2-16 また?!
幹の合間から差し込む朝日に目を覚ませば、皇雅もとうに起きていた。
「お早う皇雅」
〈うむ〉
傍らで座ったまま、彼がぱさりと尻尾を1度揺らす。この森には小川が流れていたからそれで顔を洗った。腹拵えを済ませて、私達は森を抜ける。あのおじさん達の姿は無く、難なく次の関所へと向かった。
***
ダルムの関所に着きました。が。
「えー……と」
何故、また私は絡まれてるのでしょうか。しかも兵士に。
『巨体の馬を連れた旅人とはお前の事だな。……付いて来い、隊長がお待ちだ』
『え、でも私ダルムに着いたばかりです。何故隊長の下へ行かなくてはいけないんでしょうか?』
背を向ける彼に兎にも角にもと慌てて付いて行き、素朴な疑問を投げてみた。
『何も言うな、何も聞くな。……と言うか聞かないでくれ、頼む』
どんどん情けない声音になっていく兵士の科白。私は何が何だか分からなくて首を傾げるしか出来なくて。だってダルムに来たばっかりなのに!私何もしてないよね?
〈……〉
「皇雅?どうしたの?」
さっきから押し黙って隣を歩く彼に小声で尋ねてみるも、〈……いや〉と歯切れの悪い一言しか返ってこない。兵士に連れられて隊長の下へ向かった私と皇雅だけど、詰所の柵の内側で皇雅は待機と言われて1人で兵士に付いて行く事になった。わざわざ逆らう必要も無いしね。
ネイアでは木造建築だった詰所は、このダルムでは全て布製の屋根に壁幕を張った幕舎だった。そう、モンゴルの移動式の家みたいな。関所によって変わるっぽいけど……まあどうでもいいか。入口が閉じてる幕舎もあれば、入口が開けているのもある。へえ、と現代では滅多にお目に掛かれない代物ばかりの詰所を見回しながら進んだ。
『ここだ』
言葉少なに兵士の彼は1つの幕舎の前で足を止めた。そして開けた入口の傍へと寄ると、入れと促してくる。はあ、と1歩2歩と中へ入った瞬間に何かが迫って来るのが見えた。
な、何?!
ダルムに着いた忍と皇雅。
ダルムは北地方では二、三を争う規模の関所です。そして北地方では大分南寄りなので、あと1、2ヶ所程関所を抜ければ首都アトゥルへと抜ける土地です。