2-19 お詫び=奢り
途中、視点変わります。
すっかり落ち込んでしまったらしい彼。皇雅が言うにはここダルムを護る隊長なのらしい。何で隊長が……とも思ったよ、そりゃ。だけど私はもう気にしていない。一晩寝て、日課だった自主練をこなしてスッキリしたし。それにダルムでも有数の高級宿に泊まれたしね。この宿のご主人には感謝してるんだ。私を皇雅の契約者だと知って、無料で泊めてくれたんだから。ふっかふかの寝台まで用意してくれて、久しぶりにぐっすり寝れたからそれで全て清算。大概現金だ、私も。
『それでどうしたんです?昨日の今日で』
私を契約者だと知らずに剣を向けたことに未だ悔やんでるらしい、項垂れた隊長に苦笑したまま声を掛けると。
『……詫びに来たんだ。昨日のあれは本当に隊長にあるまじき愚行だった。しかも女だと思わなくて』
やっぱり男だと認識してたのかー。うん、そうじゃないかとは思ってたけどね。やっぱりこの短髪のせい?
『私の国では髪型って自由なんですよ。男で長髪の人も居るし、逆に女で短髪の人だって沢山居るんです、私みたいに。皆が好きな髪型を楽しんでるんですよ。ダルムに来るまでに皆に間違われました。絡んできたおじさん達も皆私を若男って言ってましたしね』
『っ、』
『私は元々自国でも間違われ易かったんで気にしないんですけど、皇雅が怒るんです。ね、皇雅』
〈当然だ。我がシノブを男に違うなど許せぬ。次に違おうものなら蹴飛ばしてくれる〉
鼻息荒い彼に、もう、と首を撫でて宥めると隊長へもう1度目を向けた。
『悪いと思ってます?』
『もちろんだ!』
じゃあお詫びをしてもらおうかな。日課を済ませた私はまだ朝食を取ってなくて、それを考えた途端お腹が減るのを感じていたんだ。でもほら、やっぱりお金掛かるからねー。
『じゃ、お詫びに朝ご飯奢ってくれませんか?それで昨日の事は流しますから』
『も、もちろん!』
にっこり笑えば、隊長は心底ほっとしたらしく顔を緩めたのだった。と言うか『もちろん』しか言ってないよね?……まあ良っか。
***
皇雅side
甘い。甘いのだシノブは。
我はふつふつと沸く苛立たしさを胸に、水浴びを済ませたシノブの隣を歩いていた。彼女の反対側には昨日シノブに剣を向けたダルムの隊長なる男が居る。名を交わしダス・イルゥダと名乗った隊長の男。無論シノブはもう1つの名を名乗ることはなかったが、楽し気ではある。今までは楽し気なその一挙一動は我のものであったのに。気に入らぬ。かぷりとシノブの頭を甘噛みすれば少し困ったような、それでいて嬉し気に笑う。
『どうしたの皇雅。あ、良かったら食べる?』
先程の店で買った果物を我に差し出すシノブ。だがそれは今の今まで彼女が食べ歩きしていたアプルなのだが……ふむ、まあ良いか。我ら獣神にとって食物は嗜好品でしかない。無論食さずとも良いのだが、シノブがくれる物となれば気分が良い。
『昨日や今朝のあの武術はどこで会得したんだ?普通は男が修めるものであって、女に教えるものではないのに』
『祖父から。彼は棒術の師範代でしたから』
『棒術?なんだそれは。槍術ならわかるが』
軒先で売っていたエシイを食べ歩きつつ交わすのを見ながら、アプルを咀嚼した。思えばシノブは変わった女子だ。ダスとやら言う隊長が言う様に、武術は女子が習得するものではない。普通は家庭の事を覚え家を子供を護るものだ。だが彼女は炊事こそ苦手とする。火焚きや洗濯は出来るし女の身であるのに身体に傷が付くのを気に掛けることもない。驚く程豪胆であるのに、炊事だけは出来ない。そして何より我を家族だと言う。契約神ではなく、友人と言う柔な関係でもなく、繋がりの深い家族だと。
シノブは言っていた。自分の家族は祖父だけなのだと。父母の記憶は無く、祖母も居らず祖父と2人だけだったのだと。それなのに突然オリネシアに来て全て失ってしまったと。我との契約を受けたのもその寂しさもあっての事だったと自白された。
それでも我は良いと思う。シノブは我を家族と相棒だと言うてくれたのだ。我も彼女を好いているのは事実であり、共に様々な経験を積みたいと思うのは決して偽りではない。いつの間にか詰所へ向かっているが、シノブが楽しいのであれば何も言うまい。
我は心が穏やかになるのを感じながら、彼女の隣で歩を進めていた。
アプル:林檎。
エシイ:ピタパン。
更新報告でも説明します。
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