2-2 やっと荷が下りた
「皇雅……凄い一喝だったね」
〈今少し申しつけておくべきであった。あやつめ、シノブを男と間違えおって〉
ぶるるっとまだ不満気に鼻を鳴らす皇雅に、え、とびっくりしてしまった。皇雅が怒ったのって……私の性別を違えたからなの!?
「うーん、でも気にしてないよ?そりゃ全くと言ったら嘘になるけどさ、日本でも良く間違えられてたから慣れてるんだ。若しかしたら男と間違えられてた方が良い場合もあるかもしれないし」
〈……。間違えられていた方が良い?何故そう思うのだ〉
「この世界というか、シン国でもあるかもしれないと思うんだ。男尊女卑の考え方。男は働き女は家を守る。男は入れる場所でも女の身では拒否される……要は女より男の方が偉い、って考え方。私が居た日本にも昔はそんな差別的な傾向があったから。理不尽な事でも女は黙って受け入れるしかなかった、なんて話も聞いたことがある。勿論適材適所ってこともあるから、武器を持って外敵から護るっていうのは男の役目かもしれないけど」
〈ふむ……だがそんな事はあまり無いと思うが。確かに武器を振るう役目は男で、家の事は女がすることではあるだろう。しかし生まれた子等は夫婦で見るであろうし、男勝りに仕事をする女もおろう〉
「そっか、それなら良いんだけどね」
先ずはネイアの責任者?の隊長に会いに行かなきゃね、と皇雅に言えば〈守備兵の詰所があるはずだ〉と答えてくれた。
詰所って何?……警察署、では無いよね?多分。そもそもこの世界に警察なんて職業は無い気がするし。うーん、自衛隊の駐屯地も何か違う気がする。まあ行けば分かるかな。
〈あれが詰所だ。余り獣神であることは知られぬ方が行動し易くて良いのだが、見慣れぬ着物の女子が1人で詰所に行けば捕らえられるやも知れぬな。……眼の色は戻しておく〉
「えっ捕ま……?!」
ま、また刃物向けられるってこと?!それは……嫌だなぁ。さっき門のとこで槍を向けられたばっかりなのに。
〈だがシノブにその様な事はさせさせぬ故、気に病むな。今のシノブならば襲歩も可能であろう。我が襲歩に追い付ける同胞などおらぬ〉
不敵に笑う皇雅に何だか少し心配が減って、ありがとう、と首を撫でた。ネイアの守備兵の詰所はもう直ぐそこだ。
詰所に着く前に、既に皇雅の体長や私の服が目立っていたみたいで視線はちらほらと感じていた。気にしない様にはしてたけど、やっぱり少し気になる。かぽ、かぽ、とゆったりした歩調の皇雅と詰所へ近寄れば、見張りの兵士が即座に気付いて腰の剣の柄に手を掛けた。
や、やっぱり剣抜くつもり……っ。
ぎょっとして思わず後退りしそうになったけど、〈シノブ〉と皇雅の声で身動ぎだけで留めていられた。
〈その方、我に剣先を向けるか?獣神たる我にその様な物を向けるなど……ネイアの者は無礼者が多いのだな〉
『っ!』
びくっと肩を震わせた彼は一瞬私を見たと思ったら、皇雅の瞳に直ぐ柄から手を離した。
『じ、獣神様!何故こちらに……?!』
〈シラヌ村はその方らの管轄であろう。かの村の事で話がある故、隊長の下へ案内せよ〉
『は、しかしその者は』
〈我が契約者であるぞ。その方は契印を見せねば我を信用出来ぬと申すのだな?〉
皇雅の口調は威圧する様な響きを伴っていて、私は何も喋ることが出来ないでいた。けれどその科白で兵士の彼は震え上がってしまったみたいで、『今少しだけお待ち下さいっ!』と城壁の中に引っ込んで行った。そうしてそんなに経たないうちに城壁から出て来たのは、さっきの兵士じゃなく位が高そうな厳ついおじさんだった。固そうな鎧を身に纏った彼は、私と皇雅に頭を下げると城壁内の一部屋に案内してくれたのだった。城壁内って結構広いんだ。てっきりもっと通路くらいしか無いのかと思ってたのに。
『先程は私の部下が失礼を致しました』
おじさんは皇雅と私の金の瞳に目を見開いたけど、直ぐ持ち直してそんな口火を切った。
『シラヌ村にて御用だとか。どうなされました?』
シノブ、と皇雅に押されて、私もゆっくりと口を開く。
『シラヌ村が、賊に襲われたんです。村人さん達に怪我は無かったみたいなんですけど、捕まえに行って貰えませんか?』
『何、シラヌ村が。……しかし彼の村は馬で駆けても10日は掛かります。直ぐに参りたいのは山々ですが、どうしたものか』
〈その点は心配は無用であろう。我がシノブが既に賊らを倒した故、その方らは引き取りに行くだけで良い〉
『何ですと!その女子の様な細身でなど信じ難いのですが……』
ああ、また間違えられたよ。……皇雅、怒らないで。むっ、と機嫌が下がったのを感じて、首を撫でたら一度だけ尻尾を強く空を叩くように振った。
〈我が見ておったのだ、間違いなどあろう筈が無い。シノブは村人に賊を引き取りに向かわせると約を交わして来たのだぞ。その方はあやつらを引き取りに行くだけで良いのだ。何も賊と戦えと言うておるのではない〉
『さ、左様でございますか。賊らの引き取り、確かに承りました』
〈良かろう。では我らは街の見聞と参る故、外へ案内せよ〉
『畏まりました』
隊長のおじさんの眼には『本当にこんな奴が賊を倒したのか?』ってありありと書いてあって、少し居心地が悪かった。でもこれで目的は済んだし、後は気兼ねなく街を色々見て回れるぞ!ね、皇雅。
後書で付け加えることがある用語は、大抵は活動報告にて補足説明をするつもりですので、そちらも覗いていただけたら作者も喜びます!
甲冑や防具はまだまだ勉強中です。オリネシアの着物等は非常に拙いですがイラストをそのうち載せたいと思います。
髪型について更新報告で簡単な説明があります。
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/297806/blogkey/915868/