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その1 幸運を呼ぶ黒龍!?

現代をテーマにしたほのぼの妖怪話です。よろしくお願いします。

 俺は風呂にでも入ろうかと思い、浴槽を洗う事にした。ここ最近暖かくなって来たから入浴しなくてもいいが、やっぱりお湯に浸かった方が気持ちいいんだよな。


 野山のやま 浩人ひろと。三二歳。派遣社員で地元を離れて最近花間市に引っ越して来たばかり。この足を曲げてしか入れない浴槽も慣れればそれなりに快適だ。


 スポンジに洗剤をつけようとした俺の手が止まり、ある所に視線が止まる。何か排水溝の上で動いているような。髪の毛か? ま、まさか……いやいや気のせいだろう。いくら何でも、こんなデカい虫どこから入り込むって言うんだ。


 俺は恐る恐る排水溝で動いたかもしれないそれに手を伸ばした。やっぱり怖くてスポンジの先でそれをつついてみる事にした。そしたらそいつなんとぴくっと動いたじゃないか。


 待て待て。


 落ち着こう。こんなの俺がつついたから髪の毛が動いただけだ。


「やっぱこんなでっかい虫こんな所で出ねーよな」


 虫如きにいつまでも怯えているのもあほらしくなって、俺は手掴みでその黒い塊を掴んだ。何か思ってたより固いな。とりあえず、ゴミ箱に捨てようと顔を近付けた俺の手が思わず止まった。


 え?


「きゅ?」


 今、何か目があった。


 え? 今目が合った??


 完全にフリーズしている俺をよそに、手の中のそいつは瞬きした。


「うわー! 虫が瞬きした!?」


 手の中の黒い塊を投げつけた。

 思いっきり体をのけぞらせると、後ろの壁に頭を打ち付けた。


「きゅー……」


 頭の痛さよりも、そいつの弱々しく鳴く声が脳に響いた。


 何だこのミミズ? いやミミズ……じゃない。真っ黒だけど、これはまるで良くテレビとかで見る龍の姿をしているじゃないか。


 何コレ幻? 俺幻を見ているのか? 自慢じゃないがそういった類の物は見た事ない。


 俺がパニックになっている間、そいつが起き上がり、金色の瞳をこっちに向けた。


「うわああ!」


 俺は耐えきれなくなり、アパートから飛び出した。



「はっ!」


 気が付けば俺は裸足のまま近くの公園にいた。


 そう言えばアパートの鍵開けっ放しだ。そう思った途端に頭痛に襲われた。部屋に戻らないとだな。


 うーむ……


「きゅ!」


 きゅ? なんだ、きゅって。ってこいつはああ!


「ミミミミズ……」


 そいつは固まっている俺に構わず、肩に乗ってこようとした。


「うわあぁ?」


 俺は思わず飛んで来たそれをはたき落とした。べしゃと音がして我に返った俺は、恐る恐る黒いミミズに手を伸ばした。


 黒いミミズは頭を上げ、一声鳴いた。


「だ、大丈夫みたいだな。突然はたき落としたりして悪かったな?」


 とりあえず謝っておいた。


 とりあえず深呼吸する。


「お前はもう大丈夫みたいだな。じゃ、そういう事で」


 俺は片手を上げ、背を向けた。部屋に戻ろうとしたが、俺の足が止まる。


 黒いミミズが頭をもたげ、切なそうな瞳で俺を見ている……気がする。


「ああ、もう」



 何やってるんだ俺は。どうして黒いミミズを家に連れ帰って、体を拭いてやっているんだ。


「きゅきゅきゅ!」


 いや、あそこで死なれたら後味悪いと言うか何と言うか。


「お前、一体何なんだ?」


 体を拭いてやると、嬉しそうに体を擦り寄せてくる。その体は蛇のように細長く魚の鱗のような物が生えていて、なかなかに固い。小さいが足があり、角も生えている。しかも土竜の指のようなあの、小さい指が五本ある。


「さ、もうお前ん家帰れ」


 俺は窓を開けて、黒い龍を振り返った。なんだ、奴は首を傾げているんだが。


「お前の家だよ。親心配しているぞ」


 すると黒い龍は俺の肩に飛び乗り、体を擦り寄せて来た。


「おおい」


 奴は構わずに俺の頬にまですり寄って来た。


 仕方ない。明日こいつの親でも探してやるか。



「と言ってもなぁ……ここ覗いても何も見えないしな」


 翌日、この黒いミミズがいた排水溝を開けて覗き込んでみたが、暗くて何も見えない。携帯のライト着けて照らしてみるが排水溝の筒以外何も見あたらなかった。手を伸ばしてみたが、指先が滑っただけだ。巣のような物があるのを期待したが、無さそうだ。


「なぁ、黒いの。お前の家はどこだ?」


 黒いミミズ……じゃない黒い龍はきょとんとしている。


「だから、お前の生まれた家だよ」


 そもそも龍ってなんだ? 卵から孵る物なのか。どうやって生まれるんだ?


「うわ、何だよ」


 黒い龍は俺に体をすり寄せて来た。ったく、虫かよ。きゅいきゅい鼻を鳴らしてやがる。



 家にいてもきゅいきゅいしているだけなので、とりあえず外に出てみる事にした。平日の昼間の公園には人はいなかった。今は学校の時間だもんな。俺? 今怪我しててしばらく休み中なんだよ。


「何か思い出せそうか」


 黒い龍は首を傾げて目を瞬かせている。ちょっと可愛いと思ってしまった。


「お前が喋れたらいいんだけどな」

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