2-10 懐かれるって嬉しいよね
『きゃーっ』
『待てー!』
『ね、ねーちゃん速すぎるっ!』
え?何してるのかって?
鬼ごっこしてるんだ。決して恐ろしいことをしてるんじゃないよ?
『って、うわーっっ』
『マドラヤ捕まえた!次鬼だからねー』
良い天気だから村の子供達皆で遊んでみようかな、って思ったら鬼ごっこを知らなかった。で、教えてみたら皆はまっちゃったから、私が鬼になって遊んでます、ええ。それも大人気無く本気で。
マドラヤは村で2番目に年上の、11歳の男の子。この世界じゃ19歳が成人なんだってさ。アズナのお父さんは23歳だったらしい、とは余談。そして私が成人してないと分かるとまた驚かれた。もー勘弁してよね。
きゃいきゃいはしゃぐ私達を見て、皇雅は苦笑。大人達はおろおろしつつも嬉しそうだった。
『契約者様に遊んで頂けるなんて……!』って言葉は聞こえてませんよ、ええ。聞こえない、聞こえない!
そう楽しく過ごしてても、最後には別れが来るもの。
『行っちゃやだっ!』
今現在、ぴとっとひっつき虫と化しているアズナを筆頭に、私には360度全方向から子供達に囲まれてる。
『ねーちゃんまだ居てよ!』
『もっといるのっ』
うーむ。凄く懐かれてしまったみたい。でもね、私も1日って決めてたし、シロムにも行きたいし。
『マドラヤ!』『ヒビリッ』
ああ、子供のお父さんお母さん達が顔面蒼白になってる。アズナの若いお父さんは言わずもがな。……う、動けんのだけどどうしたら良いの、これ?
シロムへの道程にどうぞお食べ下さい、と食料や水を貰い、いざシロムへ、と思った瞬間だったんだ。子供達に囲まれちゃったのは。
『……皆にまた会いに来るから。鬼ごっこ楽しかったねぇ。次来る時は、また皆で遊べるの探しておくね』
のほほんと言いつつ考える。だるまさん転んだ、とかケイドロ(……警泥だったっけ?)でも良いかな。色鬼は色が少ないから難しいか。
『ヒビリー、次来る時までには咳は治しておいてね。じゃないと鬼ごっこで真っ先に鬼にしちゃうから』
『う、うん!』
『アズナは……』
1人1人に声を掛ける。一晩と半日過ごしただけだけど……ふっふっふ、人の名前を覚えるのは得意な方なんだよね。
『よし!皆にぎゅーってしてあげる!次いつ来れるかなんて分からないけど、お姉ちゃんのこと覚えててくれたら絶対会いに来るからねっ』
明るく言って、1人ずつぎゅーってしてあげて。マドラヤ達年上の子達は、ちょっと顔が赤くなってた。ませてるなぁ。
『絶対来てね!』
『約束だからっ』
『もちろん!』
漸く納得してくれたのか、渋々離れてくれた。大人達からは『獣神様方に幸多からん事を願っております』と恭しく言われた。そうして村人さん総出で見送られて、私達はシダ村を後にしたのだった。
〈随分と懐かれていたな、シノブ〉
「うん。また会った時、憶えてくれてるといいなぁ」
のんびり速歩でシロムへとの道を進む。うん、今日も良い天気。
忍は子供と遊ぶのが好きなようです。昔はよく、男の子に混じって遊んでいたくらいですから。
ここで季節について簡単な説明を。
オリネシアの年の数え方は先ず、日本で言う春、夏、初秋の季節しかありません。春と夏の間には梅雨に当たる時期があります。
1年間260日、1季節80日。梅雨に当たる時期は20日程。
春の季節は「薫花」、夏は「繁生」。初秋は「紅涼」。
そして梅雨は「潤水」と呼ばれます。因みに日本の梅雨とは比べ物にならない雨量です。
うるう年……ではないです。また出た時には後書などで説明します。