三日目・午前・騎士さん再び
今日も俺はララの家の前で露店をしていた。ララの家は街の中心辺りにあり、ちょうど人が集まりやすい。人様の目に触れる事が多ければ物は売れやすい。当たり前だが大事なことだ。しかし、今日もまた"あの騎士さん"がやって来た。
「ロッド商人。今日はあなたに勝ちます」
「はぁ…。ずいぶんと気合が入ってますね」
「当たり前だ。このままでは騎士として名が廃るからな」
そんなこと無いとは思うが、真実を知らないままでは確かに汚名を着せることになる。ここは本当の事を言うべきか…。
「では、参る‼︎」
「え、ちょっ、早くない⁉︎」
「うるさい!戦闘はいつも突然だ!」
そういうと騎士さんは突きの構えでこちらに突っ込んできた。昨日より数段速くなっている。
こちらも負けられないので、愛刀を構え、突きに対応する。タイミングを図り、するりと避けると騎士さんは迷いなく剣をこちらに振り抜く。当たったら即死だ。
「騎士さん⁉︎ 危ないですよ!」
「当たり前だ!戦闘だからな!」
「なんてこったい…‼︎」
やはりここは、騎士さんに事の真実と実力の差を分かってもらうためにも、本気で倒しに行こうと決意する。
まず、鎧の胸当ての部分。肩の辺りの止金を狙い、スパッと切るイメージで振りかざす。見事止金は切れ、胸当ては外れる。
「っ⁉︎ 何⁉︎」
驚きを隠せない様子の騎士さんを横目に、次は腕の部分。腕の内側にベルトがあるため、とても切りにくい。しかし、ここもなんとか切り通す。
「……っ⁉︎」
もはや声も出ないと言った表情の騎士さんに
トドメとして、兜の部分を空高く切り飛ばす。
「…あっ……あぁ……」
「どうでしょう。俺は奏連流の心得を持っています。これで分かりましたか?おそらく俺には敵わない」
「そ、奏連流⁉︎」
「奏連流ってなんですか?」
物見客の中からララの声がする。俺が答えようとすると、騎士さんが語ってくれた。
「【奏連流】とは、世界屈指の武術の流派だ。特に奏連流は、秀でた武器を持たず、ありとあらゆる種類の武器を操るという恐ろしい流派だ…」
「それだけ知っていれば十分じゃん。俺に負けたことは、何も恥じることじゃない」
「……。」
何か不満そうな顔をこちらに向けてくる。確かに俺はアイテム商人だが、モンスターを討伐するため、武術は必要だったのだから仕方ない。そんな事を心でボヤいていると騎士さんがこんな事を言い出したのだ。
「ロッド商人。…いや、ロッド様。私を弟子にして下さい!」
「え、…えぇ⁉︎」
こうして女騎士さんとの出会いの物語は幕を閉じる。