三日目・正午・話し合いの場を
一旦落ち着いた方がいい。そう思った俺は、近くのレストランに寄り、ララと女騎士さんと一緒にお昼を食べている。
「申し遅れました。私はリリアと申します。貴方様の腕を見込み、弟子入りをと…」
「あ、えと、ロッドさん…どーするんです?」
「どーするも何も、俺は弟子を取れる程、腕が立つ訳じゃないし…」
「そんなことはない!奏連流はすごいのです!」
どうやらリリアは、俺を師匠か師範代にしようとしているらしい。俺には教えられる事は何も無い。むしろ、俺自身まだ完全には教わり切ってないのだから。
「しかし、師匠。どこでこんな流派を?」
「そうです!商人なのに」
「いやぁ、単にうちのお隣さんが奏連流の師範代で…。うちは商人の家系だから本当は教わらなくていいんだけどさ…」
そう。ウチは代々商人の家系。物を売って生活費を稼ぐ。それだけだ。まして戦闘術なんて学ぶ必要が全くないのだ。
「でも、ウチの父親がさ…。『流れてくる物を売るだけなら商人で無くてもできる。良い商人なら自分で商品を集めるもんだ』って言うんだ」
「なるほど。つまり、父上の助言で武術を」
「そうなるな。でもそのせいで俺は、夢を諦めなきゃいけなくなった」
「夢を…ですか?」
「奏連流を学んだおかげで、すっかり剣士に憧れちゃったんだ」
「それは…」
ウチは代々商人。それは切っても切れない腐れ縁のように、俺と俺の将来を結びつける。普通、商人の家系から剣士が出たって何の問題もない。だが、ウチの場合、先代の言う事は絶対だった。ウチの父親は自分の家系から剣士が出ることを嫌った。もっと正確に言えば、商人以外の職が生まれるのを拒んだのだ。それだけ自分達の仕事に、誇りを持っているのだ。
「まぁ、そんな感じだ。だから君にはむしろ教わりたいくらいさ」
「そんな…。しかし貴方様は私より数段強い。これは事実です」
「ん〜……。じゃあ、俺と一緒に旅するのは?」
「え?…旅……?」
「旅…ですか?」
意外にも、ララから疑問符が飛んできた。ララは何に疑問を感じたのか分からないが、とりあえず説明する。
「俺だって歴とした商人だ。それも、誇り高き独立商人。そのうちこの国を出て、旅をして、アイテムを探し、時に怪物と対峙する。その中で、俺の技術を盗めばいいんじゃないか?」
「なるほど!名案だ!」
「あ、あの!……ロッドさん?」
「ん?どーした?」
ララが少しさみしそうな目でこちらを見てくる。なにか訴えかけようとしている目だ。
「ロッドさん…ここから出て行くんですか?」
「まぁ、俺のホームタウンはここじゃないし…。ってかホームタウン自体持ってないし」
「ホームタウン……。」
とても寂しげな表情のララを横目に、リリアは俺について来る気満々だ。誰が見ても分かるくらいに、目がキラキラと輝いている。
「ロッド様、それならここをホームタウンにするのはどうでしょう?私もここの人間ですし」
「え?ここを?」
リリアの提案に、思わず訊き返してしまった。ここは気候も良く、土地柄も良い。近くに森があるので 、植物類は採取できる。やろうと思えば栽培も可能だろう。モンスターだって多種多様 存在しているはずだ。俺個人としてあと一つ。ホームタウンを決めるにあたって条件が欲しい。それは…
「なぁララ。ここら辺の近くに、海はあるか?」
海。そう海。俺はホームタウンを決めるのに、水と陸、両方に面していると言う事が欲しいのだ。
「海ですか?それなら城の西側が、それなりに大きな漁場だったり、港だったりしますけど…?」
「なるほど。好条件だな」
実に好条件だ。ここに来てあまり日が経っていないせいもあり、この国、この街の事を何も知らない。どうやらここは俺が思っている以上に大きな街らしい。まぁ国と言うのだから栄えているのは確かだが。
「よし決めた。ここを俺のホームにする」