第十八話 「ハンガーマン!! 」
■■■自殺ランブルのルールその18■■■
自殺遊園地は、この世とは全く違う時間の流れの中に存在している。よって、参戦者同士の間には多少の時間認識のズレが生じている場合がある。
第十八話 「ハンガーマン!! 」
"アース作戦"によって恐怖の飢獣達の脅威から免れたボク達"強奪チーム"は、まだどこかに潜んでいるであろう能力者本体の姿を、この自殺遊園地地下通路にて捜索していた。
「それにしても舞台、どうやってあんな方法を思いついたんだ? 」
隣を歩く須藤さんが、ボクの背中を大きな手で叩きながら尋ねてきた。力が強すぎてちょっと痛い……
「え、ええ……それは、もしも本草 凛花がこの場にいたらどうするか? って考えた時に閃いたんです」
「本草……あのメラメラセーラー服か……」
「はい。彼女ならきっと、この通路全体を炎で燃やし尽くして、熱で本体を苦しめるだろう。って思ったんです。それで同じ方法を出来ないか? って考えてさっきの作戦を考えました」
「なるほどな……」
須藤さんは本草 凛花の名前を聞いた瞬間に、苦虫を噛み潰したような表情を作った。そういえば、須藤さんは前回のランブル戦で彼女にやられた、と話していたことを思い出す。宿敵である本草の話をうかつに喋ったのはちょっとまずかったかもしれない……
しかし冷静になって考えると、ボクにとって彼女は須藤さんをピンチに追い込み、三田さんを苦しめ、自分自身だって火の玉を投げつけられた因縁の相手だ。でもどういうワケか敵意というか、怒りの感情は一切沸き上がるコトが無かった。
残虐だけど、小細工無しで正面から向かってくるタイプの相手だからだろうか? ……それとも同じ自殺者のよしみとして同情しているからなのか? その辺はハッキリとしない……
それと不思議なことに、本草とは過去に一度会ったことがあるような既視感を覚えていた。
ご近所さん? 登校中に同じバスに乗っていた? それともテレビか雑誌か何かで見かけたことがあったのか?
しかし、その疑問はいくら考えても着地点は見えてこなかった……なのでボクはこれ以上深く追求しないコトにした。
本草 凛花……一体何者なのだろう?
「さっきの作戦、NICEだったよ舞台クン」
「そうそう、おかげでおれと雪乃はこうして激シブなままだしな」
本草 凛花について思考している脳内に、ガムシロップを注がれたような二人の男女の浮わついた声……目のやり場に困る真っ白な脚の雪乃 哀さんと、その彼氏である墨谷 練さんだ……
さきほどの戦いは、この二人がいなければ勝てなかっただろう……それだけ重要な役割を果たしていたコンビだ。
でもその直後に二人は熱い抱擁を交わしながら【特殊能力】で作った氷の棺の中に閉じこもってしまいそうになり、すぐにチームリーダーの瀬根川 刃に「あとでやれよ! 本体を探すのが先だ!! 」と怒られてしまっていた。
「お前ら、気を抜くんじゃねぇ! 10分経てば能力者本体が回復しちまう、その前に見つけるんだ! 」
「OK(おっけ~)」「まぁ、任せときなよ」
二人の気の抜けた返事に、瀬根川のこめかみがピクついていたことは、見て見ぬフリをすることにした。それにしても……二人は棺の中で一体何をしようしていたのだろう……?
そして、通路内を手分けして捜索して5分ほど経った頃だったろうか? 「みんな、来てくれーッ! 」と須藤さんの大きな声が響き渡った。ついに能力者本体を発見したのだ……
「う……ううぅ……うぅ……」
ボク達は急いで須藤さんの元へと駆け着けたけど、そこで待ち受けていた光景は、少しだけ浮かれていたチームの雰囲気を一気にひきつらせてしまうほどに、衝撃的だった……
「嘘だろ……こんな……」
「彼が……飢獣の使い手……? 」
「まさか……こんなに……」
地下通路の床に倒れ込み、悲痛な声をこぼしながら痙攣している1人の男……この人物こそが、ボク達の仲間である志雄 努さんと脱落に追い込み、飢獣を操って苦しめていた張本人に違いなかった……
「うう……ううううぅっ……うぅッ」
頬が痩せこけ、干物のように細い手足に、青白い肌。怪我や病気で入院した時に着る病衣に身を包み、子供のように泣きじゃくっているその男は、あまりにも弱々しく、あまりにも悲壮感を漂わせていた。
「うぅ……痛い……痛い……」
練さんのガスがまだ効いているのだろう。身体が動かせずに全身の痛みに苦しんでいる彼を、皆どうしていいのか分からず、ただ黙って見下ろすことしかできなかった。
もう何人か参加者を脱落させているボクや須藤さんでさえ、この男に最後の一撃を与えるコトにためらいを覚えているのだから、他の強奪チームメンバーは、なおさら手を出せずにいたのだろう。なぜなら瀬根川も、走栄さんも、練さんと雪乃さんも、そして大沢さんも皆……誰1人対戦相手を"生かした"経験がないのだから。
今のボク達は、まるで釣りの初心者がいざ魚を釣り上げた時に、針の外し方が分からずにうろたえている様子に似ている。締めて食べることも、放流して逃がすことも出来ない……
「おい……」
しかし、とうとうそんな膠着状態の空気を断つように、瀬根川が能力で作った日本刀を握りながら、前に踏み出して男の側へと近寄っていく。
「ガシィッ!! 」
金属と石がこすれ合うような無機質な音が地下通路に反響した。瀬根川が刃を地面に突き刺して、そのままひざまずいてジッと飢獣の能力者を見つめ、こう言い放った。
「お前……俺達の仲間になれ……一緒にれ~みんマウスから鍵を奪い取るんだ」
「えぇっ!? 」と、チーム全体がざわついた。もちろんボクもだ……だって目の前で倒れている男は、同じ強奪チームの仲間を脱落させた張本人なのだから。
「このクソバカ野郎! 正気か? こんな得体のしれないヤツを仲間にだって? コイツはオレ達の仲間を消しちまったんだぞ!? 」
たまらず須藤さんが瀬根川の提案を否定する。ボクを含めて他のみんなも黙ってはいたけど、多分全員須藤さんと同じ考えだったと思う。"昨日の敵は今日の友"という言葉があるけど、今ボク達が置かれている状況ではとてもお互いに健闘をたたえて仲間になるような雰囲気ではない。
「須藤……俺達は、お前や舞台とは違うんだ」
「あぁ? どういうコトだ? 」
明らかに敵意を剥き出しにする須藤さんだったけど、瀬根川は少しも動じていなかった。今の彼には、どこか"信念"のようなモノを感じ取れた。
「俺はココに来た時から決めてたんだ。誰も脱落させずに死に残る方法を絶対に諦めない、ってな」
「だからっておめぇよ! 仲間をやられてるんだぜ! 一緒に戦えるワケねぇじゃねぇか! 早いとこトドメをさすんだよ! 」
「うるさいぞ須藤! これは俺が"決断"したコトだ! 大人しくしたがってもらうぞ! 」
倒れている男をないがしろに、お互い火花を飛ばし合う須藤さんと瀬根川……そんなやり取りにしびれを切らしたのか……
「やめて! 」と1人の女性が声を張り上げる。
「大沢……」「大沢……ちゃん」
さっきまでの頼りなさげなイメージを感じさせない大沢さんの大声は、この場にいる全員の心を、シン……と引き締めた。
「う……うぅ……」
そしてそれは、飢獣使いの男にとっても同じだった。彼は先ほどとは明らかに違う、わずかだけど光に満ちた瞳を作っていた。
「大丈夫ですか? 」
大沢さんは男に近寄り、しゃがみこんで男と視線を合わせる。チームの皆が「あぶないぞ! 」と彼女を止めようとするも「平気」と笑顔をだけを返した。
「……う……うん……」
練さんの毒ガスの効果が多少和らいでいるようだ。男は何とか口を動かして、大沢さんの言葉に返答する。
「苦しい思いをさせてごめんなさい……わたしたち、れ~みんマウスを探してるの。もしも知ってることがあったら教えてくれますか? 」
「……しらない……」
男は荒くなった呼吸を何とか整えながら、率直に答えた。何か隠している様子は見えない。この人は本当に、れ~みんとは無関係にたまたまこの地下通路ではち合わせただけのようだ。
「わかりました……それじゃ、わたしたちはもう、あなたとは戦いませんので、元気になったらすぐにここから離れてください」
「……え? 」
大沢さんは飢獣の男と不可侵の約束を取り付けようとした。須藤さんが何か言いたげな表情を作ってその行為を見守っていた。
「……というワケで……わたしたち……このままここを退散しましょう……てのは駄目ですか? 」
勝手に決め事をして申し訳ない。という、ちょっと困ったニュアンスを込めた笑顔で、大沢さんはチームの皆に事後相談をする。
「駄目だ大沢ちゃん、甘すぎるぞ! またコイツはまたオレ達を襲ってくるに決まってる!! 」
須藤さんは強い口調で大沢さんの提案を否定した。それはごくごく当然の考え方で、ボク自身も同じだ。
はじめにこの男の弱々しい姿を見たときは、ボクも面食らってしまってスグに攻撃することが出来なかったけど、やはりここでこの男を見逃してはいけない。
これまでに凶悪で卑怯な参戦者を何人も見てきている。慈悲をかけたところで平気で裏切られてしまうのがオチだ……そう思っていた。
「まぁまぁ、須藤さん。ここは大沢ちゃんの言うとおりにしようよ」
「そうそう。もしまた襲われても私達がまたやっつけちゃうから」
練さん&雪乃さんも大沢さんに同意のようだ……そして……
「ま、そうですね。努さんがやられてしまったことは悔しいですが……僕達の目的はあくまでも鍵の強奪……バトルで相手を貶めることじゃない」
走栄さんも……
「……わかったよ……コイツを仲間にできなかったのはしょうがねぇ……ここは俺らも退くとしよう」
瀬根川も……
あっさりと目の前の敵を見逃してしまおうとするチームの流れに、ボクと須藤さんは少し呆気にとられてしまった……どうして? このままだと自分達に再び危険が及ぶ可能性があるのに?
『須藤……俺達は、お前や舞台とは違うんだ』
ついさっき瀬根川が口走った言葉が、ボクの脳内でリフレインする。ボクや須藤さんが……何か間違っているのか?
思えばボクは、この自殺遊園地に来て早々にガス男に襲われ、目の前で仲間を脱落させられ、息つくまもなく戦闘に巻き込まれて……それは多分須藤さんも同じで、このバトルにおいて悩む暇すら無かった。その辺りに考え方のギャップが生じているのだろうか。
そしてそんな自問にふけっていたボクの耳に突然、窓の隙間から入り込む風の音のような、弱々しくはかない声が入り込んできた。
「…………自分は……」
それは、飢獣の男が精一杯振り絞った声だった。彼がボクたちに話しかけてきたのだ。
「自分は……反州 来徒……っていう名前」
男は突然自己紹介をし始めて、強奪チームを引き留めた。
「来徒……さん? 」
大沢さんが聞き返すと、彼はコクリと頷く。彼の顔はどこか安心した表情に変わっていて、まるで飼い主を見つけた柴犬のような……そんな印象すら受けとれた。
「……自分は……もう君たちと戦う気は無いよ……ただ、ちょっとだけ話を聞いて欲しい……」
反州 来徒はゆっくりと語り始めた。
■ ■ ■ ■ ■
自分には、かけがえのない友達がいた。虚弱で引きこもりがちな自分にも分け隔てなく接してくれた、とても良いヤツ……
でも、自分はそんな友達を……「食べて」しまったんだ……
2年前に、一緒にバスに乗って遠くまで遊びに行く途中だった。バスが峠のカーブで事故を起こし、崖を滑り落ちて地面に激突した……
幸い一命をとりとめた自分と友達だったが、助けを求めて森の中をさまよっているうちに迷ってしまい、遭難してしまった。
怪我がひどかった友達はスグに死んでしまった……そして両足の怪我が悪化して歩けなくなってしまっていた自分は、救助が来るのをひたすら待つことしか出来なかった。
待てども待てども助けは来なかった……燃えさかるバスの恐怖に怖じ気付き、人目のつかない場所まで避難してしまっていたことが仇になった……
そして何日か経ち、気力も体力も限界に達した頃……自分の中の理性は失くなり……"本能"だけが残った。
そう。気がついたら自分は……傍らで魂を失い、骨と肉の塊と化した友達を、栄養源として噛みちぎり、飲み込んでいた……
虚弱で体力も人並み以下の自分が、いざという時に貪欲なまでの"生"への執着を発揮したコトが、ひたすらに腹立たしかったし悔しかった……
そして、無事に救助されて危機を回避した自分だったが、その後食事をする度に友達を食べた記憶が蘇ってしまい、罪の意識に悩まされ続けた……
そのうち自分は、自ら一切の食事をとることを拒否し、衰弱して命を絶とうと試みた……でも……
まさか……まさかこんなヘンテコな遊園地に集められ、一つしかないあの世行きの切符をかけて戦わなくちゃならないだなんて……夢のまた夢にも思わなかった……なぜ簡単に死なせてくれないんだ……
……もうここに来るのは3回目……
バトルに敗退して、生き返る度に病院で目覚め……そこで差し出された食事を見た瞬間……米や肉を見苦しくむさぼりつき、滑稽なまでに生きることをやめられない自分自身に毎回絶望する……
友達を食ってしまっても、身体に拒食症状を一切起こさずにいる自分に嫌気がさす……自分にとって友達は……単に便利な存在として横に置きたかっただけの存在だったのか? そんな考えまで沸き起こる……
もう生き返って絶望の黒い渦に陥るのはイヤだ……今度こそ戦って死のう……そう思って今回もこの戦いに臨んだ……
■ ■ ■ ■ ■
来徒の告白を、みんなが息を呑んで聞き入っていた……あまりにも悲惨……あまりにも壮絶な彼の過去に、練さんと大沢さんに至っては涙を流して同情をしていた。
「ずっと……苦しんでいたんですね……"ここ"でも"向こう"でも……」
大沢さんのすすり泣く姿を見て、来徒も再び涙を流した……その姿に、ボクはただただ胸を締め付けられてしまう……
ボクは、自分ばかりがこの世で一番不幸な人間だと思いこみ、それを建前に、他の参戦者の気持ちを知ろうともしなかった。
一緒に行動していた須藤さんでさえ……だ。
今になって、三田さんがなぜ自分のことを語ってくれ、なおかつボクの話も聞いてくれたのか……ボクはその本当の意味をようやく理解できた。
「……君たちみたいな人達は……初めてだよ……自殺遊園地にきて……自分の話を聞いてくれるような……そんな人は今までいなかった……」
「俺たちは……お前と同じ"元々弱い人間"だから……」
瀬根川は、哀愁のこもった声で来徒に答える。彼や須藤さん、練さんと雪乃さん、走栄さんも大沢さんも……みんなそれぞれに苦しい過去を背負っている……そんな当たり前のコトをボクは今更になって意識した……
それは……今までボクが倒してきた相手も同じハズだ……
「……君たち……もしよければ……」
ずっと仰向けに倒れていた来徒は、ゆっくりと上体だけを起こして、ボク達を仰ぎ見た。
「……れ~みんマウスを探してるんだってね? ……よければ……協力するよ……自分の能力を使えば……この地下通路内を隈無く捜索できるから……」
「本当か? 」
来徒によるまさかの共闘宣言で、瀬根川をはじめ、チーム全体が一気に活気に満ちた。須藤さんだけは未だに疑惑の念を捨てきれずに表情を緩めていなかったけど……
「話を聞いてくれたお礼だから……」
「ありがとう! 来徒さん! 」
喜んだ表情で感謝の意を伝えた大沢さんは、両手を差し伸べて彼を助け起こそうとした。その行為に、来徒はどこか照れくさそうな顔をしながら応じ、彼女の両手を掴んだ……
その時だった……!
「キャアアアアァァァァッッッッ!!!! 」
悲鳴! 大沢さんは突然、熱した鉄板に押しつけられたかのような悲痛な叫びを上げた!!
一体何が!? と考える暇も無く、彼女の姿が見る見るうちにドス黒く変色し、皮膚は乾いた泥のように変貌し……この姿はまるで……
「大沢さぁぁぁぁんッ!!!! 」
大沢さんはあっという間に……
飢獣そっくりの、醜い姿に変わってしまったのだ……!
■■【現在の死に残り人数 17人】■■
【裏技名】飢人 (ハンガーマン)
【能力者】反州 来徒[24歳]
【概要】
飢獣夢喰らい(ハンガーズ)に隠された裏技。飢獣を一体も作り出していない状態で、対戦相手を両手で触れた時に発動する。
相手を飢獣そっくりの飢人に変え、飢獣軍団の一員にすることが出来る。
飢人は飢獣と違い、物理攻撃も通用しない完全無敵状態となり、胸部に露出している水色の核を破壊しない限り倒すことが出来ない。そして倒された飢人は元の姿に戻り、ランブル戦に復帰できる。能力者本人が倒されてしまった場合も同様である。




