2-1 皇雅の一喝
忍も皇雅の自動翻訳によってオリネシアの言語を話します。
「娘?息子ではないんだ?」
〈息子ではないな。何故娘なのかは分からぬが〉
「へぇー」
ぽくぽくと常歩の皇雅に乗って進んで行くと、不意に視界が開けた。とは言っても皇雅は地球の馬より体長が既に超えてるから、私の視界には皇雅の鬣や頭部があるんだけど。
「森が終わったみたいだね」
〈その様だな。漸く我も新しき土地を見ることが出来る。見ろ、シノブ。恐らくあれが関所だろう〉
皇雅も何だか嬉しそうだねー。声のノリが違うよ。
「……うおぅ」
皇雅の首に縋り付くように前傾姿勢をとって、開けた森の外を見る。そして思わず、変な声が出てしまった。だってあれ、 要塞っぽいだもん!
城壁がぐるっと1周囲っていて、その中の街っぽいのを守ってる。城壁の門は南北2ヶ所。あれは関所……じゃ無くて要塞、で良いと思うよ、多分。
〈あれしきで驚くでない、シノブ。シン国は広大且つ豊かな国なのだ、更に巨大なものもあるはずだ。我も初見するが楽しみだ〉
ふさり、ふさり。
尻尾も嬉しそうに揺れて、前脚で地面を掻く彼に私も嬉しくなる。契約してから、心でもっていうか、お互いの心情も通うようになった気がするんだ。勿論言葉も交わすから、喜怒哀楽は分かるんだけども。
〈確かネイアの名を持つ土地であったはずだ〉
「そうなんだ。じゃあ行こうか、ネイアの関所に」
丘の下にあるような目前の関所を目下に眺めつつ、私は皇雅の歩を進めた。関所の門の近くまで来た時、皇雅を止めさせて私は彼から降りた。そしてあることに気付いた。……皇雅の深紅の瞳、凄く目立つよね?!
「皇雅皇雅」
〈うむ?何だシノブ〉
「獣神だからその深紅の瞳なのは分かるんだけど、その瞳、深紅以外には出来ないの?すっごく目立つよ?」
〈出来ぬことはないが、何故?〉
「獣神って神様なんでしょう。あの村の時みたいに皆に平伏されるかもしれないよ。色々見て楽しみたいのにさ、台無しになると思わない?」
〈……それは確かにシノブの言う通りではあるな。ではシノブと同じ色にしてみようではないか。どうだ?シノブ〉
綺麗な深紅の瞳は、瞬く間に黒へと変わる。これなら他の馬より体長が大きいだけで、そこまで疑われる事も無いかもしれない。
でも……いや!決して折角の綺麗な深紅の瞳が、とは思って無いよ!決して!深紅の瞳は皇雅の契約者である私の特権だからっ。
〈あの者達に預けたままの賊共の事も、隊長格の者に伝えてやらねばな。シノブ〉
はっと気付いた。そうだよ、関所に行く最大の目的ってその報告だった!
関所の門は、近付けば近付く程その大きさと重量感に驚かされる。木製の門だけど、大の大人20人でも動かせるのかは疑問なところ。
「そういえば、あの村って何て名前だったのかな」
〈イラヌ村だな〉
そっか、と頷いて門を潜ろうとした……のだけど、『待て』と槍を向けられた。
『何でしょう?』
『何奴!見慣れぬ短衣に木刀……小僧何者だ』
『は、い?』
そりゃ、私の服はこの世界じゃ珍しいかもしれないよ。兵士らしいこの人も、シラヌ村の人達だって皆チャイナ服のような格好だしさ。しょうがないじゃんか、この服以外持ってないんだから!
あとさ。『小僧』って男の子に言う単語だよね。まぁ良いけど。どうせ私は男っぽいよ。性別間違えられるのはもう何も言わない。日本でも良く間違えられてたしね。取り敢えず。
『えっと……旅人、です?』
『ならば通過札を見せろ。正規なら通過札が発行されているはずだ』
……旅人に正規とかあるの?なんてつっこみは許して欲しい。と言うか通過札って何?そんなの持ってないし、私はシラヌ村の事を伝えたいだけなんだけどなぁ。村人さん達にも約束したんだから。
「皇雅、どうする?」
〈折角の良い気分が台無しではないか〉
あ。皇雅若しかして怒って、る?
『っ、怪しい奴!』
あ、兵士らしいお兄さんも顔が険しくなった。日本語で喋っちゃったからだよね、ど、どうしよう?
〈シノブ。止めるでないぞ〉
「え」
無礼な、と低く唸った皇雅は苛立たしく蹄で地面を引っ掻き鼻を鳴らした。
〈控えよ、一兵卒が!我を誰だと思うておるのか〉
『?!』
深紅の瞳に戻った皇雅が一喝すると、さっきまで私とだけ会話していた彼の声が聞こえたらしく、こっちに槍を向けていた兵士が槍を向けたまま硬直した。
〈我は獣神である。その方が槍を向けているのは我が契約者なのだぞ!我が契約者に槍を向けるは我に槍を向けるも同然。無礼な、直ぐさま槍を収めよ〉
『ひいっ!』
彼は深紅の瞳に硬直した後、皇雅の瞳が金色に変化すると青くなって槍を地面に落としてしまった。多分私も右眼が金眼になってるんだろう。私を見て更に慄き震えたから。……皇雅、容赦無いね。
彼は職務を全うしてただけなのに、まさか神様でもある獣神から咎めを受けるなんて想像もしてなかったと思う。何かごめん。
皇雅の怒りが思ったより激しくて、私の怒りたい気持ちが治まってしまった。その分冷静にお兄さんを見れていたんだ。
『お、お許しを……っ。契印持ちの方とは思わなかったのです!』
がくがく震えながら、お兄さんは道を開けるとどうぞお入り下さい、と門を通してくれた。ごめんね、名前も知らない兵士のお兄さん。
〈全く……誠に無礼な奴だ〉
黒眼へ戻した皇雅と門を通りながら、心の中で謝った。しかし契印凄いなー。
皇雅の一喝は、只の一兵卒にはとても恐ろしいもの。何せ神様ですから、神より咎めを受けるのは生きた心地がしなかっただろうと思います。
しかも契約者が居る獣神は更に格上。門兵の彼にはとんだ災難です。