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序章

幼児の見ることができる世界はとても狭い。彼らが認識する世界は、寝床や母の腕の中から見える自宅の様子だけだ。それが立って歩けるようになると、少し世界が広がる。家の外の世界を知る。もう少し成長すると、人と人とのかかわりをちょっとばかし学び、遊ぶことを覚え、物語の世界を知る。その人にとっての世界の広さは、成長することで広がっていく。

さて、始祖暦760年ごろの世界地図を見てみると、当時の人々が考えていた世界の姿が、実際と比べていかに狭いものだったかが理解できるだろう。オーリア王国を中心として、ノルギスタン公国、タイン国をはじめとする国々が5つばかし載っているだけである。これは当時のオーリア王国の学者が、旅人や行商人の話を集めて編集したものであり、国境のかたちも実際と比べてみると非常にいびつで大味だ。この6つの国々が当時のオーリア国の識者にとっての世界だったのだ。たぶん民衆にとっての世界はもっと狭かったのだろう。

文明の進歩は人の成長に例えることができる。北大陸文明はこのとき、世界の様子を知ろうとして、まだ幼い両手両足を一生懸命に外の世界に伸ばそうとしていたのだった。

そんな時代の話である。



***



オーリア王国の王都は大変なにぎわいを見せていた。高さが20メリチもあろうかという巨大な城壁に囲まれた城砦都市である王都だが、その内外は複数の門によって連絡されており、人の出入りが絶えることはない。商人は王都に食料を卸しに来るし、旅人はその繁栄を一目見ようと引き寄せられる。役人は地方の様子を報告しにくるし、聖職者は王都にある荘厳な教会に足を運ぶ。実に様々な年齢の様々な職業の人間が、門を出入りしていた。

そんな中、南門に近づくなにかがあった。

なにかというのは鉄の塊である。鉄の箱に地を掻く鉄の爪の連なったものがくっついており、耳障りな音を立てて前進する。鉄の箱の上には四方を鉄の分厚い板で囲まれた空間があり、そこには大砲が据えてあった。鉄の箱からは嫌な臭いのする煙が吐き出されている。

この大砲を装備した兵器と思われる異形の物体を前にして、衛兵は一瞬凍りついた。あれはなんなのだ。あれでひき殺されればひとたまりもない。そう思ったのだ。


「あれは自動車じゃないのか?」


衛兵のうちの誰かがそう言った。なるほど、馬に牽引されているわけではなく、自分で動いているので、あれは自動車かもしれない。衛兵は最近似たようなものを見た覚えがあった。「タイン国の魔法技術の結晶! 自分で走る馬車」という触れ込みで、他国から来た芸人たちが金をとって客を試乗させているのを過去に見た。

 衛兵は、勇気を出して身を前にだし、その鉄の塊を停車させようとした。鉄の塊は2~3メリチほどの高さがあり、それがこちらに向かって進んでくるとなると、相当に威圧感があった。

 しかし、鉄の塊はあっさりと停車した。すると上部の囲いの中から、頭をのぞかせるものがあった。衛兵は、大砲がついているのでてっきり兵士でも乗っているものかと思っていたが、どうやら中年の商人のようである


「男! なにゆえこの鉄の塊を王都に入れようとするのか。よくわからないものを王の城下に入れるわけにはいかぬ!」


男は衛兵の頭上から、流暢な王国語で答えた


「これは砲車といって、新しい兵器である。遥かタイン国から友好の証として、国王に献上しに参った」


「タイン国から? 証拠があれば提出願いたい」


「これでいいだろうか」


男が出したのは竜皮紙でできた立派な書状であった。王国語とタイン文字で書かれたその親書には、タイン国の国章の印が見て取れる。確かに本物だ。

 衛兵はそれを確認すると、声を張り上げた。


「国賓のご入場である! 道を開けよ!」


通行人たちが道の脇に退き始める。鉄の塊、いや「砲車」は、大通りをまっすぐに、王城を目指して進んでいった。

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