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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
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2-34 事の発端

『……何で』



私達は今、ストの街に居る。それで何事も無かったなら全然良かったのだけど、兵に囲まれている状況にあった。


『お待ちしておりましたよ、獣神様。そして契約者殿』


何故、この人がここに居るの?!2度と会いたくなんてなかったのに。

ネイアの時と同じ、にやにやといやらしい笑みを浮かべ私達の前に居たのは、北地方を治める文官ダミエ・ドル・グルヴェだった。






事の発端は、ストの城壁が見える程の距離で(トーラ)へ進路を変えて少しした時。ストから何人かが駆けて来た事だった。


『待って!』


『お願い、止まってぇっ』


その余りの必死さ、声音の幼さに思わず足が止まった。何度か転けながらもばたばたと走って来たのは、大人ではなく日本でいう小学生低学年くらいの子供達3人で。ストから私達が居た地点は視界に城壁を捉えられてもそれなりに離れていたのに、何故子供達が大人も連れずに?


『私達に用があるの?』


ぜーはー荒い息を吐く3人に、出来るだけ優しく声を掛ければ猛烈な勢いで首肯した。


『獣神様達ですよね?!』


『……うん、そうだよ』


この時点で嫌な予感はしていて、子供達の次の科白に更にそれは高まった。


『ストに来ないの?』


『うん。トーラへ行くつもりなんだよ』


『お願い!ストに来てっ』


『お願いします!』


『どうして?』


私達がどの関所へ行くのも自由では?とやんわりと断れば、顔を歪めた。


『……父さんが』


そう、泣くのを堪えながら口を開いたのは3人で年上らしい男の子で。その科白に身体が強張った。


『獣神様達をストに連れて来いって。出来なかったら、父さん達がどうなっても良いのかって言われたんだ』


それは。……それは、親を人質に取られたということではないだろうか。一体誰が。何の為に、私達をストに招こうとしているんだろう。いや、招くんじゃないな。おびき寄せようとしてるのか。


『残りの2人も、脅されてるの』


『おれのねえちゃんが……』


『仲良しの、おにーちゃん……』


逆らえない様、人質を取ってまで私達をストに連れて来させようとしてる人が居る。きっと、達成出来なかったら……この子達の大事な人達が酷い目に遭う。私には、子供達の願いを聞き入れるしか選択肢がなかったんだ。断ればきっと、ううん絶対に後悔するから。


『……分かった。でも、1日待ってくれるかな。色々と準備したいんだ』


『準、備?』


『そう。いきなり来てって言われたからね、心の準備がしたいし……皆の大事な人達を守る為の準備もしたい』


『……っ』


くしゃりと顔が歪んだ子供達を見て、皇雅から子供達の前に降り立ち目線を合わせた。背後でミイドさんが心配する声をあげるけど、皇雅が宥めているのが聞こえる。


『名前を教えて?』


『……アストラって言うんだ。10歳だよ』


『イドです。10です』


『ミミは9なの……』


上から父母を人質にされた子、姉を取られた男の子。ミミって女の子は仲良しの知り合いを人質にされた子。


『アストラ、イド。どちらか、そんな卑怯な事をした相手に伝言を伝えてくれないかな』


ミミは女の子でこの中では1番幼い。10歳だって私達からすれば幼い事には変わりないけれど、私達の誰かが今、行くわけにはいかない。心苦しいけれど、アストラかイドのどちらかに任すしかないんだ。


『……何て?』


ダルタから小さな紙と筆を取り出す。この世界はものを記す為の道具がちゃんと発展している。少しばかり高価だから小さなサイズでしか手に入れられなかったけれど、そこへ文字を連ねる。


『明日の昼時、必ずそちらへ出向く。ストの者1人でも危害を加えれば、あなたは生涯後悔するだろう』と。


『……危険な、けれどとても大事な仕事。やってくれる?』


『……俺が行くよ。父さん達の為だから』


『うん。ありがとう、アストラ。明日の昼時には必ずストに入るから。イドとミミは私達と居ようか。アストラとは違う、大事な事を頼みたいんだ』


こくりと頷く2人と一緒に遠退くアストラを送り出す。彼は、幼いながらもちゃんと前を向いてストへ戻って行った。


『イド、ミミ。取り敢えずお腹は空いてない?』


『そりゃ……空いてはいますけど……』


『じゃあ腹拵えしようか。3人の大事な人達を人質にした悪い人をやっつける為に。『腹が減っては戦は出来ぬ』って言うしね』


『何ですか、それ』


安心してくれないかなと思ってにかっと笑って戯けた口調で言うと、イドが何だか気の抜けた顔になった。最終的にミイドさんも折れてくれたので、街に戻ったら街の住民に協力してくれるよう、説得役を2人にはお願いしたんだ。いや、土地の人の協力は大事だからさ。ほんとに。


『全く。俺と獣神様の心配を減らす努力も頼みたいんだがな』


うう……耳が痛いです、ミイドさん。でも仕方ないじゃんか!言いなりにさせる為に人質取るなんて卑怯な事する奴、私嫌いなんだもの!

『危害、とはな。ふん、まあ良い。そやつと親を放せ』


紙に書かれた文句を読み薄ら笑いを浮かべるダミエ。手紙を渡しに戻ったアストラは流れる冷汗を全身で感じ取っていた。小太り、脂切った顔。嘘でも善人とは言えないその男が嗤う様は不気味、気色悪いと幾ら連ねても的確な言葉は見つからない。


『……っ』


『運が良かったな小僧』


建物から追い立てられ、些か乱暴な科白と共に外へ掃き出されたアストラ。そこへ駆け寄って来たのは人質だった彼の両親だ。息子の無事と解放された喜びに涙しながら自宅へと戻るが、彼らはまだ人質となっている者が居ることを知っている。

だが自分達に出来ることはないのだ、現時点では。だから無事を祈る事しか出来なかった。

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