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蛙の子は蛙、狼の子は狼1

「……はい。それじゃあ、いつもの確認の時間だ 二人とも準備は大丈夫か?」


「「あい!」」


 もみじのように愛らしい小さな手と、肉球ふくふくの可愛い手が同時に上がる。


「それじゃあ、行くぞ……『サテ・シュアレ・ナ』は?」


「「つがいにだけ!!」」


 四つの三角お耳が、ぴくぴく動く。


「甘噛みするのは?」


「「おとなになって!!」」


 二つのふさふさしっぽが、左右に揺れる。


 ……ああ、もう。


「……よし。良い子だ。今日もちゃんと言えたな」


 小さな人型の体と、さらに小さな獣型の体を同時に抱き締めると、腕の中の二人は嬉しそうに笑った。


 全く困ったものだ……うちの娘と息子が可愛い過ぎる……!



 人型の長女ローラは4歳、獣型の長男リュースは3歳。

 三角の耳とふさふさのしっぽがかわいい、私とローグの愛の結晶だ。

 獣人の遺伝的に優勢だというアミーラの言葉通り、ローラもリュースも狼獣人の特性を持って生まれてきた。

 だが、他の狼獣人の子ども同様に獣の姿をして生まれたリュースと違い、ローラは私の血のせいか、生まれた時から人型だった。

 通常では10歳で人型をとるようになる狼獣人としては、かなり異端だ。しかも、4歳になった今も、獣化をしたことがない。

 そんなローラを、狼獣人の皆は心良く受け入れてくれるか心配だったのだが……完全に杞憂だった。


『あらまあ、あらまあ、あらまあ! 人間の赤ちゃんってこんな感じなのね! かわいいわあ!』


『子狼の姿もかわいいけど、私もできることなら自分の子ども達が赤ちゃんの頃の人型も見て見たかったわあ~』


『ふふふ。鼻の形がローグにそっくり。目はミステさんと同じね。……きっとかわいい子になるわ』


 イツナさんやヤグさんはもちろん、村の人達も皆、少しの好奇とたくさんの愛情を持って、ローラのことを受け入れてくれた。

 忌避するどころか積極的に面倒をみてくれようとしたので、初めての育児に戸惑っていた上に、出産して半年も経たないうちにリュースを身篭もった私はとても助けられた。

 ユーフェリアなんかは、「二人も三人も、面倒みる苦労は変わらないから、私が預かっている時間でもっとローグに構ってあげて。子どもに貴女を取られて、少し拗ねてるから」と、良い齢をして大人げないローグまで気にかけてくれたほどだ。村の奥様達と、ユーフェリアには頭が上がらない。

 ……ユーフェリアには、こないだも二人まとめて預かってくれたし、今度また人間の美味しいお菓子でもお礼に持って行こう。「体型崩れるからやめて!」って毎回言うわりに、持って行かないと耳としっぽが垂れているからな。狼獣人は本音がわかりやすくて、助かる。


「……ミステ」


 ローラとリュースの耳をそれぞれ掻いてやりながら、ユーフェリアへの土産に想いを馳せていると、背中に覚えがあり過ぎる重みを感じた。


「……ローラとリュースばかり構わないで、俺も構ってくれ」


 ……やっぱりやって来たな。大人げない夫が。


「……ローグ。何度も言っているが、こうやって子ども達に毎日言い聞かせているのは、君のせいでもあるんだぞ。君が、子ども達の前でも関係なく、ことあるごとに、『サテ・シュアレ・ナ』を口にしては首に甘噛みするから……」


「……したいんだ。……だめか?」


 ああ! もう! 君、最早わかっていて、その耳としっぽやっているだろ!

 毎度毎度、私がそれでほだされると思…………。


「……ほだされてしまう。自分が情けない」


「ミステ?」


「……ともかく、ローグ! 君が、それをやり続ける限り、私は毎日いやになるくらい、子ども達に言い聞かせる必要があるんだ。ローラはもう3歳を超えたが、まだまだ幼いし、ちょうど3歳のリュースは特に目を離せないからな」


 ローグが私に「サテ・シュアレ・ナ」を告げたのが、3歳。以後、25年間、彼はその呪いに縛られ続けた。

 最終的に結果オーライだったわけではあるが、子ども達に同じような思いをさせるわけにはいかない。

 狼獣人の成人は16歳。是非、ローラとリュースはちゃんと16歳になってから、相手の意志をきちんと確認して通じあった上で、正式に番になって欲しい。

 その為にはやはり、母親である私がしっかり見張っておかなければ。


「……だが、ちゃんとした番だったら、別に何歳でも……」


「ローグさん? 君は、その『ちゃんとした番』と判断できる根拠を、説明できるのかな?」


「……………」


 ばつが悪そうに視線を逸らすローグを、じろりと睨みつける。

 狼獣人は、一度「番」になった相手を、その後一生愛し抜く。

 だが、相手を「番」に選ぶまでの経過に関しては……色々謎が多いのだ。

 狼獣人が、番選びに失敗した例は過去、存在しない。数年前まではその例外がローグだったわけだが、遠回りをしたが今はこうして夫婦に落ち着いた。

 だがしかし。私とローグに、運命的な何かがあったかと聞かれる……当事者としてはよくわからなかったりする。ローグは好きだし、夫にするなら彼しか考えられないわけだが、それが通常の恋愛関係と何が違うのか、私にはよく分からない。

 実際、狼獣人の皆も、よくわかっていないと思う。好きになった人から好かれて、番になった時点で離れられなくなるという認識なだけで。

 ……そんな状態で「ちゃんとした番」も何もないよなあ。

 だからこそ、番は成人してから、それぞれが自分の意志で責任持って選んで欲しいと思うのだ。母親としては。


「……あの、さ……ママ」


「うん? どうした。ローラ」


「その……ききたいのけど」


 腕の中のローラが落ち着かない様子で動きだしたかと思うと、上目遣いに私を見上げて、とんでもないことに口にした。


「あまがみするのは、おとなになってだけど……されるのは、こどもでも、よいのよね?」





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