十日目・昼間・謎の男
最近本当にたるんでいる。良くそう思う。現に今、背後からの奇襲に気づかなかった。
「おやおや困りますねぇ…その子は私が保護する予定だったのですが…」
「何が困るって言うんだ?保護するだけなら、俺が保護したって同じだろう」
「君のような少年に、重症のその子を治療できるのですか?」
「人を背後から殴るようなやつよりも、よっぽど信頼できる医師を知ってるよ」
和解なあり得ない。
お互いがお互いを牽制する。
お互いがお互いを危惧する。
しかし、動きがあったのは俺でも男でもなかった。
「…ここは危ないッ⁉︎」
野生の勘か、それとも単に俺達の顔が怖かったのか。少女は危険を察知したようだ。
「おやお嬢ちゃん。私の後ろに隠れていなさい」
「…いや」
「早くしなさい。その少年は君を連れ去ろうとしてるんだよ?」
「…あなたも同じ」
「……。うるさい小娘だ。堕ちろ」
今までの温厚な表情からは想像出来ないような、とても低く黒い声で男がそう言うと、少女は地面に伏せてしまった。深い眠りについたかのようにピクリとも動かない。
「おい…まさかそれ……」
「"魔法"ですが何か?」
この男、確実にヤバイ。悪徳商人なんて枠に収まらない。直接相手の身体に干渉する魔法を使って、対象を強制的に操作する。普通の人間がする事じゃない。
「まさに外道。って言ったところか」
「言ってくれますね」
そう言う男の手は深い藍色に輝いている。
一瞬、男が手を振り上げる素振りを見せたその瞬間。前方へ全体重をかけ、つま先を使い男へ飛びつく。
一瞬にして距離を詰められ戸惑う男だったが流石と言うべきか、やはり戦闘慣れしているのか素早い動作で避けられてしまう。男はこちらから距離を取るように後方へ下がった。
「大人しくしてもらいましょうか」
深い藍色に染まった手をかざすと、火の玉のような球体が高速でこちらに飛んでくる。瞬時に球体の位置を目視し、認識する。
「目くらましにもならねぇよ‼︎」
小太刀で防御するまでもなく、スイスイと軽い身のこなしで躱していく。球体の軌道は完全な直線だった。しかしその余裕は災難を引き起こす。球体の位置を目視している間、完全に視線は球体を追っている状態だ。これがいけなかった。
男は俺との戦闘を早々に切り上げ、逃げるように少女を抱えて走り出した。
「くそっ‼︎」
思わず声が出てしまう。男はもとより戦闘する気は無かったのかもしれない。ほんの少しでも時間を稼いで、その隙をついて逃げる。確かにそれが一番賢明な手段かもしれない。しかしこちらにとっては迷惑極まりない。なんせいちいち追わなければならないのだから。
男を追おうとして前へ出た瞬間、足元に設置された地雷に気付く。勢い良く走り出そうとしたその勢いが完全に無くなってしまったが、なんとか体制を持ち直し地雷を飛び越え走り出す。




