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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
3章 東地方
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3-10 残念な美丈夫

『……』


〈……〉


〈……シノブ。何か怒っておらぬか?〉


『んーん、別に』


怒ってはいませんよ。怒ってなんか。ただちょっとやさぐれてるだけで。


『シノブさん……どうしたんだ』


ミイドさん、気にしなくていいんだよ?私が勝手にむくれてるだけだから気にしないで下さい。……まさか人化出来ることを教えてくれなかったから気分が降下してるなんてね、ええ、違いますから。


〈主殿……〉


今は見えない耳と尾がへたりと下がっている幻覚が見える程、悲壮感に包まれて私の前に立っている残念な美丈夫は白貴だ。2m近い身長に獣神特有の深紅の瞳、獣姿時の体毛に似た白銀色の長髪は腰まである。目鼻立ちがはっきりしていてとても凛々しいのに、何故残念かと言えば表情が捨てられた仔犬みたいだから。


〈シノブは獣神が人化出来ることを黙っていたのを怒っておるのか?〉


『皇雅も、出来るの』


〈無論可能だ。とは言え人化出来るのは契約神(契印持ち)のみなのだがな。それにシノブは我に乗って移動するではないか。人化すればそれは叶わぬし、個々の持つ能力も発揮出来なくなる。いざという時にシノブを護れぬではないか〉


『だから言うに値しないと?』


〈まあ、そう思うてくれて良い〉


皇雅は皇雅なりに考えた上で、人化のことは言わないことにした。でも聞かれたなら言うし、別段私に隠し事をするつもりではなかったらしい。それなら良いんだ、良いんだけどね?


『……それでも、言って欲しかったな』


ぽつりと漏らせば、〈済まなかった〉と髪を食まれた。


『私も聞かれたら答えられる事は答えるから、白貴も出来るだけ隠し事はしないでね?』


〈勿論だ主殿。……早々に嫌われるのではと我は、我は……〉


え、ちょっと待て。さっきまでのいかにも神って感じの口調はどこに?ぷるぷる震えてどうしたのさ?


『は、白貴?』


〈主殿、我を嫌わないでくれ〉


待て待て!話が飛躍し過ぎてますって!あの威厳ある姿はどこに行った?!そして何故私の手を握り膝を着く?!


『や、大丈夫だよ?嫌いにはならないから』


あーあー……泣きそうになってる。甘えただなぁ。そういや皇雅は千年は生きてるって言ってたっけ。白貴は何歳なんだろう。若しかして年下?だからまだメンタルが弱いのかな。


『白貴、白貴は何歳?』


〈……750〉


うおう。500歳超えてましたか。すんと鼻を啜り若干涙目で残念っぷりを披露する白貴の頭を撫で撫でしてやると〈主殿……っ〉と感極まったように忠誠を誓われた。何故だ。私は頭を撫でただけなのに。


『皇雅は千歳だっけ』


〈うむ。狼神より250年程先に生を受けたゆえ〉


『……そう言えばミイドさんは?』


『俺は今年31になる。シノブさんは18だったな』


『うん』


思えば皆年上だなぁ。皇雅もミイドさんも家族で、白貴も家族の1人になったけどこれって逆ハーレ……いやいや!私にそんな男性を侍らすような趣味は無い。というか3人中2人は神様だし!




『……お腹減った』


人間よりずっと格が上のはずの白貴(獣神)に跪かれ、軽く現実逃避した私から漏れたのはこの一連の科白とは全く無関係の本能(食欲)で。ぶはっと皇雅とミイドさんの2人に噴出された。


『うん、うん。そうだな。腹も減るよな……っっ。軽く食えるもの作、るから……っ』


『ミイドさん……そんなに笑わなくても』


じと目になるのは仕方ないと思う。『いや、悪い』と謝っててもまだ笑うのはちょっと酷くない?


腹拵えして懐いた子供達と遊んでから奥さん達に別れを告げると、弟の仔にはまだ行くなと服を引っ張られた。でも獣神姿に戻った白貴にぺしっと頭を叩かれて渋々引っ込む。そのしょぼんとしてる姿も可愛い!めちゃくちゃ可愛い!

なので兄共々2匹を撫でくり回し抱き締め、もふもふふわふわを堪能した。別れてからも息子相手に嫉妬してる白貴を宥めるのに苦労したのは余談だけども。

少し時を遡り、首都アトゥル。


『何、逃げた?』


『はっ。申し訳ありません。我らと入れ違い、若しくは会わぬよう避けてストを出たようです』


追跡したが東地方の森に進んだ様だ、と報告を続ける兵隊長の科白を止めたのは直轄の上司である宰相ハッサドではなく、王だった。


『余が聞いたのはお前達(兵側)の話ではない。余は言ったな?『保護せよ』と』


『は、』


ぴしりと固まる兵隊長。『保護せよ』とは確かに命を受けた。今また同じ言葉を告げられたのはどちらの意味か。保護出来ず王の元へ連れてこれなかった責任か、それともーー。


『今、『逃げた・・・』とお前は報告してきた。それはつまり『保護』に相応しくはない手段を取ったとも聞こえるが?』


兵隊長はその身体を硬直させてそして理解した。目の前の、自分が仕えているこの国の頂点に立つこの御方は怒っているのだと。……静かに、口許に僅かな笑みすら浮かべて。


この直後。王の命を受けた、彼の右腕にして宰相であるハッサドにより全ての首都兵が呼び戻され再編されたのは言うまでもなかった。

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