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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
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幕間-2 規格外な旅人 2

隊長ダス・イルゥダside

翌日。俺は朝っぱらから彼女・・を探していた。と言うか本当に女なのか、あの旅人は。


俺から仕掛けたのに防戦一方だった昨日の打ち合い。悔しいのもそうだが、何より謝らなくては。俺が朝から街を巡ってるのも部下達に詰所から追い出されたからだ。『あの旅人の方に謝って、許してもらうまで詰所に戻って来ないで下さい!あの子まだ未成年にも見えました。未成年に、しかも女性に剣を振るうなんて以ての外です!』と。更には『罪人でも何でも無いのに、一方的に攻撃したんですよ?!』と言われて。


俺は耳が痛くてそれに従った。部下に従う隊長とは情けない。でも確かにそうだ、何の罪も犯していないあの人を、訓練用の剣とは言え攻撃したのは紛れも無く俺だから。罪人ならともかく、無実の者に打ち合いを強要するなんて隊長にあるまじき愚行だ。願わくばまだ街を出ていなければ良いが。



***



ダルムの宿の殆どを覗いたが、彼女は居なかった。残るはダルムで1、2を争う高級宿だけ。まさか一介の旅人がそんな高級宿に泊まるなんて思わない。だが彼女はその高級宿に泊まっていた。金持ちなのか?!とも思ったが、宿の主人に聞けば料金は取っていないと言う。そんな事をすれば罰が当たると言うんだ。ますます意味が分からない。一体何者なんだ、あの旅人は!


『邪魔するぞ』


宿の主人に断りを入れて裏庭へ回る。裏庭には厩があるからだ。そこに、彼女が家族と言ったあの馬が居ると思った。あの馬が居れば、彼女もまだ滞在していると分かるからな。宿の角を曲がろうとした時だった。ヒュン、ヒュッと鋭利な物が風を切る音がしたのは。思わず角で足を止めるとその先を覗き、その光景に目が吸い寄せられた。


家族と言ったあの馬の側で、俺相手には殆ど使わなかった木棒を振り回す彼女。木棒を突き、払い、1歩踏み出し回転させる。時に宙を蹴り、木棒を自在に操る。慣れているのか一度も滞ること無く緩やかに、淀み無く木棒が空をく。あれは木の棒だ。刃物では無い。それなのに剣を振り下ろしたかの様な音がする。それは彼女の動きが如何に鋭く速いかを示すに充分で。


……ああ、あれは本気じゃ無かったのか。


俺はまだまだなのだと見せ付けられた気がした。けれど悔しいとは思わなかったのは、彼女の動きが流れるように美しかったから。そして一切の無駄な動きを省き、攻防一体の理に適った動作だと気付いたからなのだろう。1アウル(1時間)程経った頃、彼女は繰り返していたその動きを静かに止めた。そして馬に何か話し掛ける。


「ーーー?」


小声で聞こえ辛かったが、シン国の言葉では無かったように思う。隣国アルーダのでも無かった。恐らく異国語だ。……いや、でも待てよ?昨日詰所で、彼女は俺達と同じ言語を話していたはずだ。何故わざわざ異国語を口にする?ううむ、益々謎が深まる。うんうんと独り言ちて思考に嵌まっていたら、声を掛けられた。


『覗き見がご趣味なんですか?』


ぱっと顔を上げると苦笑する彼女が俺を見ていた。俺だって武人の端くれだ。気配は消していた筈なのに、何故分かったんだ?


『朝から押しかけて来て覗き見とは随分素敵な趣味ですね。そんなに昨日負けたのが悔しかったんですか?』


『い、いや……』


それは悔しくないと言えば嘘になるさ。けど、それよりも、今の俺では敵わないって気持ちの方が強かった。精進しないとな、って清々しい気分の方が強いんだよ。


『何で俺が居るって分かったんだ?』


『彼が教えてくれました。ずっと私を見ているぞ、って』


『え』


馬が、教えてくれた?


〈ダルムの隊長なる者よ。何をしに我らが元に姿を現した。昨日さくじつの屈辱でも晴らしに来たのか〉


低く不機嫌そうに聞こえた科白は、俺のものでも彼女のものでもない。と言うことはまさか、あの馬が……?!そんな、馬鹿な。いやしかし……っ。


俺はオリネシアに存在する獣神様の事を思い出していた。平民は勿論だが、隊長|位の俺ですらも獣神様をお目にする事なんて無い。本当に無いんだ。当然獣神様の事は子供ガキの頃から大人達に聞かされて来たさ。体躯が立派で深紅の瞳をし、お話しになると。そして今俺の目に映る馬は瞳の色以外は全て当て嵌まる。


〈我を何と問う眼だな〉


良かろう。そう告げて、彼は徐に彼女の側へ足を運ぶ。次の瞬間にはその黒瞳は深紅へと変わった。驚く間も無く今度は金色に両眼が輝き、彼女の右眼も金に光る。


『!!』


あれは契印。……何てことだ。俺は、契約者の方に剣を向けてしまったのか。


昨日さくじつその方が剣を振るうたのは我が契約者。1撃に留まらず、その方は2撃目と実に楽しそうであったな。我がシノブは女子おなご、更には成人してすら居らぬのに良くもそのような真似を……此度に懲りて頭を冷やすのだな〉


旅人の彼女は、獣神様の契約者だった。只の獣神様よりも契約者が居る(契印持ちの)獣神様が格上なのは誰もが周知の事。それなのに俺は。


「ーー、ーーー」


獣神様の隣に立つ彼女が苦笑を濃くして何かを言うと、獣神様は呆れたように嘆息を漏らしたのだった。

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