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Stronger  作者: 神影
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Stronger 後編

「あ~懐かしいね、そんな青春時代もあったなぁ。」

使用済みクラッカー片手に、男はたった2年でそんな年寄りじみた台詞を吐いていた。頭の紙テープをとりながら遼は苦笑する。

「思い出に浸ってる暇があったら、これとってくださいよ先輩。」

「お?言うようになったな遼~」

クシャクシャに笑うその顔はまだどこか幼さは抜けておらず、見慣れない私服が余計に子供っぽくて滑稽だった。

…あれから2年。柴崎は卒業して無事大学に進学しもうじき大学2年生。遼と早希は高校3年に進級。だがまだ終業式を迎えてない。

「いやぁ~遅れて悪かったよ。遼の柔道大会優勝祝い。」

「いえ、ありがとうございます。先輩のお陰です。」

秋の大会。遼は初めて優勝カップを手にした。まさか自分がここまで来るとは、と当時思わず泣き出してしまい、早希には笑われたものである。そのお祝いを先程出会い頭にクラッカーという、サプライズというかただのドッキリという形で行われた。いや、お祝いのちゃんとしたメッセージならさっき届いていたので、後で確認しようとは思っている。

「俺は何もしてないよ。遼の強くなりたいって想いが、ちゃんと届いたんだと思う。半年しか見てやれなかったけど、あれほど努力していたんだ。結果が出て当然だろ。」

「でも、キッカケをくれたのは早希と先輩ですから。」

「…早希、かぁ……。」

少し冷え込んできた夜空を見上げる柴崎。暖かくなるとは言えどまだ微妙な季節。何か意味ありげな瞳に吸い込まれそうになり、思わず言葉を口にする。

「…何かあったんですか?」

柴崎は少し溜め、言うべきかどうかを悩んでいた。良いことなのか悪いことなのか、それをこの人を見て判断するのは難儀なことだった。遼に出来ることはただ、柴崎の判断を待つだけだった。

「…うん、いや、あのさ、遼って変わったよなって。」

「…え?」

想定外な間抜けた言葉に目が点になる遼。冷たい風が吹き付けてきて、真面目な話をしていることを悟るも、困惑の二文字しか頭に浮かんで来ない。

「ほら、俺が最初に見た時のお前の早希ちゃんの呼び方、さっちゃんだっただろ。それが今では、早希、なんてさ…。いや、勿論良い意味で変わったよなってことだ。」

早希の呼び方は1年の終わりの頃、遼が意識して変えたものだ。最初こそ慣れず、早希も違和感しか感じていなかったようだが、お互いもう慣れてしまったので考えたこともなかった。

(…そっか。変わったんだ、僕…)

言われてみれば、謝る回数も減った。話し合いの中でコソコソ隠れる回数も減った。泣く回数も、いじめられる回数も格段に減っていた。遼は自分の拳を握りしめてみる。少し大きく太くなったかなも思う掌。

________強く、なれたのかな。

そんな想いが遼の頭の中を過った。まだ風は止まない。だけど、そこまで寒さに凍えることもなかった。どこか溢れるような何かは、確かに感じていた。

「あ、そうだ。早希ちゃんのことで何か相談があるって言ってたけど…」

「…あ、ハイ。…実は早希、部活に来なくなったんです。」

「えぇ!?嘘だろ!?」

にわかには信じがたいのだが、事実であった。ここ最近、早希を放課後に見かけなくなった。2年になってクラスが離れてからというもの、部活以外早希を見る機会も減ったというのに、部活ですら早希を見なくなったのだ。

「…早希ちゃん、柔道の稽古サボったことなんて1度もなかったはず…何かどうしても行きたくない理由があったんじゃないかな。」

"早希が昔からやっている柔道をやりたくない理由"。

「…力の差……とか?」

男子高校生の成長は著しい。遼と同様に、女子となんか比べ物にならないほど力が増したり背が伸びたりする。それがやはり憂鬱になることはあるかもしれない、と考えた。

「…いや、多分それはないな。だったらもっと早く挫折してると思う。…それに、早希ちゃんはそうやって差別されるのが大嫌いでね…比べられたら比べられただけ努力する子だった。」

「…じゃあ一体……。」

考えれば考えるほど心配になる。強くなるだけじゃ、守れないものもあるのはわかっているから。でも、今の自分には何も持ち合わせていないのも事実だった。心配出来るだけの信頼も、恐らく得られていない。心の奥底に、何とも言えないようなドロドロとした塊が居座り続けて、嫌な気分だった。それを見かねて、柴崎は重々しく口を開いた。

「……精神面、じゃないかな。」

「……えっ…?」

『精神面』即ち早希の想い。考えていること。…ピタリと風と思考が停止した。

(…早希が考えていることなんて、考えたこともなかった。)

いつでも人の事を思い迷惑がかからないよう最小限に動き、相手に悪いことをしてしまったら直ぐに死ぬ気で謝る。そうやって周りに怯えながら生きてきた遼。でも、早希には違かった。そりゃ勿論悪いと思うことにはすぐ謝る。けど、そこまで気を遣っていたわけじゃなく、むしろオープンというべきだろうか。ありのままで接し、ありのままで返してくれた早希。

…その早希が、何を思いそうやって接してくれていたのか。

「……………………。」

静かな沈黙が流れる。柴崎は急かすことなくその回答を待っていてくれた。考えて考えて、考え続けてもわからない。

(…一番、早希の近くにいたのに……。)

そう思うと、何だ悔しくて堪らなくなって、でも、わからないものはわからない。でも、解けない数式にずっと時間をかけているのは、時間の無駄だ。クラッカーの残骸をきゅっと握りしめた。

「…僕、明日早希と話してきます。」

「何か思い当たる節、見つかった?」

「いえ、だから聞きたいんです。ちゃんと、早希の口から。」

キッと真剣な表情で意志を伝える。これも、この2年間で学んだ、大切なこと。柴崎はフッと大人のように微笑み、

「あぁ、きっとそれがいいよ。」

そう言って背中をそっと押してくれた。その一言だけでも、遼にはとても心強かった。

「…それじゃ、お先に失礼します!ありがとうございました!!」

「いーえ。…色々大変だと思うけど、頑張ってね、遼。」

手をヒラヒラと振る柴崎を背に、ペコッと一礼し、遼はタッタッと小走りで帰り始めた。明日、どんなことを話せばいいのか。もし泣き出してしまったら、どう受け止めてあげようか。軽い話だったら、どう励ましてあげようか。…ふと浮かんだ早希の眩しい笑顔が、懐かしくて。純粋に、その笑顔をまた見たくて、どこか胸の鼓動が高鳴っていたような気がした。

(……あぁ、そっか。僕は早希のこと…。)

そう思うと、何だか足が軽くなった気がした。


「…やっぱり変わったよ、遼。…着実に、良い方に。」

胸ポケットからスマホを取りだし慣れた手つきでメッセージを開く。あの子から、早希からきた、最後の連絡。

『先輩どうしよう』

『私もう』

『遼に合わせる顔がない』

気がついてから直ぐに返信をしたが、そのメッセージも読まれることのないまま、会話が途切れていた。早希に何が起きたのか全くわからない。だけど、散々振り回して迷惑をかけた幼なじみにもう合わせる顔がないなんて、彼女らしくなかった。それだけは、確かだ。

(…もう俺が口出し出来るようなことじゃない、ってこと…か。)

スリープモードに切り替え、また空を仰いでみる。暗くてよく見えないはずなのに、雲行きが怪しくなっていくのがわかった。手を伸ばしてみたが、その先には輝く星なんて見えなかった。


曇天の学校のお昼時。遼は隣のクラスのドアを元気よくガララッと開けた。

「早希、いる?」

近くにいた遼の友人は自分の教室をキョロキョロ。珍しく、早希の姿が見られなかった。

「いねーわ。何か用事あったなら言っとく?」

「…いや、自分で言うから大丈夫。ありがと!」

直ぐ様早希の教室を後にする。早希の行きそうな、思い当たる節を全て巡ってみる。図書室、美術室、音楽室、調理室、化学室、体育館、武道館、中庭…けど、早希の姿はどこにもなかった。

「あ、ねえ!早希、知らない?」

通りすがった早希と同じクラスの女子達を呼び止める。女子達は顔を見合せ、クスクスと笑い、「知らない。」とだけ答えた。

「そ、そっか…ありがと!」

少し疑問を抱きながらも、遼は再び捜索を開始する。もしかしたら先生に呼び出されているのかと職員室や校長室まで訪ねたが、早希はいなかった。

「…早希、どこ行ったんだ……。」

「遼~!!」

廊下の向こう側から、男友達が数名こちらに向かって手を振りながら走ってきていたのが見えた。何やら顔は嬉しそうだ。

「小嶋さん、屋上で見たって人いたぜ!」

「えっ…それ本当か!?」

「あぁ!間違いなく小嶋さんだってよ!!何だかよくわからねえけど、早く行ってやりな!!」

「皆…ありがとう!!」

何も言わずとも探すのを手伝ってくれた良い友人を持てた幸せを噛みしめ、遼は屋上へ向かう階段へ走り出した。…しかし、遼の脳裏には何かが引っ掛かっていたが、今はまず屋上へ向かうことを最優先とし、忘れ去ったのだった。


バタンッと勢いよく屋上の扉を開いた。そこには情報通り、フェンスの近くに早希の姿があった。

「早希!…やっと見つけた…ずっと探してたんだぞ?」

安堵の声をもらし早希に話しかける遼。…しかし、早希と目が合わない。彼女はどこか下の方を向いているようだった。

「…早希?どうしたんだよ~」

「…来ないで。」

「…え?」

ボソリと何かが聴こえ、歩みよろうとしてようやくそれに気がついた。

「…いいから来ないで!!」

早希の目には、キラリと光る大粒の涙が浮かんでいた。

「……?早希…?」

走り回ってた息がようやく整い始め、頭がフル回転する。遼の脳みそは、先程の違和感の正体を瞬時に突き止めた。

………『早希、高所恐怖症じゃなかったっけ』?

「………!!!?さ、早希…」

「来んなっつってるだろ!!!」

耳をつんざくような乱暴で悲痛な叫びが遼を脅した。怖さ、というより口調の乱れから混乱が生じた。

「…大丈夫。ちょっと高い所慣れようとしただけだから…大丈夫だから…ほら、平気だよ。あたし強いでしょ…!」

声が、体が、目視出来るほどに震えている。引き笑いしながら、遼に言ってるはずなのに、まるで自分に言い聞かせるように、早希は繰り返す。嘘だと判断するには充分すぎる情報量だ。

(…待って、早希…どうして……何で……)

足がすくむ。止めなきゃと頭では思うのに、1歩間違えたら終わりだと思う自分もいて、息が止まりそうなほど苦しい。いや、もう呼吸をすることを忘れている。

「……ねぇ、遼…」

「………………ッ…何だよ…」

「…あたし、強くなんかなかったんだ。」

一瞬、何を言われたのかわからずポカンとする。

(……何…?)

再度確認するように顔を上げ、早希の目を見つめ直す遼。潤んだその瞳には、何が写っていたのか。遼には遠くて見えなかった。だけどその瞳が、全て物語っていた。

「…遼さ、県体優勝したよね。…あたしね、その時スッゴく驚いて、でも嬉しくて…本当だよ?嬉しかったんだ!あの遼が、泣き虫であたしの後ろずっとひつっついてくるような遼が、こんなにも、強くて、頼りがいのある人になるなんて、思っていなくて…」

フェンスを握る早希の手が強くなる。止めたい。今すぐ止めなきゃならないのに、今はその話を最後まで聞かなきゃならない気がした。歪んだ空が、今にも壊れそうに漆黒に染まっていく。いつの間にか、小鳥のさえずりも耳に届かなかった。

「…あたし、ずっと遼を守ってあげなきゃってばっか思ってた。馬鹿みたい。守られていたのは…あたしの方だったのに。」

「…そんなこと…!!」

「そんなことなくないの!!あたし知ってた!遼がいじめられてた理由!誰かを庇ったりして、うざがられて、抵抗しないからって怪我させられて…遼は、遼は弱くなんてなかったんだよ。優しくて強くて…それが本当の遼だって…

遼が弱かったのは、優しさ故に誰にも怪我をさせないように気を遣ってたから…暴力とかふるったことなかったから…!!」

空がうねりを上げ、曇天が崩れていく。吹き付ける風が、かまいたちのように痛かった気がした。1人の少女の魂の叫びが、全てを揺るがしていくかのようで。

「それなのにあたしは…強いから大丈夫って自信満々で、結局は勝てなくて、笑われて、辛くて…その時やっと気付いた。

…今まで遼が止めてくれてたから。自分から負けを認めて私の前に立ちはだかってくれてたから。…私は、私が遼を守ってあげていたからだとばかり思ってた。

でも、遼があたしを頼らなくなってから、あたしが遼に頼っていい理由なんか見つからなくて、だから1人で大丈夫だって強がって、結局負けて…」

「…負けて…?早希は一体誰に負けたんだ?…ううん、負けて諦めるなんて早希らしくないよ!!」

「違う!!!」


________ピカッ!!!


ゴロロッ!!!と何処かで落雷した。いつの間にか一面暗闇に覆われていた空。それが、早希の心の雲行きのようで。吐き出したい言葉が一気に飲み込まれた。

「…諦めたかったわけじゃない…けど、あたしは、あたしは、遼みたいに強くなかったの…!!!…だから… ご め ん ね」

途端、早希の足元にはコンクリートがなかった。フェンスを跨ぎ、その下へと足を踏み入れようとしていた。遼の脳裏にバチチッと危険信号が走る。

"ダメだ、逝くな。"

重たい鎖に繋がれているかのように動かない足を何とか前へ前へと踏み出していく。引きちぎれそうなくらいに伸ばした手の先には遠ざかっていく君が見えて。頭がわれるように痛くて。


"______やっと、強くなれたのに。"

『…私は強くない。…強いのは、アンタの方だよ……遼。』


無意識に伸ばされていた君の手を僕は、握ることも出来なかった。強くなった握力でフェンスを潰すように、強く強く握り締め、それでもまだ、君を見る勇気なんて僕には無くて。息が出来なくて、苦しくて、さっきまでここに在った君にもう1度会いたくて、謝りたくて、抱き締めたくて。

悲鳴やら何やらが聞こえる中、遼には次第に降り注いできた雨音しか耳に届かなかった。君が立っていた場所に力が抜けて崩れ落ちるように膝がつき、君との境目の鉄格子に触れる。まだ笑顔の君が思い出せるから。あの頃のように、笑っている君が。まだ目の裏に焼き付いているから。火傷しそうなくらいに熱いそれが、遼の頬を流れた時にはもう、何の悪気もない冷たい雨がそれを流して溶けて無くなっていく。

…僕の中で『強くてカッコくて、本当は優しい僕の好きだった人』が、昔より遠い夢物語に成り果ててしまったことを、この世で僕以外誰も知らないまま、今日も平凡に世界は回っていく。


『…僕は強くなんかないよ。』

鍛えに鍛え、握り締めた拳で掴めた物は…










___________"後悔"でした。

グダグダになりましたが終了…です!!

早希の最後の一言を書きたかった故に書き始めたこれはまさに駄作\(^o^)/


強さと一体?解釈は読者様にお任せ致します。

因みに早希の『負けた』は、テレビなどでも話題にあがることのあるあの内容が微かに混じっております。

細かい描写をしたかったのですが、真似をされたりするととても罪悪感があるので、有りがちな内容に変更しました。

少しでもこういうことは減って欲しいです。


改めまして、ご閲覧いただきありがとうございます!!!

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