益体のないファンタジー考 ~僕らは生活魔法に何円の価値を感じるか~
まず「魔法を習う」というのを「英会話を勉強する」みたいなものだと考える。
学校で教わるかもしれないし、英会話教室に行って習ってもいいし、本を読んで独学で勉強してもいい。
例えば、「火を起こす魔法」が今の世の中に発明あるいは発見されたとする。
起こせる火の大きさは、ご家庭にあるガスコンロの火ぐらいで、投入する魔力に応じて弱火から強火まで起こせる。
火を起こすこと自体に燃料は必要なく、その気になれば空中にでも火を起こせる。
起こした火の持続時間は、投入する魔力量に応じて、数秒間~数時間まで。
ただし、魔法で起こした火によって可燃物に火がついた場合、それは以後、自然の火となって燃え続ける。
魔力は僕らの体内にあって、使うと少し疲れる。
体の疲れや精神的な疲れと同じように、休んだり寝たりすると回復する。
さて、僕らはこの「火を起こす魔法」を、何円までなら支払って、購入するだろうか。
正直、ご自宅にコンロが完備されている環境下では、あまり必要ない。
1000円ぐらいだったら、あると何かと便利だからと、買う人も多いかもしれない。
10万円ぐらいになると、買う人はだいぶ少なくなるだろう。
英会話教室よろしく、1レッスン60分3000円の魔法教室で、20回レッスンを受ければこの魔法を習得可能だとしよう。
3000円×20回=6万円に加えて、レッスンに通う時間と労力を考えないといけない。
自分の60分という時間の価値を、仮に1000円としよう。
その60分があれば、時給1000円のアルバイトで1000円が稼げると考える。
すると、60分のレッスンを20回受けることは、授業料と別に、2万円分の時間をそこに投入していると考えられる。
こう考えた場合、この魔法の値段は8万円だ。
その魔法を、8万円払ってでも習得したいと思えばその人はこの魔法を買う(魔法教室に行って勉強する)し、その価値がないと考えれば、そんな教室に通って魔法をこの魔法を覚えようとはしないだろう。
では、飛行魔法はどうだろうか。
僕らは、自由に空を飛べる魔法が取得できるとしたら、いくらまで支払うだろう?
例えば、100万円。
100万円払ったら飛行魔法が使えるようになります、と言われたら、僕らは100万円を支払うだろうか。
僕はこの飛行魔法、買わないかもしれない。
だって、空なんて飛べたって、別にそんなにいいことなくない? って思う。
100万円払ってまで欲しいかというと、ちょっと首を傾げる。
まあ、飛行できる速度にもよるだろうけど、その魔法にプラスアルファの機能が付いていないと、あんまり高速飛行したら自分の体のほうが持たない気がする。
スレイヤーズのレイウイングみたいに、体の周りにバリアが張られるとか。
でも、これが1000円で売っていたら間違いなく買うだろう。
1万円でも、まあ買うだろう。
10万円だと、迷うところだけど、まあ悪くない買い物という気はする。
あるいは、10万円ポンと払って手に入るなら買うかもだけど、6万円払って60分のレッスン20回受けてようやく手に入れられるとなると、換算上は8万円だとしても、買わないだろう。
自分の時間に対するコスト計算が間違っているのかもしれないし、今すぐ手に入るのと将来的に手に入るのとで、感覚が大きく異なってくるのかもしれない。
じゃあこれが、現代日本でなく、中世ヨーロッパ風のファンタジー世界だったら、どうだろう。
火を起こすには火打ち石を使って、毎日拾ってくる(あるいは誰かから買った)薪に火をつけて火を起こさなければならないとしたら、火を起こす魔法にいくらまで支払うだろう。
あるいは飛行魔法には、いくら支払うだろう。
もしそれらの魔法がすごく安いなら、社会の多くの人がその魔法を取得しているだろう。
すごく高いなら、一部の人しか取得していないだろう。
魔法を取得するために素質が必要ない、誰でも勉強すれば使えるようになることが前提だが。
もし飛行魔法が大変に普及していたら、防衛拠点の城壁とか堀なんてものは、そのコストパフォーマンスが悪くなって、作られなくなるかもしれない。
飛行魔法に関する交通ルールとかできるかもしれない。
魔法犯罪に対する対策も講じられているだろう。
脳が疲れた。
お休み。