
黒い龍は何故、怒られているのか分かっていないのか首を傾げている。と、篠崎さんがひっくり返り逆に俺が固まった。
「ほ、本当に大丈夫ですか」
「びっくりした。蛇に噛まれた気がした」
俺は篠崎さんを立ち上がらせた。
「きゅい」
黒い龍が再び篠崎さんに飛び付こうとしたのを止める。
「野山さん面白いペット飼っているんですね」
「いや、ペットじゃないです。篠崎さん、それで何を必死に探しているのですか」
「対した事じゃないです。あ、野山さんそろそろ帰らないと夜の山は危険ですよ」
「篠崎さんも帰らないといけないですよ」
俺は黒い龍の言い訳をする為に、このまま帰る訳にはいかなかった。
「篠崎さん、どうか俺にも探すの手伝わせてもらえませんか。俺、しばらく休みだから時間はたくさんあります」
篠崎さんは驚いたように俺を見ている。
「でも肩を痛めているのでしょう?」
「こんなの平気です。篠崎さんが夜一人で山にいるより」
俺は言ってからしまったと思ったが、篠崎さんは少し目を細めている。気のせいか、頬が赤くなっている?
「と、とりあえず俺探します。とても大切な物なのでしょう?」
「でも、いくら何でも申し訳ないです」
俺はしばらく考えた。
「……あ、俺医者から少し運動した方がいいって言われているんです。だから運動がてら篠崎さんの探し物を探すって言うのはどうですか。しばらく仕事いけないから体もなまってしまいますし」
それでも篠崎さんは考えている。
「私と野山さん知り合いってだけなのに、そんな大変な事」
すると黒い龍が篠崎さんに身を擦り寄せた。篠崎さんが少し驚いたが、その頭を撫でてやる。
「頭固いのね。角も生えているし。まるで小さな龍のよう」
「そいつも任せろ言ってますよ」
黒い龍と俺の顔を見比べていたが、篠崎さんは頭を下げた。
「どうかよろしくお願いします」
翌日、俺は朝早くから昨日の山に来ていた。
「こらクロ。あんまり遠くへ行くなよ」
俺は黒い龍にクロと名付け、とりあえずこいつの家見つかるまで預かる事にした。こいつ小さいから自分の家分からないだろうし。
篠崎さんの探している物は、丸くて固くそれに緑色をしているらしくて、見つけたらすぐ分かるって言っていた。
辺りの藪をかき分けて探してみるが、それらしき物は見あたらない。篠崎さんの探している物って何なのだろう? 宝石か何かかな。
「あ、おいこらチビ」
クロは勝手に、どこかへとふわふわ飛んで行こうとする。首に縄でも付けるべきか。
クロの後に付いて行くと、小さな滝がある場所に出た。とても綺麗な所で、山にハイキングに来てたらここで涼んでいたいくらいだ。
「クロ、遊びたいなら後にしろよ」
構わずクロは川にダイブした。
「今度はどうした」
さっきまではしゃいでいたクロの動きが止まり、川の中を見つめている。と、見た事も無い速さで川に潜った。
何の遊びだとしばらく待っていると、クロが浮き上がって来た。口には小魚を咥えていた。食い物を自分で採っている。昨日は一応握り飯をやったが、足りなかったのだろうか。小さなその口でばりぼりと魚を食すその姿は、一般の獣とは一線を画していた。仕方ない。この辺りを探してみるか。