7 初騎乗!……と、言い伝え
「皇雅」
〈うむ?〉
「獣神って神様だから何も食べなくても平気なの?」
山道を歩きながら皇雅に尋ねれば、〈その者による〉と返ってきた。
〈我らは人間と違い食さずとも困る事は無いのだ、神ゆえにな。だが獣神の中には口にする者も居ると聞く。所謂嗜好品だな〉
ふうん。獣神にとっては煙草やお酒みたいな感覚なんだ。
〈ところでシノブ〉
「うん?」
〈我に乗りたいと言っておったな。騎乗出来るのか?〉
「うっ」
そうだった。忘れてた。私乗馬の経験無いじゃんか!!憧れてはいたけど、じいちゃんは乗馬だけは許してくれなかったから……全く乗れない。思わず頭を抱えた私に、皇雅はこれ見よがしに盛大に嘆息した。
〈乗れぬのだな?何故それで乗りたいなどと言ったのだ?〉
「乗馬は元居た世界でも凄く憧れてて、だけどじいちゃんが許してくれなかった。……理由、聞いとけば良かった」
〈……〉
「乗馬練習から、しても良い?」
恐る恐るお願いすれば、ぶるるっと呆れて鼻を鳴らされてしまったけど、〈仕方ない〉と折れてくれた。ごめんよ、契約主がこんなので。
***
〈鬣を掴むと良い。身体を引き上げるように跨がり、脚で我が胴を強く挟むのだぞ〉
「で、でも握ったら痛くない?」
〈シノブは女子だからな、力の強さなど高が知れる。遠慮すると落ちるが良いのか?〉
それは痛いから嫌だっ。
慌てて首を振り鬣を握り直す。皇雅の鬣は結構長くて、くるっと手に一周させても大丈夫なくらいで。ただ鞍も鐙も手綱も無いから、滑らかな背からずり落ちないようにかなり脚に力を込めなきゃならなくて、慣れるまでに暫く掛りそうだった。
〈立つぞ〉
「え、わわっ!」
皇雅は気遣ってくれたのかゆっくりと立ってくれたけど。馬上で、しかも馬具も全く無い状態ではかなり揺れる!しかも皇雅はかなり体長が大きいから猶更揺れるっ。
だけど。
「うわぁ……っ!」
馬上からの世界は、とても新鮮で世界が広く綺麗に見えた。巨木から降り注ぐ木漏れ日や爽やかな微風がそれを引き立たせてくれる。何だか歓迎されてるみたいだなぁ。嬉しい!
が、現実は甘くない。
「うわわわっ」
〈……シノブ。気を緩めるなと言うに〉
ずるっと滑り落ちそうになって、皇雅の首に必死に縋り付く。お陰で地面と挨拶する羽目にはならなかったけど、彼にはまた呆れられたのは言うまでもない。
それから何度も落ちそうになってはしがみつく、を繰り返して。漸く常歩や速歩でも皇雅に乗っていられるようになったのは、21日程経った頃。
〈シノブは上達が早いのだな。この国の武人見習いでも、速歩が出来る様になるには40日は掛かると聞くのだが〉
「そうかなぁ?皇雅が手助けしてくれてるし、毎日乗ってるからだと思うけど」
そうなのだ。皇雅のアドバイスって本当に的確で、毎日練習に付き合ってくれてるから、乗れるようになるのは当たり前な気がするんだ。
「そういや、ここってシン国って言うんでしょ?他の国ってどんなのだろう。皇雅は知ってる?」
〈神である我にそう聞くのか。まあ内情までは分からぬが知っているぞ〉
「あれ、だってあの森から離れられない土地神だったんじゃないの?」
〈ぬ、〉
むっと剥れた皇雅の首をごめんごめんと撫でれば深紅の瞳が私に向いた。ああ、やっぱり綺麗な色だなー。
〈……瞳だけでなく毛並みは愛でてくれぬのか?〉
何故瞳を褒めたことがバレてるんだ!
「勿論毛並みも凄く良いよ。私は手入れしてないのに光沢があってつやつやしてるし、蹄や鬣だって綺麗だし」
本心だからね!
そう思いを込めて鬣の上からまた撫でてやったら、嬉しそうに耳が動いた。皇雅は猫かっ!
〈シン国はオリネシアでは1、2を争う大国だな。国土の広さで争っているのは隣国のアルーダ国。その他はシン国と同盟を結ぶ小国や属国、中立の国が複数存在している。かの国に根強い信仰は無い筈。シン国は信仰と言うよりは言い伝えがあるな〉
「言い伝え?」
〈いつしかオリネシアに『闘神の御娘』が現れる。その娘を手に入れし者が世界を統一する、と〉
……何だそれは。何の御娘って言ったの?
「何、その言い伝え。「とうしん」って?」
〈確か闘う神と書く。戦神の事だ。何故かは分からぬがオリネシア全土共通の神として知られている。獣神が世界のほぼ全土にいるようにな。その闘神の愛娘がいつかオリネシアに降臨し統一する者を助けると伝承されている〉
忍は乗馬経験こそ無いけれど、好きが高じて常歩や駈歩と言った用語は知っています。勿論、皇雅も何と無くの意味は知っています。流石は馬の獣神。←
言い伝えと言うより、完全に信仰ですね。ある国ではヒドラスリヤ信仰と言われているとか何とか。ヒドラスリヤ信仰について、活動報告で追記しています。
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