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蛙の子は蛙、狼の子は狼3

「………………」


 ユーフェリア特製のお茶を淹れてもらい、セロも含めて6人でテーブルについて黙り込んだままお茶を啜る。

 ユーフェリアのお茶は相変わらず美味しい。だが、心は全く落ち着かない。


「……ナリス。お前はまず、言うべきことがあるだろう」


 最初に口を開いたのは、ルフさんだった。

 既に先にお茶を飲み終えたナリスは一つ頷くと、立ち上がってテーブルに両手をつき、頭を下げた。


「お義父さん、お義母さん……ローラちゃんを僕に下さい」 


「っちがうだろっ!! まずは謝罪をしろって言っているんだ!! 謝罪を!!」


 ルフさんの掌が、ぱしーんと派手な音を立ててナリスの頭を叩く。ナリスは涙目で父親を見上げた。


「……だって、父さん。ぼくが謝ることなんて何もないでしょう。雄として当然のことをしたまでだよ」


「4歳の子に! 甘噛みをして! 何が当然だ!!」


「だって、父さん、五年前言ったじゃないか」


 思いがけないナリスの言葉に、皆の視線がルフさんに集中する。


「五年前。母さんとお義母さんが喧嘩した時、父さんは母さんに言ったじゃないか。『腕は2本しかないのだから、腕の中に入りきる相手だけ守りなさい』って。その上で僕達が成長したら、母さんの腕から出て、自分の腕に入りきる番を探せって」


「………確かに、そんなことも話したが……」


「あの話を聞いて、僕はピンと来なかったんだ。当時の僕の周りの女の子は皆大柄で、僕よりよほど強い娘ばかりだったし、年下の女の子は獣化状態だったから。守ってあげたいとか、あまり思ったことはなかったんだよ」


 ……まあ、セロは弟だから、兄として守るのは義務だと思っていたけど。

 そう言って苦笑いしたナリスは、次の瞬間うっとりした表情を浮かべた。


「……だけど、それから一年してお義母さんがローラちゃんを産んで……僕の腕の中にすっぽり入る、小さな小さな体を抱きあげさせてもらった瞬間初めて思ったんだ。『この子を守りたい』『僕はこの子を守る為に生まれてきたんだ』って」


「……ちょっと、待て。ちょっと待て、ナリス」


「はい、何でしょう。お義母さん」


「……その話を聞くと、9歳の君は、生まれたばかりのローラを見た時点で番認定しているように聞こえるんだが……」


「もちろんです、お義母さん! 僕は生半可な気持ちでローラちゃんを番にしたいだなんて言ってません! もう既に四年越しの想いですから! これからさらにローラちゃんを想い続けます!」


 ……頭が、痛い。

 まさかナリスがここまで重症だとは。

 ローラが人化状態で生まれて来たことに、こんな落とし穴があるとは想定していなかった。

 ……なんで、私はナリスの腕にローラを抱かせたりしたんだ……今さら後悔しても、遅いが、どうしてもそう思ってしまう。


「………なんで、ナリスなんだ………せめてセロなら、私もまだ応援してやれたのに」


 9歳の年齢差は、私くらいの年代ならさほど違和感もないが、ナリスくらいの年齢だと倫理的に許容が厳しい。

 ユーフェリア達の反応を見る限り、その感覚は人間だけではなく、狼獣人も一緒のようだ。


「え、おれ? いや、ローラはたしかにかわいいけれど……ひっ!!」


 突然名前を挙げられ、慌てたセロは、次の瞬間しっぽの毛をぶわりと逆立てて脅えた。

 視線の先には、笑顔でどす黒いオーラを垂れ流すナリスの姿が。


「……セロ。お兄ちゃんは、何度も言っているだろう? お前と、ローラちゃんの関係は?」


「……タダノ幼ナジミデス」


「そうだね。それでお前の役割は?」


「兄チャンガイナイ時ニ、カワリニローラヲ守ルコトデス」


「よく言えました。……忘れるなよ?」


 尻尾をまたに挟んでがくがく脅えるセロと、笑顔で幼い弟を脅しつけるナリスを目の当たりにして、改めて思う。

 ……やっぱり、セロの方がよかったな。

 こんな腹黒い息子、愛せる自信がないぞ。


 ナリスは凶悪な顔で舌打ちをすると、憮然とした表情で大人達を睨めつけた。


「……みんな、そうやって僕を異常扱いしますけどね。番に対する狼獣人の雄の態度なんて、年齢こそ違っても、みんな大差ないじゃないですか。誰だって、僕と同じような形で出会えば、こうなりますよ」


「……それは否定できないが」


「それにしても、早過ぎるわ。ナリス。せめてあと五年は胸のうちにしまっていてよ……」


「早く公言しておかないと、ローラちゃんを取られるかもしれないじゃないか! ……それに、今回のことは僕だって不可抗力なんだよ。父さんは、4歳の母さんから『大人になったら番にして』って言われたら、甘噛みを堪えられるの?」


「………………」


 ………ちょっと待ってくれ。何だか旗色が怪しくなってきてはいないか。

 何でそこで黙り込むんだ、ルフさん。そこは堪えられると、ビシッと言ってくれ。

 ユーフェリアも。私と視線が合った瞬間、目を逸らすんじゃない。色々あったが、今は私達、もう友達だろう? なあ。


「……それに、僕は、ローラちゃんを番にするのは、寸での所で踏みとどまりました。……ねえ、家に来てから一度も口を開いていないお義父さん。貴方よりは、まだ罪が浅いと思いません? お義父さん、何も知らない異種族のお義母さんのこと、同意なしに番にしたんですよね?」




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