2-25 昼夜強行
途中視点が変わります。
『今、何て……』
『シノブさん?』
ミイドさんの問う声も遠く聞こえ、私は報せを持って来た兵士にもう1度尋ねた。
『?は、シダ村です』
聞き間違いであって欲しかった。シダ村だって聞きたくなかった!シダ村は……アズナ達の村だったから。
「皇雅!シダ村まで何日掛かる?!」
〈戻るのか。途中イルトの関所を通る別の道程で進むのであれば、最短2日で行けよう〉
2日?駄目、きっと2日だと間に合わない。シダ村には武力どころか防御力すら無いのに!
「イルトに立ち寄らなければもう少し短縮出来る?」
〈何?昼夜駆けるつもりか?〉
何を無謀な、と窘められるけど構っていられない。シダ村はアズナ達が居る大事な土地なのだから。意志が固いことを知ると、皇雅は昼夜不問の強行に了承してくれた。
『お待ち下さい!シノブさん、どちらへ向かうつもりですか!?』
皇雅に飛び乗り襲歩を、と思った刹那。引き留めたのはミイドさんその人で。
『シダ村へ行きます。止めないで下さい!一宿一飯の恩があるんですっ』
『無茶な!たった1人で!』
『お世話になった人も助けに行けないなら武力の持ち腐れでしょう?止めるなら皇雅に追いつけたらにして下さい。では失礼します!』
「行って!」と皇雅を走らせた。背後の焦燥は置き去りにして。シダ村の皆を絶対に助けるんだ、って正義感ではない。そもそも賊の規模も強さも分からないし十中八九、相手は男。勝てる確証は無いんだ。それでも向かうのは、アズナ達子供の約束と無事を願うから。それしかなかった。
***
ダス隊長side
シノブがダルムを去る、そんな時に来た伝達役が報告したのはネイアとシロムの間に存在する廃村群の村の1つ、シダ村への賊の襲撃だった。『……シダ村?』と問い直したシノブの様子がおかしい、そう思った次の瞬間には彼女は獣神様に酷く慌てたように何かを問いては首を振り更に何かを尋ねていた。俺達には解らない、彼女の母国語で。理解出来たのは獣神様の科白だけだ。彼はイルトの関所を通過し飛び地に群生する森を抜ければ2日で着けると仰っていた。だがそれは獣神様の脚の速度だからこその話。
それをあろうことか彼女は昼夜問わずに寝食を抜いて駆けると曰ったらしく、獣神様に窘められていた。が、彼はそんな無茶を了承したらしい。そして獣神様に飛び乗り駆け出そうとする。それを止めたのは副隊長のミイドだ。今度はシン国語で交わす会話の1つの科白に、俺は止める事すら出来なかった。
『世話になった人も助けに行けないなら武力の持ち腐れでしかない』
たった一宿一飯の恩の為に、彼女は獣神様を襲歩させあっという間に消えてしまった。それを目前で見ておいて、武を鍛えている俺達が何もしないなどシン国武人として黙って居られるわけがない。シノブはダルムの詰所でも人気者だった。好感を持つ者こそ居るが嫌う者は誰1人居ない。街の住民も然り。……シダ村は恐らくシロムの管轄下だ。だが知ったことか!民の命より重いものなんて、大事なものなんてないんだからなっ!
俺は南北の詰所の、ダルムの全ての兵達を集め2隊に分けた。1隊を彼女を追ってシダ村の救出に向かわせる。隊長にはミイドが名乗りを上げたから絶対に彼女や村人を助け出せ!と厳命した。残りは俺の下でダルムの守備に従事する。そして班を作らせ住民達への伝達を急がせた。
絶対に死なせるんじゃねえぞ、ミイド。お前の想い人を。