2-22 副隊長との攻防
『素晴らしい身軽さでしたね。棒術を会得とは聞きましたが、他にも武術を嗜んでおられたとは』
『ミイド副隊長さ、……様?』
試合後に水浴びをさせてもらって、ふーっと大きく吐息した所にダルムの副隊長ミイドさんの声が降って来た。副隊長さん、と言い掛けて様に言い換える。穏やかな性格らしい彼は、容姿まで穏やかな人だった。ダス隊長が猪突猛進型なら彼は理知的で慎重型って感じ。ダークブラウンの短髪、体躯はまあ程々に鍛えてますって分かる。そりゃそうだ、武の道に進んでるんだから。当然私より背丈も肩幅とかは大きい、でも威圧感は無い。
『ミイドで構いません。獣神様の契約者であるあなたに様付けされるとむず痒い』
ふっと笑うミイドさんは、何だか子供を見守るお兄さん的な雰囲気で。ぐしゃぐしゃと布で髪の水気を取ってる私に近寄ると、その布を取り上げてしまった。
『女性なのにその様に乱暴に拭いては髪が傷みます。短髪もそうですが、女性で齢17の未成年でありながら武に秀で、男だけの詰所でも平気な顔をなさる。本当に不思議なお人だ』
どこからか出した新しい布で私の頭を包むと、止める間も無く手を動かされ戸惑うと同時にちょっと感動。だって手付きがすごく優しいんだもの。この世界に来て初めて、同じ人間の男性に女扱いされたんだよ!それがこんなに嬉しいなんて。
『私の国では男女も身分も問わず、髪型も何を会得するかも自由でしたから。一定年数の学問は義務でしたけど、その他何を師事するかは個人が決めて良かったんですよ』
『え』
『え?』
あれ、手が止まった。凄く絶妙な力加減で気持ち良かったのになー。と言うか変な事言ったっけ?
『……学問が義務?』
『はい。私も高校生でしたし』
何かおかしい事なの、義務教育。日本じゃ当たり前だよね。小学校6年に中学校3年間。高校は……義務では無かった気がするけど大概の人は行ってるし、というより行かないと就職厳しいだろうし。万年アルバイト生活は流石に……ね?
『“こうこうせい”とは?それよりも……あなたは学問を受けたのですか?』
『え?はい。義務期間は修学しましたけど……』
え、何、何なの。ミイドさん怖いよ、何でそんな眉間に皺寄せるのさ。私何も変な事言ってないでしょ?義務教育は日本じゃ当たり前なんだよ?給食の補助とか父子家庭母子家庭の配慮とかさ。……ん?日本じゃ、って、あ。ここ日本じゃ無かったっけ。教育事情も違うのか、な。ただね、うん。ミイドさん怖い!こう優しそうなお兄さんが、無表情で眉間に皺寄せて睨んでるのは静かに迫って来るものがあるんだって!ダス隊長とは一戦交えたけど、彼の実力知らないんだからさ。
じいっと見下ろしてくるミイドさんの眼は私を見ている様で見ていないようで。何か考え事をしているかの様に動かない。思わず片足が動いた。
じり、じり。
蝸牛より鈍く、踵を浮かせ後ろへ引く。……やばい。顔が引き攣るのが分かる。1歩、2歩。そこまで動いて、ミイドさんが身動ぎした。瞳をこっちに向けた途端驚いたのか目を丸くする。
『失礼、考え事を……え?な、何故離れて?!』
『いえ!何でもないですっ』
後退りのスピードを早める私と、ずいっと近寄ろうとする彼。
『何でもない顔じゃありませんよ。どうなさったんですか?』
『本当に何でもないです!!大丈夫ですから!』
折角使ってくれてた布を置き去りに、私は踵を返すと彼から離れることを最優先にした。地に落ちた布に罪悪感はある。ごめん、後で拾って綺麗に洗うから許して!
つまり私は逃げたのだ。ミイドさんから。
『あ、ちょっ!お待ちをっ』
お聞きしたいことが!と追いかけて来る声は無視します!……って何で追いかけて来るのっ?!いやだぁああ!
オリネシアの教育事情について補足説明が更新報告にあります。
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