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魔宝石の洞窟

「……どこへ、行く気なんだ?」


 ローグを砂糖中毒に陥れかける事件が未遂に終わった後、私はローグに連れられて、森へ向かっていた。

 また、狩りへ出向くつもりなんだろうか。

 そんなことを思いながら、ローグの後を追いかけると、先に進んでいたローグが、何かを持って戻って来た。


「………ええと。これは、木の枝か?」


 両手に持った子どもの腕くらいの太さの木を二種類突きつけられ、どちらが良いか聞かれる。……意図が全く分からない。


「どちらも同じように見えるが……しいて言うなら、こちらの方が滑らかで、香りが良い、かな?」


 私が片方の木を指差すと、ローグは一つ頷いて、選ばなかった方の枝を地面に置いた。

 そしてまた、別の木の枝をどこからか持って来て、私にどちらが良いか選ばせる。

 ……一体、何がしたいんだ。

 それを何回か繰り返した後、ローグは満足したように頷くと、私が選んだ枝を持ち運びしやすいくらいの大きさにして、ポケットにしまった。


「これで目的は果たしたのか……っ!?」


 次の瞬間、唐突にローグから手を握られた。

 突然の行為に戸惑う間もなく、途端、先ほどまで見えていたはずの景色が一変し、息を飲んだ。

 ……さっきまで、こんな所に、道はなかった。

 ただひたすら、この先には木が生い茂っていただけだったのに。


「……なるほど。村と同じ種類の特殊結界が、ここにも張られているのか」


 迷いの森から、狼獣人の村に入るまでも、村人から招かれるという条件を満たさない限り、結界で弾かれる仕様になっていたというのに、ここでさらにまた弾かれるのか。

 さらに、ここでは結界の中に入る条件が、ただ招かれればいいというものから、直接接触のうえでと、さらに条件を満たす為の難易度が上がっている。

 つまりこの先には、それだけ狼獣人が隠したいと思っているものが待ち受けているわけだ。


「……そんな大層なものを、何故昨日一日共に過ごしただけの私に見せようとしているのかは、分からないが……」


 乾いた唇を、舐めて潤した。

 なんにせよ、この先には私の想像を超える、とんでもないものが待ち受けていることは確かのようだ。

 心して、掛からなければ。


「ーーここは、洞窟、か?」


 ローグに導かれるがままにたどり着いたのは、生い茂る草木に入口が隠された、洞窟のような場所だった。草木をかき分けても、入口は人一人が通るのがやっとなほど狭く、暗くて中の様子が全く見えない。

 ……ここを、通るのか? 中に肉食の魔物が隠れていて、うっかり足を踏み入れた人間を捕食してもおかしくない雰囲気だぞ。

 だがしかし。私の手をがっつり握ったままのローグが、慣れた足取りで中に入っていくからには、着いていかないという選択肢自体、なく。……まあ、ローグが大丈夫だと判断しているなら、大丈夫だろう。

 ごつごつとして足場が悪い入口を通り過ぎると、想定していたよりも広い空間が現れた。

 だがしかし、真っ暗で何も見えない。

 私が困惑している脇で、ローグが小さく呪文のような言葉を唱えると、ぼんやりと周囲が明るくなって行った。


「ーーーっ!!」


 星が、降って来たのかと思った。


「これは………全部、魔宝石か?」


 洞窟の壁一面に、様々な色形の魔宝石が、びっしり埋まって光を反射してきらきらと光り輝いていた。

 大きさこそ違えど、どの宝石を見ても、純度は超一級品の、多量の魔力を含むものばかり。

 まるで、童話のような、非現実なその光景に、ただただ圧倒される。


「……どうりで家中にごろごろと、超一級品の魔宝石が転がっているわけだ」


 村中で必死に採掘したとしても、これ程の魔宝石はとても取り切れないだろう。

 これだけ有り余っているなら、あれだけぞんざいに扱うわけもよくわかる。よくわかる、が。


 ………改めてこの洞窟、人間の偉い人にばれたら、戦争待ったなしなんだが、どうしよう。

 インフレで魔宝石市場が崩壊するくらいなら、まだかわいい問題だ。話は経済だけじゃ収まらなくなってくる。

 魔宝石は、魔力の結晶。使い方によっては、どんな武器より強力な殺傷兵器にもなり得るのだ。どれだけ相対的な価値がインフレしたところで、その事実は変わらない。

 未だ獣人差別があちこちに残っている現状で、獣人の一種族が大量の魔宝石を独占していることがばれたらどうなるか。……どうやっても、最悪の未来しか想像できない。

 なるほど………狼獣人がこの村だけに引き込もってきた理由が、とてもよくわかる。よくわかるからこそ、とてもローグに問いただしたい。

 ……なんで人間である私を、ここに連れて来たんだ。

 これ、どう考えても、村人以外では門外不出の極秘事項だろう!? 村長の息子である君が、こんなにあっさり人間に秘密を暴露して良いのか!?

 もちろん私は誰にも教えるつもりはないが、それにしたってもっと警戒心をだなあ……っ!

 

 一人私が顔を青くしたり赤くしている一方で、ローグは変わらず平静なままだった。

 「どの色が好きなんだ?」……って、君ねえ………。


「……そう言えば、やっぱり琥珀色の魔宝石は、この辺りでも珍しいわけじゃなさそうだな」

 



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