2-4 大奥様の厚意
挿絵あり。ただし非常に拙いイラストなので、それでも良ければ挿絵表示onで。
〈……仕方あるまい。成り行きに任せるしか無かろう、シノブ〉
「やっぱり?……何でこんな事に」
ぼそぼそと皇雅とそう交わし、 はぁ、と溜息を吐いた。
『只今戻りま『遅い。今まで何をしていたのですか』
少年が奥に声を掛けた途端被さった声。怒鳴っているわけでは無いのに、その声音は思わず姿勢を正してしまいそうなほど凛としていた。そして奥から出て来た初老の女性。けれどしゃんと背が伸びていて、何よりその目力が凄かった。
『どこで油を売っていたのです?申し付けた物は買えたのですか。……おや、後ろの者は誰です』
おおぅ……眼力どころか声がもう怖い。絶対逆らえないよ、これ。じいちゃんみたいだもん。
『お、大奥様!実は』
少年が必死に盗人の事を説明すれば、女性の目つきが少し和らいだ。
『そうですか、それは御迷惑をお掛けしました。荷を取り戻して頂いたとは……。貴方様をお連れした事は褒めねばなりませんね。どうぞお上がり下さいませ』
『あ、あの……お気持ちは嬉しいのですが、この場で失礼させて頂いても宜しいでしょうか』
『それはまた何故?』
『私はあまり目立ちたく無いのです。私の皇雅は他の馬より大きいので、一件のお宅の前で居りますとやはり人の目を集めてしまいます。シン国を旅している身で目立つ事は避けたいものですから』
慌てて辞退すれば、ふっと微笑われた。
『その着物はシン国では見かけません。貴方様のお連れよりも、その着物のままで過ごされる方が余程目立つかと思いますよ』
お礼に着物を差し上げたい、と言われて押し切られてしまった。家の奥で大奥様直々に服を見繕って貰って、すっごく申し訳ない気持ちだよ……。
そして当然の事ながら彼女には私が女子だと知られた。けれど馬に乗る事も多いのだろうと男性物を身体に合わせて仕立ててくれたんだ。しかも数着くれた中には女性物やいつか必要だろうと髪紐も付けてくれた。更には手荷物を入れておけるダルタや、お金まで!何て良い人なんだろう。
『あの荷は着物を作る為の布地ですが、入手が極めて難しい代物なのです。その布を盗人より守って頂いたのです。この程度ではお礼にもなりませんが、どうぞお使い下さいね』
『そ、そんな!』
もう恐縮も良いところ。渡された数着の着物とダルタ、お金の入った巾着を前にわたわたと居住まいを正した。このシン国での最上級のお礼の仕方なんて私には分からないけど。膝前に指を揃えて真の座礼で頭を下げた。
『ありがとうございます。大切に使わせて頂きます』
もう1度見た大奥様は、最初の厳格さが落ちてとても優しく微笑んでくれた。大奥様がくれた親切だけで、ネイアに来て何度も性別を違えられた心のもやもやが晴れた気がしたんだ。
オリネシアの民が着る着物。女性用です。
ダルタ : 今で言う斜めがけのボディーバッグのような物。
履物は民の間では底板に帯状の鞣した皮紐を数本取り付けたサンダルのような形です。足の甲部分で数本交差させ、踵部分にも紐が取り付けられています。ナースサンダルみたいなものと想像して頂ければ分かりやすいかもしれません。勿論造りは簡単ですし、耐久性は低いので、民は皆自分で修繕しながら履き潰します。
更新報告で補足説明があります。
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