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闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
4章 1部 首都アトゥル
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4-20 愛しのお昼ご飯が……っ

途中視点変わります。

下知が下されてから数日経った昼時に、王宮の廊下でばったりと出会したのは陛下だった。



『あ、陛下』


『シノブ殿か。どうしたのだ?部署以外の所にいるとは珍しい』


『実は迷ってしまって。食堂ってどこ……ですか?』


ちょっとむっとした陛下だけど、しょうがないでしょうが。この他人ひとの目がたくさんある公の場でいきなりタメってどれだけ鋼心持ってなきゃいけないと思ってんのさ。幾らあの下知が出されてるとは言っても、納得出来る人ばかりじゃないんだから。まあ、陛下に対して敬語を外すことは割り切ってるつもりだけども。


『食堂か。何故だ?』


『え?何故って日々の糧ですよ、食事は。何事も腹が減っては戦にならぬって言うし』


力説しますよ、ええ。食事は大切です。今日は時間が合わなくてミイドさんとは別々にお昼を取るんだけどね。


『そうではない。ダウエルは奥方より昼餉を渡されているではないか。シノブ殿は違うのか?それから敬語を取れと申したであろうに』


『そんな無茶な』


ああ、周りの視線の痛いこと!『あの野郎、陛下になんて口のきき方を』なんて小声が聞こえるようですよ。本当に……陛下の無茶振りには困ったものだよね。まあ『野郎』でも『小娘』でも私には大差ないけどさ。良いですか、TPOは大切です!


『それで、何故食堂に向かう?』


『味も好みだし、量も調節してくれるから気に入ってるんです』


何より、ミリア様……あ、ダウエル様の奥様ね!彼女とか、ハイドウェルの料理人達に悪いかなぁって言うのが本音だったりする。好き嫌いはそんなに無いとは自分でも思ってるんだけど、やっぱりその日その日で食べれる量とか変わったりするしさ。忙しいと昼食、あー……オリネシアでは昼餉ひるげ?抜きって日もあるし。それも当日に出勤してみないと分からないとなると、せっかく作ってくれても『食べれませんでした』なんてもったいない!王宮勤めし始めてから給料もらって、結構貯まってきてるしね。そこから何故か陛下が声を潜めたから、私までひそひそ声になってしまう。


『敬語』


『無茶言わないで下さい。見て下さい、この周りの視線の痛さ。『この野郎……!』なんて思ってるのばればれですよ?そんな中で敬語を外せるわけないでしょう。私だって命は惜しいです』


『……』


『あの下知が全貴族に通達されていても、大半はすぐには認められないんですよ。貴族としての矜持だったり、私の身分とかを鑑みて、反発があるのは想像出来ると申し上げたではありませんか』


『……余の命に逆らう心持ちとは』


『命令に従うのとすぐに胸中で納得出来るか否か、というのは必ずしも同じではないと言うことです、陛下。陛下はシン国において最上のお人。対して私は平民なのです。雲泥の差があるのに等しく友人の様に接することに、異議を申し立てたい方が殆どだと思います。ダウエル様を始めとする財務部署の皆様の態度が珍しいかと』


『……貴方もその心中では、余と友人になるということを嫌だと思っているということか』


『そうではありません。立場というものがある、ということです』


あーもう、鬱陶しい!国王なんだからさ、堂々としてれば良いじゃんか。下知まで下して友人にするって宣言したんだから。私だって堂々と、というかあの日みたいに強引にでも他の人達に見せつけるなりして『こいつは友人だ』って態度でいてくれれば開き直るのに!言っちゃって良いかな、『態度で示せ』ってさ。……あ、でも他部署の貴族の目が怖い。


『陛下、これでも努力しているのです。他の目が無い時ならともかく、他の貴族の前で立場を、ひいてはダウエル様の立場を悪くすることは出来ません。自らの意思をはっきり申し上げることが精々です』


『ふむ』


陛下がにやりと口角を上げる。……あ。どじ踏んだかも。



***



アルダーリャトside


昼餉時に廊下で会ったシノブ殿と話したが、多少は外すようになったものの、相変わらず敬語を使う。何故だと問えば『無茶振りだ』と反論された上、その理由を力説された。その理由は確かに分からなくもない。だが俺の下知に従わない者がいるとなると、その者について詳しく調べなければなるまい。

だが、『他人の目が無い時ならともかく』とは言質を取った。ならば俺と昼餉を取ってもらおうではないか。にやりと口角を上げると『げ、』と下手を打った時の顔つきになる。ふふふ……やはりシノブ殿は聡い。しかし逃がさんからな。


『余と昼餉を取らぬか?』


『……い、いえ、私は食堂で』


『そう言わずとも良いではないか。参ろうか』


『ですから食堂で昼を……っ』


後退ろうとする彼の腕を掴む。やはり華奢だ。去りし日、ミキフを伸したあの武術は一体どこから発揮されるのだろうか。不思議だな。

そばにいた者に自分の執務室で昼餉を取ると告げ、2人分用意するように申しつけると彼を半ば引っ張る様に歩き出した。……シノブ殿を見る視線に同情する色が増えたのは何故だ?腑に落ちぬ。




『さて。この部屋ならば他人の目も気になるまい?』


『はあ』


『たまには良いではないか。余と昼餉を共にしても』


まさか俺と居るのは嫌だったとか言うのではないな?


『……あーもう!陛下!』


『な、何だ?!』


唐突な叫びに、こちらまで肩が跳ねた。


『今日は、今日の昼餉はライが付いてくる野菜と鳥のラーン綴じ!食べるの楽しみにしてたやつなのに!』


『……お、おお』


『食べる機会逃した!あれ珍しい献立だったのにっ』


昼餉を乗せる卓をばしばしと叩きつつ俺に文句を言ってくるシノブ殿。先程まであんなに外せないと言っていた敬語が綺麗に外れていた。やはり他人の目がないなら砕けた口調になってくれるのか……ではなく!


『あの昼餉、美味しい上に中々出ない献立だったのに!……次はいつ出るんだろう?』


途中からぶつぶつと独り言のように呟く。俺が『共に昼餉を』と誘ったことで、彼は好物を食べ損ねてしまったようだった。


『それは悪いことをした、シノブ殿。申しつけた昼餉に、その『野菜と鳥のラーン綴じ』?とやらを持って来させるが』


『……大丈夫です。あの献立、人気だから他の人達から取り上げるようなことはしたくない。だからまた次に出る日を待つことにします』


そう口にするがやはりその表情は思わしくなく、余程楽しみにしていたらしいとは容易に想像出来た。……悪いことをした。


その後来た昼餉に、シノブ殿は『美味しい』とは言いながらも微妙な面立ちで箸を進めていた。もしや口に合わなかったのかと尋ねれば、『豪華過ぎて味が分からない』と答える。


『私は庶民です。ハイドウェル家でも考慮してもらっていたし、民の味が1番しっくりくるんです』


『そうか』


その事情もあり、食堂があるのは助かっていたと言う。……次は食堂に行ってみるとしよう。シノブ殿の好みの味、それを知るというのも悪くないだろう。

ラーン:卵


「野菜と鳥のラーン綴じ」=「野菜と鳥の卵綴じ」のこと。

シン国版の親子丼の具の事です。


食堂や献立について更新報告で追記あります。


http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/297806/blogkey/1128652/

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