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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
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幕間 千年の先

獣神 皇雅side


独白です。

この森となる生命が芽吹いた時、我も馬として同時に生まれた。木々が育つにつれ、我も成長していった。とても緩やかに長き年月を掛けて。生まれながらにして土地神とちかみとして獣神として定められた我が身は、森の開けた平地にあるイラヌ村を含め森から出る事は許されなかったのだ。


契印(契約者)を持たぬが故に。


だが、だからとイラヌ村の者に我が契約者に相応しい者は居なかった。時折姿を見せてやるも、我が体躯と獣神の証である深紅の眼に慄き平伏するばかりだ。つまらぬ日々に、村人の願いに気分次第で姿を見せてやる。我はこのまま土地神としてこの地でこの先も長い刻を、何の楽しみも無く生を受けていかねばならぬのかと辟易し、そして村の者達の願いに応えることもいつしか辞めた。


神である我には、目覚めていようが眠りについていようが、この世界の移り変わりが知識として蓄積されていくのだから。様々な国となり属国となり、だが土地神の我が居るこの土地は戦火に荒地となることは無かった。




そうして数百年、千年と時が経ち、森は巨木が林立する太古の森となり、我も成長の半分程を終えた。珍しく薄っすらと眠りから覚めたその日、その者(・・・は現れた。『痛っ』と小さな叫びを上げ見慣れぬ着物に履物を纏い、突如として宙から落ちて来たその者は、巨木の合間から見ている我には気付かず辺りを見回すと呆然と漏らした。


『ここ、どこよ?』


我の心は、この千年で初めて楽しみを見つけた歓びに震えた。悪しき者では無い事は獣神の透視能力で判断出来、髪は短くとも女子おなごであることも分かった。そのうちイラヌ村の方が騒がしくなり、どうやら賊が襲って来たらしい物騒な声や音が届いて来た。

だが我が関わる事では無い為放置していたのだが、この森に現れ、随分と困惑顏だったその女子おなごは村を巨木の陰から覗き見、僅かにたじろいだと思った次の瞬間には村へ駆け出していたのだ。


一体何をするつもりなのか。


平地の手間、巨木の間から村が見える場所から眺める事にしたのだが、あの女子おなごに目が吸い寄せられ、思わず瞠目した。

村の女に剣身を振り下ろそうとした賊の脇腹に、飛び蹴りを喰らわしたのだから。しかもそれだけでは無い。来るなと叫びながらも彼女を捕らえようとした賊を見たこともない武術で倒す。女子おなごでありながら中々に強い。その一連の動きも淀み無く流れるようだ。武術とは男が持つもの。それを何処で会得したか、女の身で操る女子おなごに酷く興味が湧いたのだ。


……あの者ならば我が契約者となってくれようか。千年もの長き年月、この土地から出られぬ我を連れ出してくれるのでは無いか。神である我が期待するなど……。そうは思えども興奮の波は収まらなかった。そのまま見物していれば、彼女は村人から半ば奪うように借り受けた鍬の柄であった棒を武器としたようだ。


頭上で棒を回し構えると、真剣の賊と対峙したのだ。絶妙な角度で棒を繰り出すせいか、剣に棒が寸断されることが無い。やはり見たことが無い動きをする。益々興味が湧くのが分かった。そうして彼女は賊らをあっという間に駆逐した。何という身のこなしと強さか。あの細身で体格の良い賊らと対峙できるとは。だが、賊らはまだ生存しているようだ。気絶までに留めたのか、殺すまでの武力が無いのかは分からないが。


あのおなごに問うてみたい。どこより現れたのか、何故なにゆえに武に秀でているのか。そして、我をこの土地の外へ連れ出せる契約者となってはくれぬかと。我はゆっくりとあの者と村人が集まっている所へと歩を進めた。

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