表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闘神の御娘(旧)  作者: 海陽
2章 北地方
10/115

2-3 大事にはしたくないんですよ、お分り?

〈ネイアの者は誠に無礼者が多い。あの男もシノブを男だと思いよって〉


「まあまあ、皇雅落ち着いて。一応目的は無事済んだんだし、ネイアを見て回ろう?私は嬉しかったよ?皇雅が代わりに怒ってくれてさ」


〈甘い。甘いのだシノブは。我が契約者をあの様に言われるなど、我が許せぬのだ。シノブへの侮辱は我にとっても侮辱なのだぞ〉


「うーん……」


その熱弁にはちょっと苦笑するしかない。神様と私の考え方は少ーしズレてるのかな。

取り敢えず皇雅を宥めつつ、みちを歩いてると前方が騒がしくなった。見れば何やら事件勃発の様子。何事?!って思ってたら、怒鳴り声が聞こえてきた。


『盗人!!俺の荷物返せっ!大奥様に頼まれた物なんだぞ!!』


盗人。盗人……泥棒ってこと?しかも頼まれた物を盗んだってこと?ゆ、許せんっ!

運良くと言えば良いのか、その盗人らしき男がこっちへ走って来る。しかも良い歳した大人だった。


「……皇雅。少し離れててね」


〈うむ〉


そっと背中に担いでいた木棒を手にする。


『そこの奴どけーっ』


誰がどくか!!


突っ込んで来る男に、足を引っ掛けると鳩尾へ肘を喰らわした。それでもまだ動けるらしく、服を掴もうとする。なので素早く脇腹を棒で横払いし頸椎に手刀を叩き込んだ。


『て、てめ……っうぐぇっ!』


「あ、皇雅」


強く手刀を喰らわしたはずなんだけど、ちょっと甘かったらしい。ズシャアッと地面に伏せた男は起き上がろうとした瞬間、そんな潰れた声を上げた。それは皇雅が前脚で男を背から踏ん付けたから。


〈ふむ、やはりシノブの動きは美しいな。滞ること無く技を繰り出す〉


「あ、ありがとう皇雅」


少しそのまま抑えててねと告げて、男の手を離れた荷物を拾いに行く。布に包まれたそれは、何か柔らかい物らしく壊れてはいないみたいで。ああ、良かった。荷物は無事っぽい。

追い付いて来た少年に、はい、と渡すと何故かきらきらした眼で見上げられた。


『お兄さんすげーっ!!見たことない動きだったけどめちゃくちゃ強いんだな!!』


『そ、それはありがとう……?』


うう……少年にも間違えられたなんて。でもともかくそれよりも。


『あ、あのさ。取り敢えずあの男を捕らえとかないといけないと思うんだけど。だから悪いけど兵士の人、呼んで来てもらっても良いかな』


『勿論だよ!そこに居てくれよ?絶対どっか行かないでくれよ?!』


『あ、うん?』


言いたいことだけ言って、少年は物凄い速さで駆けて行った。そして。


『兄ちゃん、こっち!ひっ捕らえてよ!』


少年はあっという間に1人の兵士を連れて戻って来た。良く連れて来れたなぁ、と言うかやけに親しげにしてるな。


「あれ?若しかして……門兵の人じゃ」


〈……あの無礼者だな。何故あやつなのだ〉


縄を片手に少年に引っ張られて駆け寄って来る彼……その顔に憶えがあった。ネイアに来た時、門の所で私に槍を向けた兵士のお兄さんだ。


『お待たせお兄さん!連れて来たよ!この人、俺の兄ちゃんなんだ』


ああ手を振ってる、ちょっと可愛いなあ。成る程、道理で砕けた話し方してると思ったよ。身内だったんだね。兵士の彼は、私達が誰なのか分かると微かにたじろいだ。


『じ、じゅ『兵士の方』


獣神様って言おうとしたでしょ。言わせませんよ!バレたく無いんだからね?!


『この人、少年の荷物を引ったくって逃げたんですよ。捕らえてくれませんか?』


『は、はい。……その、この男を押さえたのは誰なのか分かりますか』


『……』


別に感謝して欲しくてやったわけじゃ無いし、出来れば大事おおごとにしたく無い。


『何言ってんだよ、兄ちゃん!このお兄さんが倒したんだよ。すげーかっこ良かったんだからなっ』


『え、』


『……取り敢えず連れて行ってくれませんか』


まさか、って表情で瞠目した兵士の彼に、皇雅の脚に下敷きのままの男を一瞥する。私に何か言いたそうな少年の兄は、結局何も言わずに男を連行して行ったのだった。

そして今、何故か私は少年に引っ張られている。


『俺じゃ大した事は出来ないけど、昼飯ぐらいなら奢れるからさ!お礼させてよ。大奥様の物を置いてからさ』


いや、別に良いよ。気にしなくてさ。凄い目立ってるじゃんか!あのね少年、私と皇雅は目立ちたく無いんだよ。そんな事を思う間にも連れられて、どうやら呉服屋っぽい家に着いてしまった。

現代では。



忍がオリネシアに落ちた日から数日後あのマンホール・・・・・・・の下で、作業員がバッグを見つけていた。


「おーい!こんなとこに荷物落としたの誰だ?!」


「知るかよっ。……え、おい、これ……」


どうやら何かの習い事の荷物らしいバッグの中には、携帯やスケジュール手帳、財布が入っていた。その財布の中を確認した彼らの顔付きが変わる。身分証明のカードには、近くの高校2年生の女子が記されていた。数日前から行方不明者として公表されていた、五十嵐忍の名と写真が貼られていたのだ。

重要な証拠として警察に届けられたそれらの荷物。だが、その後捜索活動に進展が見られることはなかった。


忍の祖父は、その荷物を大事に持って帰ったという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ