2-20 真剣にやらせて頂きます
『昨日は隊長が大変失礼しました』
『いえ、もう何とも思ってませんし』
詰所に来た途端、私は兵士達に頭を下げられた。いや本当に気にしてないし、頭上げてよ。私は只の平凡な女子なんだから。
『隊長の事を許して頂けるので……?』
『まあ……朝ご飯奢って貰いましたから。それで帳消しです』
『そんな事で?!あ、有難うございますっ』
何て寛大な、と大袈裟にお礼を言われてちょっと気後れしてしまう。だってほら、私平成生まれなんだよ?戦争経験だって無いし、こう……のほほんと生きてきた類いに入るんだ。別にキレ易い質でもない。温厚かって言われたら自分でも微妙なんだけども。
丸く納まってくれたので取り敢えず一安心していたら、いつの間にか詰所に滞在することに。……何故?
『昨日の技を是非もう1度見たいのです!』
『やはり未成年の女性でしたか、申し訳ありませんでした。1部屋空けますのでそちらをお使い下さい』
『あの武術は槍術とは違うのですか?』
皆が皆って程じゃないけど、そんなに一気に言われても分からないって!聖徳太子じゃないんだからさ。そうして厩に1番近い部屋に案内されて、結局流されて滞在が決定してしまっていたのだ。まあ、なるようになるよね?多分。少しばかり強引かなーとは思うけど、ネイアの兵や隊長達とは違いそうだし。何より水浴びを毎日させてくれるのと、皇雅をあの男みたいに見下さないって言うのがとても大きかった。
***
『確か槍術や薙刀術から派生したのが棒術だって聞いたことがあります。でも私は、最初から祖父に叩き込まれた棒術しか分かりません』
『では槍術が起源だと?』
手にした木棒を突き、払い、前から背後へ回転させる。
頼まれ倒されて見せる事になった棒術。けれど実戦をするわけにもいかないし、そもそも私も余りそれはしたくない。なので日課の一連の動作を見せることにした。
宙へ蹴りを入れ、手の中の棒を滑らせ操り、身体を回転させる。
この一連には蹴りの脚技はあっても殴る的な素手技は無い。そもそも時折両手を使って操る為にそんな素手技は邪魔なだけ。それがじいちゃんの自論だったし、そんなじいちゃんに鍛えられた私も当然素手技は知らない。多分兵士の人達の方がその技術は上だろうし。
『うーん、多分そうだと思います。でも私の母国での仮定の話なので、シン国では違うかもしれません』
と言うか絶対違うと思うけど。だって皆棒術知らないし。本当はこの一連動作をする時は、腹式呼吸の独特な呼吸をする。けれど今の会話しながらのこれは自主練にはならないかな、うん。2巡動作を繰り返してから棒を止める。今はゆっくりやったけど、本当はもう少し素早くするものなんだけど……スロートレーニングになるかも。
『見事な所作ですね。しかも攻防一体で無駄が無い』
『あ、有難うございます』
手放しに褒められて嬉しいようなむず痒いような。その後、兵士達に是非にと頼まれて結局実戦訓練になってしまった。けれど私は長得物で彼らは剣。どうせするのが確定なら、対等でやりたいんだ。
勿論彼らが使うのは訓練用の両刃を潰した剣だし、実戦なら経験値は彼らが上。けれど木棒と剣じゃ私のリーチが長いから。なので私は素手。彼らは驚き、自分達も素手にします!と言ってたけどそれは拒否させてもらった。まあ私は柔道黒帯だし、どうせシン国には柔術も無いだろうし。それに素手技と言ったって私は脚技が9割9分で、剣だって当たっても打ち身程度だと思うんだよね。
いや、決して驕ってるわけじゃないよ?やるからには真剣にやらせていただきます。