表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
21/115

2-12 忍の豹変

途中、視点が変わります。

「皇雅、何でこんなのばっかり絡んで来るのかな」


〈シノブが男に見えるのであろうな。男にしては小柄な体躯故に舐めておるのだろう〉


「そっか」


淡々と呟いた自分の言葉に、何か・・がすとんと胸に落ちた。……ああ、これは苛立ちだ、と。シダ村のことがあっても、ネイアでの文官騒ぎは心にしこりを残していらしい。思い出したくも無い文官の顔。その顔が、前に居る3人に重なった。


見たくない。思い出したくない。


嫌悪感が蘇り、思わず顔を顰める。……すうっと周りで街の人達の不安や心配の細波さざなみが小さくなって消えていくのを感じた。どこかで感じた事がある、そう確信出来た不思議な感覚。そのふわふわ感のまま……私の足は彼らへ向かっていた。



***



皇雅side


3人を目にし、シノブの顔に嫌悪感が浮かんだ。それはネイアでのあの文官を思い出したに相違無いだろう。男と間違われ、良い様に操れると言外に言われたのだとその表情から感じ取り。女子おなごの身で、あの侮蔑にはさぞや声を大にして拒絶したかったに違いない。その負の感情は未だその胸奥で燻って居たのだろう。


シノブの眼から感情が抜けた事に気付いたのは、シノブが動く直前であったと思う。我に一言も言わず、すっと足を踏み出す。


余りにも静かな所作。2歩目を地に着けた瞬間、その動きは俊敏な獣の如く疾くなった。


先ず左手の男。片脚を軸に身体を捻り、飛び蹴りに似た蹴りを放つ。躊躇無く、急所の1つくびへ。タッと着地するや否や、央の者に手を伸ばすと襟を掴み、間を与えず其奴を宙へ浮かせ地へ叩きつける。右手の者へは、木棒を短く持つと鳩尾へ先端を押し付け背から地へ倒した。


『……ゔ、がっ』


前2人は声さえ上げれなかったが、鳩尾に食ろうたそ奴は短く苦声を上げた。急所の内、最も心臓に近い鳩尾。鳩尾そこを拳などでは無い硬い木棒でど突かれでもすれば、誰でも呼吸が儘ならぬ事は人間では無い我でも理解できる。


『この……っ!!』


地へ叩きつけられた男が、ふらつきながらもシノブへと反撃をと拳を振り上げる。が、振り上げたその形でそのまま固まった。

ひたり、とそ奴の喉元に向けられていたのは、触れる寸前で止められた木棒。鳩尾には代わりにシノブの膝頭がのし掛かっていた。あの者はさぞや剣の切先を向けられたと感じただろう。シノブは横をちらりとも見てはいない。それなのに何故、襲い来るあやつが分かったのか。


『動かないで下さい。……あなた方のせいで、あの男を思い出してしまった。どうしてくれるんですか』


酷く冷たく硬い声は、普段のシノブからは程遠い。一体どうしたのだ、シノブ。何故なにゆえその様に豹変してしまったのだ?

俯いてその顔が見れないだけに、焦燥が我の胸内に広がる。くびを蹴られた男はまだ気絶したまま。喉元に木棒を突き付けられた男も、シノブが鳩尾に乗っている男も、一部始終を見ていた街の者達ですら、凍った様に動かない。


『おま、え……っ。何者だ……?!』


喉元に木棒を突き付けられたままのそ奴が声を絞り出す。


『その質問に答える必要はありますか?』


シノブの答はにべも無いものだった。


『私はあなた方に誰なのかと聞いた。あなた方は私如きに名乗るものはないと言いました。なら、私も答える必要なんてないでしょう?まあ、あなた方が答えたところで盗人の烙印が付くだけですが』


『っ、』


『前科があるなら尚の事、捕らえてもらわなくては。このシロムに、あなた方のような物騒な人は要らない。他の皆さんが安心して暮らせませんから』


存在を否定されたそ奴は、怒気も覇気も抜けたかのよう。体格など比べるもなく、華奢だと見縊みくびっていた相手に一方的に伸された上、己の存在を否定されたのだ。力が抜けるのも無理はない。そんな凍った空間を動かしたのは、シロムの兵達だった。何事かと駆けつけ、シノブとそ奴らの現状を見ると動きを止めた。


『お、お前らはっ』


3人の顔を見た兵らは、持っていた縄で奴らを捕らえて行く。……シノブはだらりと腕を下げたと思えば、そのまま固まっていた。


〈シノブ。我が契約者。……戻って来るのだ我が元に〉


シノブのみに声を聞かせ、近寄る。異世界から我の元に現れたシノブは今、オリネシアに存在して居るが居ない・・・何時いつもの明るく笑うシノブが居ない。


帰って来い。


シノブの頭を髪を緩く食む。歯を立てずに何度も何度も。そうして鼻先を頬や髪に幾度も摩れば、やっと身動ぎした。


『皇、雅?』


か細く、だがしっかりと我が耳に届いたシノブの声。


『私、何を……あの3人を返り討ちにした、様な気がするんだけど……』


頭を押さえながらも背に木棒を戻す。細かった言はひと区切り毎にはっきりしていった。


〈……余り覚えておらぬのか。あの者らに何を告げたのかも?〉


『え、何か言ったの?皇雅、私変な事言ってなかったかな、大丈夫?』


ああ。

我は思わず歎息した。安堵したのだ、いつものシノブが戻って来たのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ