5 契約を持ち掛けられました
〈ほう〉
獣神と名乗った青毛馬は瞬くとじっと私を見つめ、頭から足へと視線を移す。
〈お前には“血”が流れておらぬ。……この世界の者では無いのだな。相分かった〉
え、ちょっと。血が流れてないって……そんな化物みたく言わないで。失礼な!しかも相分かったって何が?自己完結しないでよ。
「人を冷血漢みたいに言わないで下さい!ちゃんと生きてるのにっ」
〈何を怒るのだ。この土地の者であれば流れている血がお前には無いと言うただけではないか〉
「え?」
何それ。この周りの村人さん達に流れてる血が私には無い?意味が分からないよ。混乱してると、青毛馬はやれやれと首を振ったのだった。
〈……仕方あるまい。シノブ。我ら獣神は人間を透視出来るのだ。その流れる血で相手がどの様な者なのかが分かる。善人なのか悪人なのか。はたまた何処の者なのかも識別出来るのだ。言語の壁など我らには無いのだ、全て理解する故にな。……人間とは不便なものよ〉
「……神様ってなんでもありなんですね」
不便なものよと言われても、透視出来ると言われても。今一つ実感が湧かない私は、そう呟くしかなかった。だけど……言葉の壁が無いのは羨まし過ぎる!!
〈1つ言うておくが、我の科白はこの者らには届いておらぬ。我はお前と交わす為に出て来た故、我の言葉はお前にしか聞こえてはおらぬ〉
「ええ?!そ、そうなんですか?」
……って事は、私はずっと独り言を言ってる様に見えてたって事?!そ、そんなの恥ずかし過ぎるっ。くっと笑われて、すっごくからかわれた気分だ。ふさりと見事な尾を揺らし、青毛馬もなんだか愉しそうに見えるのは気のせい?
〈お前は面白いな。百面相の様で見ていて飽きぬ〉
「……それはどうも」
〈シノブ〉
「はい?」
〈我はこの森と共に生まれ、千年が経つ。だが何も楽しい事が無くて飽き飽きしておったのだ。かと言ってこの森この土地から出ることも叶わぬ身。我は土地神でもあるからな。だから長らく森深くで眠りに就ていたのだ。そんな折、お前は現れた。見慣れぬ衣、見慣れぬ武術。女子でありながら流れるような動きは我の興味を引くに十分に価した〉
「はあ……」
〈シノブ。我と契約せぬか。さすれば我はこの土地から離れることが出来る〉
「契約?!何で」
いきなり何言ってるんだこの神様。何も知らない異世界の女子を捕まえてさ、契約だなんて……誰がはいしますって頷くか!
〈お前にも無論利はあるのだぞ?言語の壁は無くなり、契約し選ばれし者として一目置かれるようにもなる。時と場合によるが、優遇されることもあろう。お前は地に足を付けておらぬ故、シン国を旅して見るのも良いのではないのか〉
「それ、あなたがそうしたいだけじゃないんですか……」
その神様らしからぬうきうきとした声。明らかにこの神様自身がそうしたいのだとよく分かるものだった。
「……因みに契約が終わるのはどういう場合で?」
〈お前が身罷った時だな。その際は我も道を選ぶことになる。共に死すか他の契約者を見つけるか〉
言葉の壁が無くなる!と思ったけど……責任重大だった。どうしよう。うう、じいちゃーんっ。
困ったことがあるとじいちゃんに縋ってしまうのは私が弱いからで。それ位、じいちゃんは私の中で偉大だったんだって今更ながら思った。
〈深く考えずとも良い。我はまだ成長過程にあるが、曲がりなりにも神だからな。契約したならば、お前の力にもなれるだろう。お前の危機は我が危機でもあるのだから〉
「え、……成体じゃないの?!」
てっきり大人の馬だと思ってたのに!
〈この姿で成体と思われるとは。我はまだ半分程しか過程を終えておらぬ。……お前の居た世界では、我が同胞は余程成長不良を患っておるのだな。嘆かわしいことよ〉
「って事は、今後2倍に大きくなるってことなんですね……」
今でさえ私が知る1番立派な体長のより大きいのに、この2倍……。嘆かわしい、って神様基準で言われてもねえ。だけど、それよりも。
「乗らせて貰えたりはします?」
馬好きの私には、これが1番気になる。それに元居た世界じゃ乗馬に憧れていたし!
〈……我に乗りたいのか?獣神にその様に言うたのはお前が初めてだ〉
青毛馬は面食らった様に瞬きすると、尾をまた1往復させたのだった。
青毛馬のこの獣神、“我ら”と言いました。つまり沢山の獣神達がこのオリネシアには存在しているんです。
日本で言う八百万の神様みたいなものと思って下れば分かりやすいかもしれません。
忍は馬好きなので、本当は乗馬クラブとかも入りたかったんです。でも既に曜日全てが習い事で埋まってる上、じいちゃんはこれだけは何故か許してくれませんでした。
その理由は更新報告にて。
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