夜空の中で君は何を見る
初投稿で至らぬ点が多いと思います。
始めは読んでいて意味が分からないと思いますが
何とか落ちをつけているので最後まで読んでいただければ嬉しいです。
よろしければ、コメントもお願いします。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
星が瞬く夜空に私の足音だけが虚しく響く。
一体どれほど上がって来ただろうか。
そう考え、後ろを振り返るとライトアップされている街並みが一望できた。
これほど煌びやかな場所に私が住んでいたとは、到底信じることは出来ない。
その雰囲気は私の気質とは正反対だからだ。
私は私を無口で根暗な人間だと思っている。
この考察は隣席の蔭口から裏付けが取れていて、間違いないと立証されている。
その私があの場所に立っていたことには違和感しか覚えない。
でも、私を受け入れない世界がこれほど魅力的に見えてしまうのは、
憧れることを諦めきれずに輝いているあの場所で、笑って、泣いて、
幸せに生きたいを願ってしまうからだろう。
羨望の眼差しで彼ら彼女らを眺めることをやめられない。
ていの悪い、諦めの悪い私自身に辟易する。
そんな他愛もない、意味のない思考に耽りながらも足を踏み出す速度は緩めない。
それでも後ろ髪を引かれる気がして、来た方向を振り返ってしまう。
あの場所で私が見ていた、感じていたちっぽけな世界を嘆き、
それを覆い尽くすだだっ広い世界を見下ろす。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
いつの間にか、思っていた以上に上がってきている。
恐怖から見たくない気持ちで一杯だが、
魅惑的なあの輝かしい光景を見てみたいと思い、
自然と視線がそちらに向いてしまう。
そのたびに後悔に苛まれる。
私が向かっている先には何もない。
小さな光が遠くで瞬いている世界。
引き返せば、私が憧れた世界に戻ることが出来る。
このまま進んでも向かった先には何があるかはわからない。
目的地に辿り着けるかどうかすらもわからない。
それをわかっていながら前に進む足を止めないのだから、
自分で自分の正気を疑う。
ただわかっていることは、あの世界に私は居られないという事実だけだ。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
何を目指しているのかを、何を望んでいたのかを思い出せなくなってしまった。
あったはずの衝動も、慟哭も枯れ果ててしまったからだろうか。
いつからか考えることをやめてしまった。
自問自答を繰り返しても得られるものが何もないと悟ったからだ。
今や手段と目的が入れ替わり、ただ上に向かうことだけが生きがいになっている。
後ろの世界に感じていた羨望も後悔も全て忘れ去り、
振り向く気力さえなくなった。
ただ、惰性でこれまで続けてきた動作を繰り返す、
機械に成り下がっている。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
行く先に永遠と続いている風景に、色褪せていく現実に視線を向ける。
全てを飲み込んでいるのかと錯覚するほどに私は孤独に包まれている。
私の自我が、私の存在そのものがこの広大な空間では塵と同等になる。
いくら目を凝らそうとも、目指すべきものは見当たらない。
だからこそ、少しでも多く、歩を進める。
だからこそ、届かないとしても、手を伸ばす。
だからこそ、切願する。
理想郷を目指す。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
目指してきたものが現実味を帯び始める。
そして唐突に質量を伴って目の前に現れた。
やっと手の届くところまで来ることが叶った。
誰もが眺めているだけで、この場所に来ようとは露程も思わない。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
先に進もうと足掻こうとする人の足を引っ張ることで、
誰もが平等であろうとする。
蔑まれた目で見られようとも私はここに来ることを選び、望み、実行した。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
私は私を裏切らない。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
長かった旅路が終わりを迎えようとしている。
振り返ればネオンの光で爛々と輝く地球が一望できる。
ここまでよく上がってきたなと私は自分がしたことに驚く。
今まで歩んだ軌跡はしっかりと残っている。
梯子を登り切って着いたのは月だ。
これが今回の終着点。
私は月の住人になりたかったわけではない。
誰も達成したことがないことをしてみたかった。
誰も見たことがない景色を見てみたかった。
特別で在りたかった。
そんな浅ましい考えでここまで来れてしまうのだから、
人間何に本気になれるか分かったものではない。
しかし、着くまでは憧れであったものは、
着いてしまえば、ただそれだけのことだった。
それだけのことだと言えるようになった。
結果として、これは特別なことではなく
純粋に行動から得られた成果なのだと、認めさせられてしまった。
おかげでこれからどうするか、どうしたいか考えが及ばない。
取り敢えず目の端で地球を傍観しつつ、辺りを散策する。
すると、ここに辿り着いたものとは別の梯子を見つけてしまった。
これかたやることがすんなり決まった。
「カンッ・・・カンッ・・・カンッ・・・・・・」
今日も今日とて梯子の先を目指す。
後ろを見れば、そこには小さな光が散乱しているだけ。
私のいた世界がどの光に紛れているかは見分けがつかない。
もう後ろ髪を引かれることはない。
ただ先を見つめて進む。
辿り着けるかわからないが、どこまで行けるかわからないが、
この足が朽ちない限り、この魂が消滅しない限り、
私は登り続けるだろう。