三日目・夜・忍び寄る影
今回は、少量ながら軽度のグロテスクなシーンが含まれております。「どうしても人が傷付くシーンが見たくない・そんなシーンは苦手だ」という方は【あとがき】までスクロールして下さい。
夜。
王の城の前の、謁見を明日に控える奴隷馬車。荷台には窓が無く、ギシギシと軋む音と嗚咽の混ざった小さな呻き声が絶えず聞こえてくる。大きさからして、収容人数は4人程度だろう。軋みの音や中から聞こえる物音からも4人程度乗っているだろうと推測できる。しかし、声は一人の少女の声しか聞こえない。それもかなり弱っている。そろそろ動き始めなければ、この少女の声も聞こえなくなってしまう。
「でも、どーしたもんかねぇ…」
さっきも記した通り、この馬車の荷台には窓がない。中の様子がまるで分からない上に、こちらの侵入ルートが一箇所に限られてしまっている。迂闊に突入はできない。そんな状況でかれこれ30分程度待機中なのである。出発を控え、家でララが寝るのを待っている間、こちらまで眠気に誘われたが、やはり俺の中のドス黒い気持ちは、消え失せる事がなかったのだ。
さらに待つこと5分程度。中から一人の男が出てきた。軽く武装しているところを見ると、奴隷ではないようだ。突入するならここしかない。一瞬の判断で、男の背後に回り込む。
「動くなよ…?」
「⁉︎」
愛刀を男の首に押し付け、動きを封じる。身動きが取れず、硬直している相手の顎を柄で思い切り撃ち込み、脳を揺らす。軽い脳震盪のような状態になり、意識を失ってあっけなく崩れ落ちる。中にもう一人、明らかに囚われていない人間の気配を感じた俺は、意を決して中へ突撃する。
「⁉︎ 誰だ貴様‼︎」
「あんたらの敵だよ」
それだけ言えば十分だろうと思い、刀を持った方の拳を思い切り撃ち込む。もちろん敵が防いでくる事は分かっている。そのため敵が防御した直後、全力の上段蹴りを喰らわせた。荷台は広くないため、威力も少ないと思ったが、どうやら敵を無力化するのには十分だったようだ。
「大丈夫か? 意識はあるか?」
「……ぅぅ…」
荷台の中にはこの少女以外に、少年が一人、男性が二人、女性が一人居た。しかし彼らは既に、声無き脱け殻と化していた。見るも無残な傷痕と、光のない瞳に残る一雫の涙。そして漂う死臭。
この少女も服が破れ、血が滲み、肌は腫れあがって、そこら中に痣ができている。傷の症状も酷いが、満足に食事も取れていないようで、体が骨と皮と少量の肉。汗をかき、脱水症状に陥っているようでもある。
「畜生…ッ‼︎ とにかく、こっから逃げるぞ……⁉︎」
「待て、そこで何をしている‼︎」
突如、外から聞こえた大声に驚く。ここに来て、逃げ場のないこの状況で、敵に見つかってしまったのだ。さらにその敵は、一人ではなく部隊を引き連れている。これは本当にマズい状況になった。敵部隊は躊躇なくこちらへ突っ込み、もれなくして俺は捕獲されてしまった。
ロッドは奴隷達を助けるべく、奴隷商の馬車の荷台を奇襲。奴隷達の乗った馬車に潜入することに成功した。しかし中の奴隷達は既に大半が息絶えていて、一人の少女のみを救出することに。しかし脱出する際に敵に見つかり捕らわれてしまう……
という内容でした。