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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
4章 1部 首都アトゥル
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4-19 どうしてこうなった

……どうしてこうなった。というか、何だこれ。


目の前に出される書類の1つは陛下から全貴族、そして官位を持つ全ての人に対する下知。やたら難しい言葉が連なってるけど、要は『契約した獣神及び契約者()、そしてミイドさんを政治利用も軍事利用もしない』って書いてあるんだそうだ。で、『政治的、もしくは軍事的に私利私欲で契約者()を利用しようとする者は何者であれ厳罰に処す』とも。何か内容増えてるけど有難いよね、これは。うん。


陛下はあの首都兵のミキフとの一戦から少し経った今日、部署に来て私にこの書類を見せてくれた。それをそのままくれるのかと思いきや、目前に差し出された書類を受け取ろうとしたらひょい、と引っ込められた。何故に?と思ったら代わりに差し出されたもう1つの書類。その中身を確認して、書類を持ったまま私は固まった。


『……陛下』


『ん?』


『何ですか、これ』


『うむ、これは余からシノブ殿への要求書だな』


『要求書だな』じゃないっ。

つらつらと綴られている文面には確かに私に希望することが書かれているけれども!



1つ、自身が国王である余と同等の存在なのだと自覚すること。

1つ、余との間では敬語を取り払うこと。

1つ、余と友人になること。

1つ、要望を今より多く叶えさせること。



……内容をまとめるとこうなる。1つ目は良いよ?何度も言われてるからね、ただの平民じゃ済まされないってことくらいはさ。でも『自覚する』ことと、『すぐに相応に態度を変える』っていうのは必ずしも同意ではないでしょうが。2つ目と3つ目は横に置いておき、4つ目のこれ。『叶えさせること』って何さ?そんな簡単に希望する事が増えるわけないでしょうに。


『陛下……1つ目と4つ目は、すぐには無理でも努力します、と言うことで譲歩をお願いしたいのですが……?』


『構わぬ。して、中の2項は?』


『あー……えーと、ですね。少しばかり、無理な気がします』


いや、どう見ても無理でしょ。ね?!私の方が正しいよね?というか答えた瞬間に機嫌を降下させないで下さいよ、陛下!あなた大人でしょうが。私より年上でしょう?!


『えっと、陛下?ダウエル様と相談してもよろしいですか?』


『……分かった』


そんな渋々と返事せずとも……大人げない!

とにもかくにもと、いそいそとダウエル様の所に寄って行って問題の書類を見せると、案の定彼の表情が固まった。けど、すぐその硬直も解けた。


『陛下……何故この様なことを盛り込まれたのですか』


『こうでもせねばシノブ殿と打ち解けられないだろう?』


『しかし』


『言っておくが、余は内容を改めるつもりは毛頭ないからな。……シノブ殿、どうする?貴方の希望の書類は余の手中にある。全てのめばこれはお渡ししよう。余にとっては中の2項が最も承諾して欲しい事項なのだが』


『!』


全て承諾すれば、政治と軍事利用云々の確約書を渡してもらえる……つまり、それは。


『ご命令、なのですね?』


『本当は命令などしたくないのだがな。貴方が想像以上に頑固なのが悪いのだぞ?』


……頑固で悪かったね!ほんとにああ、もう!強要じゃんか、これってさ。なんかすっごい愉しそうな顔してるし。心の中でにやにやしてそう。


『ダウエル様。……どうしましょう?心の中で凄くにやにやしてそうなんですが』


『シノブ。陛下が人の悪いあのお顔の時は、何を申し上げてもお聞き入れしてはくれないんだ。愉しんでらっしゃるんだよ』


『やっぱりそうですよね?愉しそうです。……腹黒そう』


ひそひそと声を潜めて話していて、最後にぼそりと漏らすと、ダウエル様が吹き出す勢いで笑っていた。


『シ、シノブ……凄いことを言うな?陛下のことをそう評するなんて』


くっくっくっと今にも抱腹しそうなダウエル様に、周囲が唖然としているのを感じた。


『シノブ?……一体何を言ったんだい?』


『え?』


『ダウエル様があんなに楽しそうに笑うなんて滅多にないことだからね。で、何を?』


ミナト様の声に、言うか言わざるべきかと悩んでひそひそと返す。


『……陛下は腹黒そうだな、と』


『ぶっ』


あれ?!な、何でミナト様まで笑うの?!






『……この書類の4項を承諾しないと、そちらの確約書をもらう事は出来ないのですね?』


陛下は憮然とした面持ちで、ダウエル様とミナト様は笑い、それらを呆然唖然と見つめる先輩方……というカオスからひと段落ついてから、私は陛下に確認をとった。


『そうだ』


……仕方ない。非常に、非常に不本意だけれども条件を出してOKだったら、要求を飲もうじゃないの。


『重ねて申し上げますが、陛下と私の地位は天地もの差があります。ダウエル様方は正しく・・・認知されておられるようですが、そうでない方も多いと思います。畏れ多いことですが、私が陛下の友人になること、敬語を取り払うことで思惑を持って接触してくる方もいるかもしれません。その相手がもし私や獣神、ミイド殿に危害やそれに準じる行為をしようとしたと、私達が判断した際の反撃行為をお許し下さいませんか?そして可能であればその行為で相手、または私達が怪我を負った際の罪は不問として欲しいのです』


どーよ。変なことされて反撃も出来ない、したら罪に問われるなんていわれたら堪ったもんじゃないからさ。国の頂点、貴族達の上に立つ国王の『王命』で名言してくれるなら安心というもの。


『何だ、そんな事か。無論許可する。確約書にも追記しておこう。寧ろ2度と邪心を抱かぬよう、徹底的に相手をしてやると良い』


『あの、陛下?徹底的にそこまでは望んでないです』


『だがな、貴方に手を出した者を不問にとは戴けぬな。不問に出来るのは貴方と獣神方4人だけだ』


人の話を聞けーっ!あれか、為政者っていうのは皆こんな感じなの?日本の政治家とかにもたまにいるけどさ、人の話を聞かない官僚とか!とか!国王もそうなの?!


『当たり前であろう?貴方は余と同位の存在。我が国の全ての貴族よりも貴方の方が高位なのだぞ』


『……宰相閣下よりも、ですか?』


恐る恐る尋ねれば。


『無論だ』


ひぃっっ!

ない!ありえない、そんな位なら要らないよっ!返却希望する、させて欲しい!


『ダウエル様ダウエル様』


『ど、どうしたんだい?』


『そんな高位要らないです!返却させて下さいっ』


『シノブ、』


『私、この部署でもまだ新参者なんですよ?!先達方から教えてもらうことだってたくさんあるんです、なのに先達方よりも高い位って……無理ですっ。無理!』


『シノブ、落ち着け。とりあえず落ち着きなさい』


あわあわとテンパって、半ば悲鳴のようにダウエル様に訴える。というか自分でも何喋ってるのか把握出来てないんだけども。


『陛下が仰っておられることは正しいんだ、シノブ。君だって言っていただろう?獣神は神なんだ。その神と契約している人間が、高が貴族に生まれついた人間と同位のはずがない。……大丈夫だ、私やイーニスはそうだからと距離を置いたりはしないから』


『……』


『嘘はつかないよ』


『……本当ですか?』


『もちろんだ、我がハイドウェル伯爵家の名に賭けて約束する』


子供をあやすように頭をぽんぽんと叩かれ、沸き立っていたパニックが漸く収まっていく。



それから。


パニックを起こした私とそれを収めさせたダウエル様の信頼度に陛下が拗ね、それを先輩方……特にミナト様が彼を宥めるという何とも大人げない行動を取った後、陛下は部署を去って行った。


『明日からは余に敬語を使用してはならぬからな!』


そんな捨て台詞的な言葉を残して。

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