3 ……馬?
ふん、と睨み付けるも睨み返された。あーもー目力怖いんだって!緩慢に起き上がろうとして来たから、思わずもう1回木棒で突いてしまった。それも結構本気で。
それからというもの。他の村人さん達を襲おうとしてるおじさんを見つけては倒しまくった。あっちは男でこっちは女ですからね、容赦無く全力で伸させてもらいましたよ。体力差体格差を考えてもそれ位は当然でしょ!
呻きながらも起き上がろうとする人には、棒で叩かせてもらった。おじさん達は負けたの、だからおとなしくしてろっ。
「ふ、他愛も無い」
そう独り言ちてみる。……ただ言ってみたかっただけなんだけど。だって好きな小説の主人公が、凄い良いシーンで言ってた科白なんだもん。言って自己満足。あー良い汗かいた。
恐る恐る遠巻きに私を見てた村人さん達は、私が敵では無いと気付いてくれたらしい。どこからか集めてきた頑丈な縄でダウンしたおじさん達を順にお縄にしていた。そうして全部事が済んだ時、さてどうしよう……と悩んでいると、声を掛けられた。
『助けてくれてありがとう』
聞き取れなくて、首を傾げると更に何か言ってくる。
『どこのお人だい?見慣れない衣を着ているが……』
分からないよ。ねえ、何言ってるの?何度聞き直しても何を言っているのかが分からない。取り敢えず日本語でも英語でも無いことはわかった。……え、何、もしかしてこれ、言葉通じないってやつですか?
『女みたいな身体なのに凄く強かったよなぁ』
『ほんとほんと。見たことない動きだったけどかっこ良かったもの!』
『あ、俺の鍬っ』
『鍬がなんだって言うんだ。助けて貰ったんだぞ、鍬ぐらいまた作れば良いだろうが!』
何やら言い争いに近い会話をしてる2人のうちの1人は、さっき鍬の柄部分を貸してくれたあのお兄さん。私の持ってる木棒を見やりながら何か言っる。……あ、借りたままだった。返さないといけないよね、きっと。
「あ、あのー……っ?!」
恐る恐る声を掛ければ、ばっと猛烈な勢いでこっちを見る。び、びっくりした、心臓に悪いよ!
「ごめんなさい、お借りしたままでした。お返しします」
棒を差し出し頭を下げる。おじさん達を相手にしてたからあちこち傷付いちゃったけど許して!言葉は通じないけど、真摯に謝ればきっと通じるはず。棒を受け取ってくれたお兄さんに、もう1度頭を下げれば、慌てた様な声が次々掛かった。
『謝ってるよな?な、この人謝ってるよ!』
『な、なんで謝るんだ?!あいつら倒してくれたんだ、謝られる事なんて無いぞっ』
『お前だ!お前がたかが鍬の柄で四の五の言うからだろ!』
『お、俺の所為?!だ、だってずっと使ってきて手に馴染んでるやつだったんだよ』
『知るかそんなの!この人がお前を助けてくれなかったらどうなってたと思うんだ!!命あってのもんだろうが』
ああ、また言い争いになってる……。こんな時、どうしたら良いのかな。言葉が通じないのに仲裁に入るわけにも……じいちゃん、どうしよう。おろおろしてたら、私を囲んでた村人さん達がざわめき始めた。
「?」
そのざわめきは目の前の言い争いに対するものでは無いようで、振り返ると皆同じ一点を見つめている様にも見える。その視線を辿って行けば、私がここに来たときにいた原生林。そしてその入口に……何か、居た。
「……馬?」
その呟きに、それがこっちを見た気がする。そして優雅に、ゆったりとした動きで私や村人さん達の方に近付いて来たんだ。
かぽ、かぽ、かぽ。
どんどん近付いて来るそれは、やっぱり馬だった。
『ひ、ひぃっ』
『おた、お助けを……!』
何故か馬に恐れをなして平伏す村人さん達。え、何で?だって馬でしょ?
何が何だか分からなくて、きょろきょろと周りの彼らを見回してるうちに馬は目の前まで来ていた。
『 』で科白は書いてますが言語が違う為、忍には通じていません。そうでなくても彼女は外国語科目が大の苦手。