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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
4章 1部 首都アトゥル
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4-6 東の森で

ダウエル様とミリア様、ヒードさん達にも見送られて早1ヶ月過ぎ。イーニス様達が居るから旅路はとてもゆっくりだ。護衛のけい達曰く『これが普通』らしい。私と皇雅のスピードが速かっただけなんだ、と改めて実感した。

旅の始めの頃は、イーニス様もけい達も私が本当に騎乗出来るのかと過剰な心配を見せていたけど、実際にやって見せると今度は驚かれた。何で?


『いや、シノブ。まず獣神のその体躯に乗るとは思わないから。しかも馬具の1つも無しに騎乗出来るなんておかしいからね?』


『私にはこれが普通です』


『いやいやいや』


ミイドさん以外の皆が首を振る。……おかしい人判定されてしまった。と言うかそもそも皇雅に合う馬具なんてないでしょ。この規格外の体躯に合うものがあるなら使うかもしれないけど……あ、でもあっても使わない気がする。馬具無しで騎乗するのに慣れてしまってるし。


紅涼の2月に入って漸く、東地方の森手前まで来た。まだ2日3日は掛かる距離だけど、深く広い森は遠目にも目視出来る。凄く懐かしい。早く入りたい、白貴にも会いたいなぁ。



***



『これは、凄いな』


天を遮る巨木が広がる森に入って、イーニス様は圧倒されたみたいだった。けい達も皆似たような反応ばかりで、自分の森じゃないのに何だか私物を褒められたような良い気分になる。


『凄いでしょう?イーニス様。去年の繁生から紅涼まで私達はここで過ごしていたんです。とても快適でしたよ』


話しながらミイドさんにも同意を求めると、そうだな、と笑った。


『水も食料も豊富にあるから、結局東地方の関所には1度も行かなかったものな』


『1度も?』


『はい。マトルやバムハといったある程度の物は北地方の関所で手に入れてましたし、料理はミイドさんの腕が良くて毎日美味しかったですし』


あ、言ってたらミイドさんの料理食べたくなってきちゃった。今夜作ってもらおうかな……。思い出して笑みが浮かぶのを見たミイドさんもどこか嬉しそうに微笑む。そんな私達を見て目を瞬かせたイーニス様とけい達。


『いや、無理だろ』


『だよな。繁生と紅涼だろ?8ヶ月もこの森の中で自活出来るか?』


ざわざわとけい達がどよめく。そうは言われても現に生活出来てたし。今だってさ、そこら辺見たら有るんだよ?カタクリはそこに生えてるし、あっちにはナコも有るしさ。


『ミイドさんミイドさん』


『ん?』


『今日の晩御飯、あのナコ食べたいな』


『くっ、ぷぷ……そうだな、分かった』


ナコを見つけて、思わず彼にお願いすると、OKしてくれた……何で笑うのさ!キッと睨めば『いや、悪い』とは言うものの。笑いが治ってないよ、ミイドさん。


〈シノブの知識の造詣の深さは侮れぬゆえ。皆、この滞在で驚くこととなろうな〉


ふふん、と自慢気な皇雅に、また周りがどよめくという。ちょっと驚き過ぎじゃない?






森に滞在して2日後には、ふらりとどこかへ消えた皇雅が白貴を連れて来てくれた。前もって打ち合わせておいた設定は十分にその効力を発揮した。


契約神(契印持ち)であることは伏せ、白貴……もとい巨大白狼が『この森の主』であることをイーニス様達に告げる。更に私がその仔白狼こどもを助けた恩人で、会いに来た、と説明したのだ。……嘘は言ってないよ、うん。現に白貴はこの森の土地神だし、子供を崖から助けたのも事実だ。でも恩人ってほどではないと思う。


「白貴!」


〈主殿、無事に着けたのだな〉


白貴には声を伝える対象を私だけに絞ってもらっている。で、私はと言うと日本語で声を掛ける。いやほら、シン国語で話すと後々面倒な事になりそうで怖いからさ。こんな時には重宝するんだ、日本語って。イーニス様達も私が他国出身だってことは知ってるから、別に理解出来ない言語で話しても母国語だと解釈してくれると思うんだ。


「あの子達は元気?奥さんは?」


〈妻も息子達も元気だったな。息子達が主殿に会いたがっていた。呼んでも良いか?〉


「もちろん!」


わくわくしながら即答すれば、そんなに経たない内に奥に聳えていた巨樹の根を飛び越え駆けて来る2体の白狼。……え、ちょ、ちょっと待って?!大きくない?!


「わっ?!」


『シノブ?!』


『シノブさん!』


次の瞬間には勢いが殺せなかったのか押し倒されてしまい、そのまま顔を舐められた。って、どれだけ成長してるの!だって前は抱っこ出来てたよね?!


『シ、シノブ?大丈夫か?』


『何とか……』


恐る恐るイーニス様に心配される間もずっとべろべろ舐められる。それを止めさせたのは直ぐそばから感じる不機嫌なオーラ。ぎくりと身を震わせた白狼の視線の先には明らかに不機嫌な白貴が座ってこっちを見ていた。


「白貴?」


〈……我は言ったな?困らせる事はするなと〉


あ。白貴すごく怒ってる。


ミイドさんに起きるのを手伝って貰って、ぱんぱん、と付いた土を払いながらそっと成り行きを見守ること暫し。散々に雷を落とされた兄弟は、傍目からも分かるほどにしょんぼりしていた。まあ私と皇雅しか、そのお叱りの小言は聞こえていなかったみたいだけど。後からミイドさんにこっそり聞いたら、『底冷えしそうな強い唸りと威圧しか感じなかった』らしい。森に居る間は一緒に居るらしく、寝る前に成長した事を褒めて上げたらぱたぱたと尾が千切れるんじゃ?ってくらいに振っていた。現金だなぁ、可愛いけどさ。因みに2匹は、一般的な狼くらいの体躯になっていた。1年かそこらでそんなに成長するもんなの?


〈獣神の仔はただの獣の仔よりも成長が早い。だがだからと言って寿命が獣神のように永いわけではないのだ、主殿。早いのは成長だけ。妻と同じく、ただの狼と同じ刻を過ごすだろうな〉


「そうなんだ」


〈だが、だからと主殿が気にすることではない。これも獣神に生まれついた定めだ〉


巨樹の隙間から零れる月の光を受けつつ、白貴に寄り掛かって交わす。獣神は神様だから非常に永い寿命を得る。もちろん有限の命だけど、それでも人からすれば長過ぎる時間ときを。夫を、若しくは妻を得ることも出来るし、恵まれれば子供だって授かることもある。けれど番った相手と子供が同じ長寿になるかと言えば違う。獣神は1種族に1神だけ。その獣神が死なない限り、次の獣神は生まれないのだらしい。どういうことわりなんだろうか。同時期に同じ種族で獣神が2神居たら不味いのかな。


……止めよう。考えるだけ無駄な気がする。そもそも私、この世界の人間じゃないし。

ナコ:なめこ

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