人形の館
森の奥、一面緑の世界には不釣り合いな赤煉瓦の洋館。
天窓から月の光が差し込む頃、空が暗い時だけの舞踏会は始まる。
それまでの静寂が嘘の様に、部屋は輝き空間は震える。
独りでに曲を創りつづけるピアノやヴァイオリン。
煌びやかなドレスやタキシードに身を包んだ人形たちが、コツコツコツとステップを踏む。
輝きが窓から差し込み、翻る装飾品に反射しさらに煌めく。
音と光が縦横無尽に行きかう、人知れぬ洋館。
この場所を訪れた者は何を思い、何をするのだろうか?
不気味に恐怖し、その場から逃げ去る。
雰囲気に酔い、楽しい踊りのひと時を過ごす。
凶器に狂い、自我を見失う。
踏み入れた足の数だけ、様々な出来事が起きた。
逃げ出す猟師に見向きもせず、ただただ踊りつづけた事もある。
親に捨てられた子供たちを無口な人形たちが招き入れ、最後に幸せな一時をプレゼントしたこともあった。
そしてある時は訪れた悪人達が、舞踏会の華やかさを担う装飾品やドレスに魅了される。
ある者は家具を運びだし、ある者は人形からドレスを引き剥がす。
ある者は曲を奏で続ける楽器を持ち去り、ある者は装飾品を奪っていった。
嘗て美しい物で埋め尽くされていた洋館は、今はもう外壁と汚れ壊れた人形しか残っていない。
それでも舞踏会は続く。
全てが寝静まる夜の時間。天窓より降り注ぐ月明かりに照らされて、人形たちは踊りだす。
輝きを放つ装飾品も、曲を奏でる楽器も今はない。
それでも人形たちは踊りだす。
今までと変わらず、これからも変わる事無く軽やかで楽しいステップを踏み続ける。
今までの静寂の中に、コツコツと音だけを響かせて。
この場所を訪れた者は何を思い、何をするのだろうか?