十日目・昼間・君は…
馬車と汽車を乗り継いで四時間。少々北方の森へとやって来た。【リントの森】とは比べ物にならないくらい大きい。そして奥は薄暗くなっている。気味が悪い、と言う程でもないが、ここをピクニックしたいかと聞かれたら即答で拒否するだろう。その代わりと言ってはなんだが、あまり人の立ち寄らないこの森には、良い素材になりそうな獣達がたくさん住んでいそうだ。狩りの穴場でも知っていれば罠を仕掛けられたが、生憎ここに来るのは初めてだ。
「さて、さっさと終わらせて帰ろうか」
誰に言うでもない独り言をボソッと呟き、森の奥へ足を踏み入れた。
陽の光が十分に行き届いていないこの空間では、獣の気配を感じ取る事はとても重要で、万が一アイテムの採取中に襲われでもしたら一溜まりもない。ましてそれが、小型で毒をもった厄介なヤツだと尚更だ。なんだかんだで大型の獣は、気配を消し切れてない分、扱いが楽なのだ。
パルリスの樹木は思っていたより早く見つかった。木の幹が少々うねっているのが特徴で、周りの木々より目立つからだ。枝はよく撓っていて、木刀には良いのかも知れないが、木材にするには確かに難がある。そんな樹木の幹に斬り込みを入れて、樹液を持って来た瓶に入れる。粘り気はあまりなく、サラサラしているように感じた。これで王女様の期待の品は調達できた。あとはそこら辺の薬草や何かを採取して帰ろうか。
カチカチ…
「(何の音だ…?)」
カチャカチャ…ガチャ
「(金属音か……)」
ガリガリ……ガン‼︎
「(鉄を壊そうとしてるのか?だとすれば、罠にかかった獣かな?)」
……取れない…
「(人の声⁉︎まさか人が罠にかかったのか⁉︎)」
聞こえてきたのは少女の声だった。もし少女が罠にかかったのだとすれば、それはとても危険だ。罠にかかった時点で怪我を負っているだろう。それにそのまま放っておいたら、野獣の餌になり兼ねない。そうで無くとも身動きが取れない以上は食事もできまい。俺が一番気に入らないパターンは、罠を仕掛けたヤツが奴隷商売をしていた時だ。捕まったが最後、その人の人生はドン底になるだろう。何にせよ、早く助けなければ。
ここまで考えてから、ふと冷静になってみる。単に罠を仕掛けたヤツが、罠にかかった獣を罠から外してるだけなのでは?むしろその方が納得が行く。ってか普通そうだろう。やはり最近の俺は少し毒されたいるようだ。本職を放置して戦いなんてやっているからかな?でも前者の可能性も考えて、少し辺りを散策してみる事にした。
「(あぁ、やっぱり…)」
やはり俺の早とちりだったようだ。音を頼りに声の主を探していたのだが、心配することは何もなかったようだ。確かに罠を仕掛けてあると思われるところには少女の影が見える。だが、それと同時に獣の尾の影も見える。影の大きさから推定すると、獣の大きさは丁度少女と同じか、少し小さいくらいだろうか。あんな小さな子にしては大手柄であろう。それとも父親が猟師でもしているのか。
何にせよ、罠外しに手こずっているようだし、手を貸してあげよう。そう思って近付いていく。近付くにつれて姿もハッキリ見えてくる。こちらが近付いてくるのに気付いたのか、少女がこちらを素早く振り返った。少女と目が合う。じっとこちらを見つめて、疑いの目を離さない。少女の姿を改めて確認した俺は思わず声を上げてしまった。
「君は…獣人の子供なのか……⁉︎」




