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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
3章 東地方
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幕間 皇雅の不満

皇雅side

東地方に入り早2ヶ月が経つ。繁生3月半ばという頃だ。あのストの件から首都アトゥルの兵も姿を見せぬ事から、我とシノブ、ミイドの旅もすこぶる順調と言えよう。それは良い事だと我も思う。思うのだが1つ不満がある。


『え、年齢?17……んー、あ、今は18かな』


ふと浮かんだシノブのよわいは幾つなのかとの疑問。その我の問いに対するシノブの答は『ふた月前に18の齢になった』であったのだ。隣で聞いていたミイドなど、驚愕で物も言えぬ始末。

今は繁生の3月半ば。なればシノブが生まれし日は繁生の1月半ばと言うことではないか。何故なにゆえ齢を重ねる記念すべき日を教えてはくれぬのか、と不満を募らせば、『特別自分から言うことでもないでしょ?』と真面目くさって言うのだ。シノブは我や他人の事は気にする癖に、自身の事は無頓着な事が多い。多過ぎる。誕生日然り身体に傷が残ることも然り。女子おなごだと言うのに。


『自分から言ったら、祝って欲しい!って強請ってるみたいでさ。元々誕生日を知ってる人から祝われるならともかく、知らない人にまで無理に祝って欲しいとは思ってないよ。無理強いするのは嫌だから』


強請る?無理強い?何故にそう思うのか、シノブは。我もだが、ミイドとて彼女を好いているのだ。好いている者を祝いたいと思うのは当然ではないか。遠慮していると言うのか、無欲と言うのか……いや、色々と興味を持ち欲しい物は欲しいと口にもするのだ、無欲と言うわけではあるまい。とすればやはり遠慮している、が妥当なのだろう。何故遠慮する。我やミイドを『家族』だと言うてくれたではないか、家族であるなら遠慮など無用であろうに。

怒りでは無いが、もやもやとした苛立ちのようなものを晴らす為にシノブの頭を加減しつつ齧る。何も言わずとも大概は甘噛みそれでシノブは我の意を汲み取ってくれる。


『え、知らないのがそんなに嫌だったの?高が誕生日だよ?そんなこと言ったら皇雅とミイドさんの誕生日だって私知らないのに。誕生日なら毎年来るし、そんなに重大かなぁ……』


重大なのだ、我とミイドにとっては!

だがシノブは割り切りが早い。今年が駄目なら来年があると実にあっさりしているのだ。それも自分の事に限って。もう幾度かがじがじと彼女の頭を甘噛みし、不満をぶつけて終わりにする。次にこの様な重大事を言わぬのであれば、我もミイドも拗ねてやるからな。


一方で、この森に入りシノブの新たな一面を知ることが出来た。彼女には植物の知識が桁外れにあるのだ。異世界のニホンという母国での知識と言うが、植物の名こそ違えどその知識は正確にして幅広い。バンブーラを始め、レモンバームなるものやカタクリなる植物、その他食用観賞用を問わず多々の植物とその用途を知っている。虫除けになるという『ハーブウォーター』なるものを作り出し、ミイドが試してその効果たるや驚愕だった。キートが寄ってこないのだ。シノブ曰く、キートはレモンバームなる植物の匂いが苦手とのこと。その植物はこのオリネシアでは名無しの植物だったのだが、彼女の母国ニホンではありとあらゆる動植物に名が付けられているのだとか。それらを覚えているシノブは博識と言えるのだろう。


『買い被りすぎだって!私が知らない事や植物、動物、物だってたくさんあるんだよ?全てを知ってたらそれこそびっくりだよ』


あははと笑う姿は未成年の女子おなご相応に見える。後は髪さえ伸びれば男に間違われる事も無くなるだろう。早くそうなって欲しいと願うばかりだ。まあ、シノブを男などと言う輩は我が容赦無く蹴飛ばしてやるがな。



***



東地方は大半が森が占めているとは言えど、それでもやはり関所は存在する。だがシノブとミイドはストの件があったからか、関所に余り良い感情は抱いておらぬようだ。現に関所に寄りたいとは一言も口にしていない。森はシノブの博識もあり、食物に事欠かない。我は獣神ゆえに必要としないが、シノブとミイド2人分なれば十分過ぎる程に食用植物があるのだ。水も地中より湧く澄んだ湧き水が小川となり見つかる為に心配は無い。


そんな穏やかに旅が続く折、ある日シノブがミイドにある頼みをした。それは武術の稽古を付けて欲しいというもの。彼女は毎日朝夕1アルン(1時間)棒術の一連動作をこなしているが、それは本人曰く現状維持であり向上の為のものではないと言う。剣術はミイドの腕が上。だから習いたいのだと。


『棒術、剣術、それに柔道……だったか?俺達武人が見たこともない武術を持っているのにまだ上を目指すのか。シノブさんは女なんだから極めずとも良いと思うんだがな』


ミイドは渋っていたが最終的には根負けした。やれやれ、ミイドも他人ひとの事を言えぬ。シノブには甘いのだから。


『代わりと言っては何だが、シノブさんは算術が得意なんだろう?俺に教えてくれないか。俺は剣術、シノブさんは算術をお互いに教える。両方に得だと思うんだ』


『算術って計算の事?……良いけど、教えるの下手だよ』


ミイドが良いと即答すると、物凄い下手なのにとシノブは頭を抱える。だが相互なら剣術を教えるとのたまうミイドに、シノブも折れたようだ。


『うーん……』


その日、シノブは晩まで地面に木の枝で何かの記号や数字を記しては呻いていた。

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