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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
46/115

2-30 打ち明けたら味方が出来ました

『いつから、そこに?』


10アド(10分)程前から。良かった……いつものシノブさんですね』


そう優しく微笑むから、思わず身動ぎしてしまう。知ってる?ミイドさん。万人受けする様な大人の男性がそうやって微笑ったらだめなんだよ?世のお嬢さん方の心を掴んじゃうんだからさ。残念ながら私そういう方面(恋愛絡み)は疎いからよく分からないけども。

柱の側で立ったまま私を見下ろす彼は、不意に顔を引き締めると私達に1歩だけ近付き膝を着いて目線を合わせてくる。そして。



『……ニホン、とはどこの国ですか。シノブさんの世界、とは何ですか』



ぴき、と身体が強張った。表情が固まってしまったのも分かる。きっと皇雅の科白を聞いていたんだ、ミイドさんは。彼に日本語が分かるはずがないのだから。


〈逃げるか?シノブ〉


現地人ミイドさんに知られた。知られてしまった。それが思った以上にショックで、皇雅の言葉に応える余裕すらなくて。けれどそれに慌てたのは何故か彼で、皇雅越しに私にさっと近寄ると腕を掴まれた。そしてそのまま腕から手に彼の手が移動して両手で右手を包まれる。


『逃げないで、シノブさん。知ったからと言って俺のあなたに対する態度は変わらない。……以前、詰所でも言ったでしょう。あなたの事が知りたいのだと』


そのどこか懇願する響きが私の頭を再稼働させるけど、何も口にする事が出来なくて。


『ずっと不思議なお人だと思ってました。女性でありながら短髪で、武術に優れ、獣神様とは言えど騎乗技術も相当な腕前。自身の身体が傷付く事には無関心で炊事が部下達よりも下手で』


……人が気にしてる事を。悪かったですね、炊事が出来なくて。


『もっとあなたを知りたい。そう思わずにはいられない。だから教えて欲しいんです、シノブさんの世界とは、ニホンとは何かを』


答えに詰まる。だって異世界から来ました、地球と言う星の小さな島国に住んでいましただなんて、誰が信じる?頭がおかしい奴だと思われてお終いだ。……けれどミイドさんの瞳は真摯そのもので、信じてみたい気持ちもある。たった1人、同じ人間で見方がいないこの国この世界でこれからも過ごして行かなくちゃいけないなんて寂しいよ。


〈……シノブが闇を彷徨っていたこの3ヶ月、この男はずっとシノブの世話をしておったのだ。己の地位を捨ててまでな。信じても良いのではないか?〉


『え、』


地位を、って副隊長の位を返上してってこと……?そんな、どうして。何故この世界で出身も曖昧な私を気に掛けてくれるんだろう。せっかくの地位を、放棄してまで。


『獣神様っ?!な、何故それを今暴露するのですか!もっと良い時期というものを……っ』


落ち着いた大人な雰囲気バリバリのミイドさんがわたわたとふためく姿に、何だか余計な力が抜けた。だってあんまりに凄い狼狽え様で、皇雅の腹に突っ伏して笑ってしまったんだ。


『……聞いて、くれますか?』


憮然とした面持ちだった彼に少し躊躇いながらも尋ねると、表情が和らいで力強く頷いてくれた。





『日本は四季が美しい国なんです。薫花は春、繁生は夏、紅涼は秋。冬は雪という氷の結晶かけらが積もる。潤水に当たる梅雨は季節には数えられていません。

私の母国は、オリネシアからすればかなり発展した国と言えると思います。識字率……文字は幼子を除く国民全員が理解し読み書きが出来ると思って良いですし、移動手段とかも進歩してますし』


『……』


ああ、ミイドさんの口が開いちゃってる。驚愕してるんだってもろ分かるよ、その見開いた目を見れば。

地球という異世界から来たこと、日本が地球の中では小さな島国だってこと。ほぼ100%の識字率に就字率、高度な生活水準や発展した技術。医療技術や飛行機や自動車の構造みたいな専門分野は流石に説明は出来なかったけど、こういう国、こういう世界から来たのだと打ち明けた。帰る手段が分からないことも、残してきたじいちゃんや高校の事も。


『異世界……』


それだけを呟いて、それっきり黙ってしまった彼。信じてくれるんだろうか。頭がおかしい奴だと思われたら嫌だな……。どれだけ経ったのか分からないけれど、緩慢に身動ぎしたミイドさんにびくりと肩が揺れた。


『……有難うございます、シノブさん。チキュウという異世界、あなたの母国であるニホンの事が知れて本当に嬉しかった』


その言葉は、否定ではなくて。


『これは、俺とあなたと獣神様だけが知る事にしておきましょう。きっと他の者では混乱を招くだろうから。これからは俺も旅にお供します。その為に副隊長も辞めたのですよ』


えええ?!う、嘘でしょう?私達に付き添う為だけにダルムのNo.2を辞めたの?!勿体ないよ!凄く勿体ない!!……私には、返せるものも何の力も無いのに。その後ずっと説得しても、ミイドさんの意志は堅かった。


『諦めて下さい、シノブさん。断られても後を付いて行きますからね?』


と、物凄く良い笑顔で仰るものだから……負けました。見方が出来たと思えばいいのかなぁ。

もうどうにでもなれ!

時間の単位、通貨単位が出てきた時は、ルビで分、時間、円と表記します。

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