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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
33/115

2-21 完勝

non side

それは、正に千切っては投げ千切っては投げるという表現が相応しいのではないかと見学側に回った隊長のダスと副隊長のミイドは思う。


元々は一兵卒の部下が言い出した事だった。『是非お手合わせをお願い致します!』と。

そこに便乗しあれよあれよと参加者は膨れ上がり、ダルムに駐在する兵千人の内、忍は110人も相手をする羽目になってしまったのだ。南側ここの詰所だけで500人中110人。これでは北側(向こう)の詰所の兵達が知れば更に膨れ上がるのでは無いか。既に獣神とその契約者が滞在して居ること、そして彼女(契約者)が隊長である自分を負かしたことなど周知の事実なのだから。


そもそものきっかけを与えたのは他ならぬ自分なのだ。ダスは忍に対して、制限時間15アド(15分)を設けたとは言え1対大人数という体当たり訓練をさせてしまう罪悪感を抱くと同時に、彼女の明るい表情を複雑な心境で溜息を吐き見ていた。忍が何故か楽しそうだったのだ。



***



左から来る者を横に避けつつ後ろ回し蹴りで脇腹を薙ぐ。背後から頭部を狙った者には屈んで払い蹴りを。その状態から伸び上がる様に瞬発力で相手からバク転で距離を取り、違う相手へ近寄る。その動きはまるで親しい者へ声掛けるかの如く自然体だ。

しかし相手に繰り出される技は容赦が無い。まあ異性相手なのだから致し方無いにしろ、その速度が本当に容赦が無い。


柔道黒帯の名を持つ忍には慣れた技でも掛けられた兵達はもちろん、はたから見物する隊長副隊長達ですら何の攻撃技を食らっているのか判断出来ずにいる。救いなのはその動作が眼で追えることだ。目視出来た所で真似出来るかと問われたら答は一にも二にも『否』なのだが。


手首を掴み引き寄せて腰を相手の脚を払い倒す「払腰はらいごし」や良く似た「体落たいおとし」。柔道など知らないオリネシアの者達には防御どころか反応すら難しい。だがそこは普段から民達を護る者として鍛えている為、呻きながらも兵達は身体を起こす。そして訓練用の剣を握り締め、忍へ向かって行く。


忍は素手の攻撃技が皆無だ。拳での肉弾戦では男女の差など高が知れる上、祖父から鍛えられた棒術は長得物。リーチの長さは無論、扱い慣れた物がやはり得手だ。柔術での彼女の最大の武器はその身体の柔軟性と蹴り技である。柔軟な身体は新体操の賜物ではあるが、蹴り技は決して誰かに師事したわけでは無い。反射的に身体が反応するのだ。この技を繰り出せば相手に対抗出来るのだと。


構えられる剣の腹を蹴り飛ばして上段の回し蹴り。次の相手には突き返し蹴りを放つ。


トン、トッ、トン、トン、タッ


己へ向かって来る彼らを相手にする彼女の足は休まることもなく地を蹴り、腹や肩、剣の腹へ吸い込まれていく。足裏が着くのは柔道の技を掛ける時のみ。


ミイドは思った。拍子を刻んでいるかの様な足運びは伝承に聞く、今は衰退し消えた舞の足取りに良く似ている……と。

ダスが忍が楽しそうだと感じたのは間違いではない。実際忍は自分対大人数の模擬戦を実力試しも兼ねて楽しんでいる。戦闘は嫌いだ。だが絶え間無く向かって来る攻撃に相対するこれは、酷く祖父を思い出させた。


じいちゃんに少しでも追いつけたのかな。でも棒術じゃ無いから、きっと未だ未だだな、って呆れられるかもしれない。


思い馳せれば口元に笑みが浮かんで消えた。上達具合を見ると言っては1対1で50、100と連続試合をさせられたのは良い思い出であり、確実に今の忍の基礎もととなっている。……1度たりとて祖父に総合的な勝利を挙げられたことはないけども。


結局は制限時間15アド(15分)は守られることはなく、この110人対1人の手合わせが終結したのは夕方。


勝利したのは忍だった。

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