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不思議な商人さんのお話  作者: 茶之間 蜜柑
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四日目・午前・謁見せしは…

朝、私が目覚めると、ロッドさんが居なかった。いつものように露店を始めているのかと思ったが、外にもいない。勿論、家の中にも。一人で森に出たのか…一人で街に出たのか…。急に気が変わって旅に出てしまったのでは…?そう思い始めた途端に、自分でも分かるくらいにソワソワしてしまった。とりあえず頼れる人……。隣りのおばさん…じゃなくて、おじさんでもなくて…もっとこう…




「リリアさーん!大変なんです!ロッドさんが…」

「ロッド氏が、どーしたって?」

「朝から姿が見えなくて…」

私は急いでリリアさんの家へ向かった。リリアさんなら頼りになるし、心強い。昨日教えてもらったのだが、リリアさんの家は通りが一本違うだけで、すぐ近くだったのだ。


「とりあえず、ララの家に行ってそれから状況次第…ってところか。置き手紙とかは?」

「ありませんでした…」

「ん〜…。あら、あれ…?」

「⁉︎ 王国軍⁉︎ なんで私の家に⁉︎」

なんと私の家の前に、王国軍の方々が数名来ていた。私を探しているようだ。


「あ、あの…。ウチが何かしましたでしょうか…?」

「あ、貴方がララさんですね?」

「ララが何かしたのか?」

「! リリアさんじゃないですか!ララさんとお知り合いでしたか。軍を抜けて数ヶ月経つから心配でしたよぉ!どーです?お変わりないですか?」

「そんなのは今、どーでもいいのよ。ララの家の前で、何やってたの?」

「あぁ、その件ですね。王がララさんと貴方を呼んでいます」

「私も⁉︎」

「はい。貴方の家にも、我々が向かっているはずですけど」

どうやら私がリリアさんを呼んだのと、王国軍がリリアさんの家に行ったのは、入れ違いだったようだ。


「とにかく、お二人一緒なら話が早い。さぁ、馬車に乗って!」




城は、街の中心部より少し北西にそれた位置にあり、私の家からは数分といったところ。朝から色々ありすぎて、何が何だか理解が追いついていないが、されるがまま、王宮の中に通される。こんな機会、滅多にない。リリアさんはともかく、私のような一般が通れるのは人生で一度、あるかないかだ。あっと言う間に王座の前まで来てしまった。失礼がないように背を低く保ちながら、緊張から前が見えない。


「よく来たな。 リリア、久しぶりだな。どうだ、良くやっておるか?」

「はい。新たな目標の下、日々精進しております」

「うむ。そちらの少女よ。ララと言ったか。緊張せんで良い。少し大きいだけで、機能は普通の民家と何ら変わらんよ」

「は、はい!」

四十代後半の落ち着いた、低く安定感のある、まったりとした男性の声が聞こえてくる。我々国民が尊敬し、愛すべき国王の声である。


「さて、早速本題へ入ろうか。今回、ワシが其方(そなた)らを呼んだのは、コヤツの事でだ…」

そう言うと王は、手を叩き、召使いを招き入れる。召使いは罪人に大きなローブを被せ、重り付きの手錠をかけて連行して来る。罪人が王座と私達から少し横にそれた場所に(ひざまつ)かされると、召使いはその大きなローブを取っ払った。


「「…⁉︎ ロッドさん⁉︎」氏⁉︎」

「コヤツは、我が国の国交を断絶すべく、隣国から手配された届け品を略奪。隣国の運び屋に危害を加え、更には我が国の軍にまで反抗した。其方らはコヤツと知り合いだという情報が街の方から入ったので、ここに召集したのだ」

ロッドさんは口に拘束具をつけられ、一切喋れない状況にある。さらに、召使いの後ろには、剣に手をかけたまま待機する四人の護衛の兵士。勿論、王座の後ろにも二名の兵士が待機中である。


「王!それは何かの間違いでは無いのですか⁉︎」

「うむ。コヤツが届け品を略奪しているところを捕らえたのだ。間違いが生まれる筈がない」

隣国から手配された届け品。略奪。昨日までの出来事で、そのワードから連想される物。『奴隷』。ロッドさんは私が眠った後、一人で奴隷を解放しに行ったのだと悟った。


「お、王様!この人は…その…悪い人じゃないんです!ただ、ちょっと他の人にはない何かがありまして…えと…その…」

「ふむ。其方が言いたい事は分かる。コヤツを大事に思ってくれているのだろう?」

「そ、そんなんじゃないです…///あ、いやそーですけど…」

もう訳が分からなくなってきた。ロッドさんが何をしたって言うのだ。正しい事をしたとは言えない。しかし、悪い事をしたとはもっと言いにくいじゃないか。


「まぁ、落ち着きたまえ。話はまだあるのだ」

「…と、いいますと?」

「何、ワシは別にコヤツを殺したりしない。罪人にするつもりも、毛頭ない」

「「えっ⁉︎」」

「じゃあ、何でこんな…」

「ワシも奴隷商には、ほどほど困っていてな。断れるものならすぐにでも断っていた。しかし皮肉にも、ヤツらの国では、我が国に乏しい鉱山資源が沢山採れる。ここで国交を断絶したら、軍の装備や家庭器具にも影響が出てしまう。しかし、コヤツが奴隷商の馬車を襲ったおかげで、正当な理由で貿易を打ちやめる事ができるだろう。さらに、コヤツは腕利きの商人騎士と聞いた。コヤツを我が軍に置けば、我が国は晴れて半独立国家となれるのだ」

やはり、私には何を言っているのか分からなかった。さっぱりトンチンカンである。


「現在、我が国は三国連合を立て、貿易をしている。しかし、これを機に、右方の隣国との連合を断ち切ることで、我が国は左方の国との連合のみとなる。その結果、鉱山資源の面以外、ワシが望んだ状況になるのだ」

「それでは、鉱山資源についてはどうするおつもりですか?」

「コヤツをワシのところに置くと言ったろう?コヤツに採って来てもらうのだ」

「なるほど、確かにそれなら可能な話です」

「あとはコヤツが協力してくれるかどうかだが…?」

召使いに合図を送り、ロッドさんの拘束具を取り外す。自由になったロッドさんが一言目に発した言葉は…


「奴隷は!…あの奴隷はどうなる…?」

「もちろん解放しよう。我が国に奴隷は不用だからな。それと、君には城のすぐ側に大きく構える拠点をやろう。これでどうだ?」

「…。分かった。貴方のため、この国のために働こうじゃないですか」

「頼もしいな…。よろしく頼むぞ」


こうして、朝から続く長い出来事は終止符を打たれたのだ。

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