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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
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2-7 こんな硬い声出せたんだ

ふっと皇雅が笑い、兵士は返事しながらもびしりと固まった。


『その文官の方はこの南の門から来るのですか?』


『そ、そうです。なので出来るだけ南門付近に居て頂けませんか』


『……』


ネイアの兵って結構自分勝手だな。私を男に何度も間違えるわ、勝手に皇雅(獣神)のことをバラすわ……シラヌ村の人達と約束したから隊長のあの人に会いに行ったけど。勝手に私達を街に抑留してさ、しかもお偉いさんに会えって何なんだ。


『ねえ皇雅。もし今度ネイアに来ても、隊長には会わない方が良いみたいだね』


〈同感だな。シノブの意思は我が意思。些か無礼者が多い故、その様な者らにシノブが会うことは無かろう〉


わざと兵士に聞こえる様にオリネシアの言語で話す。嫌味だなんてとんでも無いよ?勿論。でも出鼻を挫かれたようで……早く次の街に行きたいな。さあっと蒼ざめた兵士を背に踵を返す。皇雅には、もう遅いかも知れないけどもう1度瞳を黒色に戻してもらった。もう1回ダナに会いに行こうかな。



***



『ダミエ様がお越しです!』


常歩なみあしで南門に戻ってくると、ばたばたと何やら騒がしくなっていた。隊長やら南門の守備にあたる兵達が総出で出迎えるらしい。ダミエって言うのが文官の名前なんだろうなー、これは。

そうして遠くから見えた2頭立ての馬車、その周りの彼を護る兵達。ガラガラと音を立て猛スピードで近付いて来る使者一行は、南門まで来ると漸く速度を落として止まった。……見なければ良かったと思うのは私だけでは無いと思いたい。ダミエって文官は、悪代官のイメージで良くあるような容姿だった。小太り、脂切った顔、もうぞわっと来るような好色だと分かる目つき。


近寄りたく無い!!


叫びたかったけど、それを何とか顔に出さずにいられた自分を褒めたい。


『出迎え御苦労である。……あの方はまだ居られるのであろうな?』


『は、あちらに』


隊長がこっちへ顔を向けた。あの方って私達のことか!嫌悪感を抑え込む為に無表情を決め込み、何も感じないよう心を遠くに押しやり文官の方へ目を向ける。あの眼で私達を上から下まで舐め回し、そうしてふふっと嗤う。何だ小僧か、って心の声が丸聞こえだよ。


『誠あれが契約者か。これならば我が手に……』


今聞き捨てならない科白が聞こえた気がするっ!


〈……何と無礼な、不躾な……〉


唸りに近い皇雅の低い声。彼の怒りが凄く伝わって来る。正直ね、私も嫌だよ。こんな嫌な眼を向けて来る人と同じ空気を吸うのは。


「皇雅」


低く低く、唇を動かさずに皇雅を呼ぶ。それだけで彼は私が言わんとすることを理解してくれた。金瞳になって皇雅がかぽり、と1歩踏み出す。全員の注目を浴びながら1歩1歩文官へ近寄った。

にやにやと気味悪い笑みを浮かべる文官。声が聞こえる、だけど彼にも彼を護る兵達にも届かない位置で皇雅に止まって貰い、私は自分でも驚く様な硬い科白を文官に投げた。


『あなたが文官ですか。

何て不躾な、私欲に塗れた眼で私達を見るのですか。私達はネイアの者ではありません。ネイアの顔を立ててあなたが来るまで留まって居たけれど、本来私達が一関所の隊長に命令を受け従う義理など無いのですが。あの隊長も困ったものですね、こうも安易に私達(獣神)の事を漏らすなんて』


つい、と隊長を見やればさあっと顔から色が引いた。獣神を蔑ろにしたらしいと今更気付いたみたい。……良い気味、とは思わなくは無い。


『あなたの顔、眼の色から獣神をどうこう出来ると思っているのだと筒抜けです』


『なっ!』


『獣神は曲がりなりにもこの世界で敬うべき神であるはず。それを、しかも皇雅を私欲に汚れた眼で見るなんて……非常に不愉快です』


下心丸分かりだよ、その顔、その眼。だらだらと脂汗を垂らす様は見苦しいし見たくも無いんだ、私はさ。これでも其れなりに年頃の女子なんだからね!


『『目は口ほどにものを言う』とは良く言います。私を見て高が若男ガキだと侮り嗤った事、分からないとでも?』


〈我らを従わせられると思うなど浅はかな。我が契約者に対しての不躾なる視線。我が物にと我を見やる無礼。我が忍耐の強さに感謝するが良い。然も無くばその方などとうに屍となっておろう〉


『な、な……っ。お二方が何を仰ると思えば。私はなかなか御目に掛かれぬ獣神様と契約者に御目に掛かれると聞き、歓迎の意を込めて宴をと思っていたのですぞ』


『歓迎ですか。懐柔し我が物にする機会、の間違いでしょう?』


一刀両断に吐き捨て、皇雅は踵を返し歩を進めようとする。そもそもお酒呑めないし。あんな嫌な奴と同じ部屋に居たくない!


『これでネイアの顔は立てたはず。では失礼します』


『お待ちを!……何をしている、引き留めんか!』


その必死な声音に、文官の兵の馬が動き出す。呆れて物も言えないよ。そんなに手に入れたいの?


〈我が襲歩に追い付けるならば追い付いてみよ。さすれば宴とやらに出ても良いがな〉


小馬鹿にした皇雅の嘶きに襲歩の体勢を取ると、私達はネイアから走り出した。

背後に数頭の蹄の音が聞こえるけれど、それ程もしないうちに遠ざかっていく。景色が飛ぶように後ろへ流れて、襲歩ギャロップで駆ける楽しさが湧き上がって来ると、私達はどちらとも無く笑った。

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